魔王について
説明長いです
「ごちそうさまでした」
結論から言って、ミーナの作った料理はかなりおいしかった。なにが入ってるのかわからないと怖がる僕を押さえつけ、無理やり一口目を食べさせられたのだが、料理長というのはだてじゃなかったらしい。
「おいしかったですか?」
「うん。とってもおいしかったよ」
よかった。と可愛らしく笑うミーナ。本性はかなり恐いけど、普段の彼女はおとなしいようだった。そして、一緒居るとなぜだかほっとできた。
そんなこんなでミーナと談笑していると、こんこんと扉がノックされ、赤髪の女の人が入って来た。
「フレイア様!」
ミーナが驚いた様子で立ち上がる。フレイアと呼ばれた女の人も、ミーナがここに居ることに驚いているようだった。
「あら、どうしてミーナがここにいるのかしら」
「え、えっとですね、魔王様が食欲がないというので、し、心配して来ました!」
えらい緊張だ。どうやらこのフレイアさんはとても偉い人らしい。
「そう。でもその様子だともう大丈夫みたいね」
空っぽの食器を見た後、僕を見てフレイアさんは微笑んだ。僕は、顔が熱くなるのがわかった。
フレイアさんはゆっくりとした足取りでさっきまでミーナが座っていた椅子、僕の正面に腰掛けた。
「やっとあなたとゆっくり話しができるわ。今日はあのうるさい奴等は来ないから安心してね」
僕の目を見て優しく言う。正直こんな美人に見つめられるのに慣れてないから、ますます顔が熱くなる。うるさい奴等とは威嚇してきた人達のことだろうか。
「大事な話があるの。それは、あなたの話」
一瞬にして顔から血の気が引いて行くのが解った。
「魔王についての話よ」
魔王は魔王城にある魔法陣によって選ばれる。魔法陣は魔王たるに相応しい魂を探し、魔王城に召喚する。その効果範囲は異世界にまで及ぶらしい。そして、魔王になった者は強制的に魔族へと転生させられる。
転生した魔王の額には瞳を表す紋章が現れ、その紋章は魔界を統べる力を持つという。
フレイアさんの話はそのようなものだった。
「その魔法陣に選ばれたから、僕に魔王になれっていうんですかっ」
僕は苛立たしげに言った。そんなわけの解らない物のせいで僕の人生がめちゃくちゃにされるなんて、勝手にも程がある。今すぐにでも元の世界に帰してほしい。
正確に僕の言いたいことが伝わったのだろう。フレイアさんは言い辛そうにこたえた。
「実際のところ、必ず魔王にならなくてはいけないということはないわ。でもあなたはこの世界で、魔族として生きなければならないわ。それは絶対」
「なんでっ!」
テーブルを叩いて立ち上がる。そんな理不尽なことがあってたまるか。勝手に呼び出して、魔族に転生されて、さらにはもう帰れない? もしかしたらという一抹の望みを打ち砕かれた僕の衝撃は尋常じゃなかったが、その怒りをなんとか現状把握のために押さえつける。
「くそっ。それで魔王にならなくていいというのは置いといて、どうしてもう元に戻れないか、詳しく教えてよね」
「いいわ。まず、あなたを召喚した魔法陣については、実は何もわかっていないの。あれは初代魔王が創った物で、その役割は魔王になる器を持った者を召喚するといったことしか伝わってないの。何千年もの間解明しようとしてきてるけど、今だに解明の糸口さえ見つかってないわ。そもそも異世界なんてものの存在自体が不明なのよ。そして転生についてなんだけど、主に他の種族の者が魔族に転生するには、上位の魔族との契約が必要なの。そして元の存在に戻るには、契約した魔族が契約を破棄するか滅びるしかない。そして、あなたには契約した魔族なんてものが存在しない。おそらく、契約による魔力付加の転生と違って、元の存在自体が創りかえられたのでしょう」
詳しく教えてなんて言わなければ良かった。難しすぎて全くわからないじゃないか。もう一度、今度は易しく教えてなんて恥ずかしくて言えない。まあとにかく無理ってことはわかったんだ。次の質問へいこう。
「へ〜、なるほどね。それで、魔王にならなくっていいていうのは本当なの?」
なんだかさっきから隣で直立不動だったミーナから「お前ほんとにわかったのかよ」的な目線が来るが今は真剣な話の途中、ここは無視だ。
「本当よ。実際、過去に魔法陣に召喚されて魔王にならなかった者達もいるの。でも、その場合は確実に魔界は戦乱の時代に突入してる。そしてその魔王にならなかった者達も皆殺されているわ」
「……」
飲み物を飲んで緊張でからからになった喉を潤す。ミーナが煎れてくれた紅茶は、とっくに冷たくなっていた。
これは魔王になるか魔界を戦乱に導いて殺されるかの二択ってことですよね。魔王もしくは死亡ってことだよね。