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第一章 一話:魔人アギト

やっと本格的に魔王城での生活が始まりました。

魔界に来て、三十日がたった。地球なら一ヶ月がたったというのだろうが、魔界には九十九日で一ヶ月ということになるらしい。一年は四つに区分されており、今は蒼ノ月四十二日らしい。といったように、ここには僕の常識が通じないことがたくさんある。僕は人生初のカルチャーショックを受けていた。


「…そして大魔王ウルディウスにより、竜王ファフニールは滅ぼされたのでス」


まるで学校の先生のように魔界の歴史を語るブルド。あまりに違う文化にとまどう僕は、ブルドに魔界について最低限の知識を習うことになったのだった。おかげで、もう生活するぶんには問題がなくなった。初めはブルドの外見にびびりまくって授業にならなかったのだが、最近ではもうなれたものだ。むしろ、その姿は別におかしくないと思えるようになった。


「魔王様、ちゃんと聞いていますカ?」


「聞いてるよ。竜王を倒した大魔王ウルディウスは魔界を統一し、現在の形にしたんだよね」


はぁ、とため息が出る。ブルドは細かい性格をしてるから、必ず先日の復習から始めるのだ。これでも近所では神童しんどうとして有名だったんだ。一回聞けば覚えられるのに。あと僕のこと魔王様って呼ぶのは・・・止めてくれないんだろうな。もう注意するのも疲れたよ。


満足気にうなずくと、ブルドは歴史の授業を再開した。

なんで異世界に来てまで勉強しなくちゃいけないんだろうか。僕はブルドの声を聞き流しながらそんなことを思っていた。







「終わったー」


そう言って僕は、魔王城にある食堂のテーブルに突っ伏した。


「あら、ヤマト様。今日はもう勉強おしまいですか?」


目ざとく僕をみつけたミーナは、紅茶を煎れたカップをもってくる。このやり取りも日常化したものだ。はじめの頃こそ、食べ物のたぐいはブルドが直接部屋まで運んできてくれてたのだが、まだ魔王になると決まったわけじゃないのにそれは悪いと断ったのだ。そして今ではこの食堂の常連。といっても、魔王城にはここしか食堂はないけどね。


「うん。午後にフレイアさんと約束があるんだ。それで今日は早めにね」


あー、癒される。なんだかミーナの笑顔を見ると頑張れる気がしてくるから不思議だ。本性恐くても見た目って大事だよね。ほんと、ブルドに断っておいて正解だった。

僕とミーナがのほほんと会話をしていると、なにやら騒がしい音が近づいてきた。


「どうやら訓練が終わったみたいですね」


ニコリと笑って、ミーナは厨房に戻っていった。代わりに、たくさんのいかついおっさん達が入り口から入ってくる。がやがやと騒がしく、金属同士のぶつかる音がする。剣こそ装備してないが、彼らの姿は明らかに戦闘用の格好をしていた。


「疲れたー! 飯だメシ! 肉持ってこーい!」


そのなかの一人が嬉しそうに大声で言った。


「はーい!」


微かに厨房からミーナが返事をする声が聞こえたが、あまりに騒がしくて聞き取りづらい。さっきまで僕とミーナしか居なかった食堂が、今では部屋から溢れんばかりになっていた。

毎度のことながらすごい光景だなーと僕が思っていると、さっきまでミーナが居た席、つまり僕の正面に一人の青年が腰掛けた。


「よー、ヤマト。今日はお前も一緒か!」


どんっ。と音が鳴るほど大盛りに盛られたお皿を持ってきたこの青年の名はアギト。魔王城の兵士であり、魔人部隊を束ねる隊長であるという実はすごい人だ。初めてこの食堂に来たときも、僕が食事してるときに今と同じように魔人部隊の人達が押し寄せてきて、アギトとはそのときに知り合ったのだ。ちなみにさっき大声で叫んでたのはアギトだ。


「うん。今日はこの後予定があるから早めに終わったんだ。アギトは食べ終わったらまた訓練?」


「あったりまえよ。俺たちは魔王軍だからな。これでも魔人族の精鋭部隊、そんじょそこらのやつ等とは違って日々精進してんのさ」


にやり、と楽しそうに笑うアギト。なにが楽しいのか知らないけど、アギトはいつも楽しそうだ。粗野な笑顔に隠れてるけど、アギトは普通にしてればものすごく整った顔をしてる。恥ずかしくて言えないけど、強くてかっこよくて気さくなアギトは、僕の憧れだ。

不意に食堂に歓声が溢れた。アギトも待ってましたと言わんばかりに興奮してる。食欲をそそる匂い。ジューシーな肉を想像させる音。そう、メインディッシュの登場だ。次々と運ばれてくる巨大な肉の塊。そして僕たちの前にもそれが置かれた。


「おぉ〜〜」


十人前はありそうな巨大な肉。アギトは我慢しきれずにさっそく齧り付いた。僕も今すぐに食べたいけど、ここはひとまず我慢。もう少しの辛抱だ。


「おまたせしました」


振り返ると、ミーナが二つお皿を持っている。僕は、ぽんぽん、と隣の空いている椅子を叩いて、お皿を受け取った。

お皿にはパンや野菜などが乗っている。この食堂ではメイン以外はバイキングという形式になっているのだ。でも、何故だかはしらないけど、僕の分だけはミーナが持ってきてくれる事になっている。前に自分でとったら怒られた。

自然に僕の隣に座るミーナ。もうお決まりの位置だ。


「…うらやましいね〜」


アギトが恨めしそうに見てくる。そういえば初めて会った時も、こう言って絡んできたんだっけ。てか口から肉がはみだしてるよ。


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