第三話:魔人部隊
一度執筆したものを、大部分書き直ししたため、変なとこがあるかもしれないです。
宙に浮く光の玉に意識を集中し、形を留めるように意識する。
「うまく出来るようになってきたわね」
フレイアさんの言葉通り、僕は光の玉を出すだけならばずいぶんと上達していた。どうやら、僕の身体はちゃんと安定してきており、魔法を使う分には問題無いようだ。
僕たちは今、訓練場にいる。ブルドから話だけは聞いていたが、聞くのと見るのでは大きな違いだった。とにかく広いのだ。訓練場と聞けば、広いと思うのは当然だろう。しかし、それは屋外での話しだ。そう、驚いたのはここが室内だからだ。ドーム状に造られたこの空間は、石造りの王城の中にあるにはあまりに不自然だ。ブルドが言うには、この訓練場は魔王城が造られる前からあるらしく、詳しいことはわかっていないらしい。
その訓練場の片隅に僕らは居た。少し向こうではアギト達魔人部隊が訓練をしている。光の玉を出すだけの魔法ではなく、炎や雷など、様々な魔法の飛び交う、僕にとってはまさに異世界な光景が繰り広げられているのだ。
正直な話、ここで魔法の練習なんかしてないで、じっくりと見学をしたい。
「ねえ、フレイアさん。ちょっと見学していいかな?」
そわそわと向こうに視線を送る僕に気づいていたのだろう。フレイアさんは苦笑いするとすぐに承諾してくれた。というよりも、どうやら始めから見学させるつもりで連れてきたようだ。
魔族にとって、魔法を使うのに一番必要なのは想像力だし、実物を間近で見るのが一番勉強になるとのこと。
浮かれて走り出そうとした僕の背に、フレイアさんの爆弾発言が落とされた。
「それに、あなたにはこの魔人部隊に入ってもらうことになるしね」
ぴたっと僕の足が止まった。ああ、聞き間違いだろうか。でも、確かに僕の耳は聞き取ってしまった。僕が魔人部隊に入る、フレイアさんはそう言った。
「ど、どうしてそうなるんですか! 僕があそこに入るなんて無理に決まってるじゃないですか!」
僕は魔法の飛び交う訓練場の中央を指差す。アギトの指揮の下、数十人の魔人たちが、木剣を片手に模擬戦闘を繰り広げている。その動きは皆歴戦の戦士を思わせるほど鋭く、繰り出される魔法は、一撃でも食らえば容易く敵の命を刈り取ることを想像させるほどの迫力がある。アギト自身が言ってた通り、彼らはz人魔族の精鋭達。とても僕が入り込めるような存在ではないのだ。
顔を青くして主張する僕に、フレイアさんはなおも言葉を続けた。
「ヤマト君、これはあなたの為でもあるの。魔王になるならないに関係なく、あなたには戦う力が必要なのよ。幸いアギト将軍とあなたは仲が良いみたいだし、必ずヤマト君を強くしてくれるわ」
確かに弱っちい魔王なんてありえないし、魔王にならなかった場合も自分自身を守るための力が必要だろう。しかし、いくらなんでもいきなりこの中に入れといわれても無理だろう。自分で言うのも情けないが、僕はかなりの貧弱者だという自身がある。
反論しようと口を開いた僕を、フレイアさんの言葉が塞いだ。
「わかっているの? あなたはには期限があるのだという事を。魔王になるのならともかく、違うのならこの城から出て一人で生きていかなくてはならない。でも、今魔人部隊に入っておけば、自分を守るだけの力は身につけられるだろうし、場合によっては魔王にならなくても魔王軍の一員として暮らしていくことも出来るかもしれないのよ」
完璧だった。僕はもう反論することもできずに、ただフレイアさんの言葉にうなずくしか出来なかった。
「ヤマトです。今日から魔人部隊に所属することになりました。よろしくお願いします」
ガチガチに緊張しながらお辞儀をする。目の前には僕を見る鋭い目の数々。やばい、ちびりそう。
ああ、見学するだけのはずが、まさかその場で入隊することになるなんて。フレイアさんと共に、見学の申し出をアギトにしにいったところ、僕がこの魔人部隊に所属することになったと聞いたとたん、善は急げとばかりに集合をかけて簡易入隊式を始めたのだ。
「ヤマトが魔王候補だというのは額の紋章をみりゃわかるだろうが、一切こいつを甘えさせないように! 魔人部隊に入ったからには、人魔族の誇りに恥じぬような戦士でなくてはならない! グレイ、俺は向こうでこいつの腕を見るから、ここはお前が指揮を執れ」
「わかりました」
アギトはそう言うと僕を連れて移動した。後ろではグレイと呼ばれた隊員の指揮によってまた訓練が始まった。しかし、去り際にそのグレイに睨まれた気がするのは気のせいだろうか。
「アギト、あのグレイって人…」
「ああ、あいつは魔人部隊の副隊長だ。融通の利かないやつだが、まあいいやつだよ。そんなことより、お前には聞きたいことがある」
真剣な表情でアギトが僕ぼ瞳を見据える。やはり僕が魔人部隊に入るなんて言うのは、どういう冗談だとか言われるのだろうか。さっきはフレイアさんが居たから承諾しただけで、僕みたいな貧弱者なんてパシリでしか使い道がないなんて言われたりして。僕をアギトにまかせてさっさと居なくなってしまったフレイアさんが悔やまれる。
身構える僕をよそに、アギトは言った。
「……フレイアは、部隊の指揮を執る俺のかっこいい姿を見て、なんか言っていたか」
「……」
今あまりの予想外のことに理解するのに時間がかかってしまった。ああなるほどね、フレイアさんね。アギトに何を言われるか恐怖でびくびくしてた僕を前にして、フレイアさんのことを考えていたんだね。君のその真剣な顔が余計に僕を苛立たすよ。
「…まじきもいって言ってたよ」
僕は嘘を言った。