表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

戦いの結末(2)

アギトの目線です

眩しいほどの紅い光に照らされた巨大な体躯、それを初めて見たものは、きっと絶望と言う言葉を覚えるだろう。それに遭遇してしまったことは、もはや災害にあったと思うしかないほどの、理不尽な力を『それ』は有しているのだから。




風を切る音。凄まじい勢いで振り払われた超巨大な尻尾が、俺のすぐ傍を通過した。少し遅れて来た風が頬を撫でる。


「はぁ……はぁ……」


回避するための跳躍から着地すると、その勢いで膝が力なく揺らいだ。疲労は明らかで、呼吸も荒くなってきている。さすがにガラルドを相手に一対二はきつすぎた。攻撃の合間に襲ってくるフードの女の撃つ光線が、巧みに俺を追い詰めていく。


「どうした。避けるのに精一杯で、反撃など出来ないか」


ちくしょう、嫌味なこと言ってくれるぜ。


普段よりも数段低くなったガラルドの声が、空気を震わせた。


俺は目の前の敵、今や巨大な竜へとその姿を変えたガラルドを見据えた。姿を変えたというよりは、元の姿に戻った、と言ったほうが正しいか。小山のように巨大なその姿は、まさに最強の生物に相応しい威圧感を持っている。鋭い牙に巨大な爪、そして筋肉の鎧の上に、強固な鱗という最強の鎧を重ね着しているのだ。生物最強の攻撃力を持ち、同じく最強の防御力を誇る圧倒的高位の生き物、それが竜魔だ。俺の五倍はあろうかという大きさの巨体、これで翼を広げたら、まるで飲み込まれるような錯覚に落ちいってしまう。


視界の端で、何かがチカリと輝いた。来るだろう光線の軌跡を予測して避ける。かわしたところに、巨体に似合わぬ素早さでガラルドが攻撃を仕掛けてくる。斬られるというよりも、潰されてしまいそうなほど巨大な爪を、後ろに跳躍することでかわす。あれを防御するなどありえない。きっと、いくらフィビトだろうがひしゃげて使い物にならなくなるだろう。


超重量級の攻撃に気をとられた隙に、隅っこでひらひらと動いていた物体が、俺の後ろ、死角へと消える。


「くそっ!」


脚に力を籠め、一気に移動する。どちらか一方でも視界から逃したら命取りだ。背後に回られるのだけは危惧しなくては。敵の動きは実にやっかいだった。特に女のほうが、巧妙に俺の背後へと回ろうとするのが実に戦いにくい。普通ならしばらくは動けないほどの攻撃を喰らわせたというのに、女はそんなことは感じさせないほど機敏に動いていた。

三人で、綺麗な三角形を作るような位置へとうまく移動していくが、俺の不利は明らかだ。


回避に専念するだけなら、なんとかなるだろう。でもそれじゃあ、いつか必ず力尽きる。魔力の操作が難しい『雷神』は、かなりの集中力を必要とするから、あまり長時間使うわけにはいかないし、かといって短時間で勝負するには、敵二人の連携がうますぎる。『雷神』を使う時は、ここぞというときだ。


正直な話、ここは逃げるが吉だろう。ヤマトもとっくに魔王城に着いてるはずだし、もはやここに俺が居る意味はないんだから。しかし、実際に逃走しようとすると、敵の巧妙な立ち回りに阻まれる。度重なる戦闘の余波で、周囲の光景は、ここが森の一部だったとは思えないほどに荒れていた。木々がなくなって視界がよくなってしまったため、よけいに逃げづらい。『雷神』を使って逃げようとしたところで、空を飛ぶことのできるガラルドから逃げるのはむずかしいだろう。


「なあ、ガラルド。お前の目的は、ヤマトを殺すことか?」


ガラルドに話しかける。気になっていたのだ。そもそもヤマトが召喚された時、ガラルドはその場に居たはずだ。いくらフレイアも居たとはいえ、結界の中でもヤマトを殺すことは出来たはず。いや、いくらガラルドでも結界の中から、魔王候補を殺して逃げるのは無理か。だが、それにしたって今回の強襲はおそまつ過ぎる。俺たち魔人部隊は、今回の祭りは警戒を強めていた。それは祭りを狙った攻撃があるかもしれないと思ったこともあるが、なによりも、前回のヤマトのレーヴァンテイン訪問で、目撃情報が出てしまったからだ。レーヴァンテインでは今、魔王候補の噂が広がっている。そんなことがあれば厳戒態勢になるのは当たり前だし、いくらなんでも強襲する時期が悪い。そもそも、もしヤマトが狙いなら、この強襲はもう失敗で、意味のないもののはず。


「あの魔王候補の少年か。まあ、興味が無いとは言えないが、今用事があるのはお前だ、アギト」


「やっぱりか」


最初からそうじゃないかとは思っていた。女が撃ってきた最初の攻撃、あれは俺を狙ったものだった。ヤマトを狙ってたとしたらおかしな行動だし、なによりも攻撃前の殺意が、狙撃するにしてはばればれだった。狙いは俺だと思ったからこそ、あのままヤマトと一緒に行動をすることを避けたのだ。俺を狙うとしたらそれなりの強さを持つ奴が相手だろうし、そんな敵と戦うとすれば、魔人部隊では手も足も出ない。


「それで、一体なんのようなんだ」


どうやら会話に乗ってくれるらしいから、今のうちになんとか打開策を考えねば。

一度喉をうならせると、ガラルドは話し始めた。


「アギトよ。もう召喚された魔王の時代は、終わりだと思わないか?」


「終わりだと? そんなことはありえない。魔王は何度でも現れるし、俺たちだってそれを望んでいる」


巨大な竜と人魔が話してる光景は、どんな感じなんだろうか。女の位置を確認しつつ、俺は今の状況を整理していた。


「まあ聞け。お前は人魔には過ぎた力を持っている。力こそが全て、お前だってそう思っているんじゃないのか、アギト」


「確かに力は必要だ。でもそれはお前たちの言う破壊のための力じゃない、何かを護るための力だ」


くっくっく。とガラルドが笑った。低い唸り声にしか聞こえないそれは、耳に響いてひどく不快だ。


「お前の言う護るための力と、破壊する力の何が違うというのだ。アギト、お前には下等な奴らとは違う本物の力がある。数だけの獣魔や、水がなければ何も出来ない水魔とは違う、最強に近づける力だ」


「……いったい何が言いたい」


「竜王様の下へ着け、アギト」


俺の口から失笑が漏れた。こいつは誰にむかって言ってるかわかってるのか?


「断る。俺はヤマトがなる魔王に忠誠を誓う」


「あんな何も取得とりえのなさそうな少年に、そんな価値はあるのか? 魔王になったとて、所詮『魔眼』に借りる、まがい物の力にたよるしか能がないだろう。『魔王』は本物の力を持つ者がなるべきだ。そう、竜王様のような」


少しだけ、ガラルドから感じる圧力が強くなってきた。それにあわせて、俺も身構える。


「ガラルド、お前にはヤマトのいいところなんて、わかんねえだろうな」


ヤマトが召喚されて半年、いろんなことがあった。そして、たくさんのヤマトの一面を見た。

始めのころは、よく目を腫らしていた。きっと、もう帰れないだろう故郷を思って泣いていたんだと思った。でもしばらくして、あいつは魔王城に少しでも馴染むように努力をし始めた。おどおどと話しかける様は、なんだか痛々しかった。だから、俺から話しかけた。あの時の嬉しそうな顔は忘れられない。それからは、あいつから俺に話しかけるようになった。そして、ヤマトが魔人部隊に入ってからは、ほとんどの時間を一緒に居た。

この世界をあいつが知っていくにつれて、俺もあいつのことを知っていった。

だからこそ言える。ヤマトなら立派な魔王になると。人の痛みがわかり、誰かを想う大切さを知っているあいつなら、魔界を平和に導いてくれると。


「最後にもう一度聞こう。竜王様の下につくんだ」


「何度聞いたって答えは一緒だ。そんなもん断る」


答えた瞬間、ガラルドが吼えた。響きわたる咆哮。その轟音は衝撃波となって、周囲の物全てを叩いた。


「予想はしていたが、馬鹿な奴だ。どうせあのヤマトとかいう魔王候補は殺される。無力な小僧など、この魔界ではのたれ死ぬ運命しか待ってないぞ!」


「殺されはしないさ。そのために俺は居るんだからな!」


交渉は決裂。少しだけ稼いだ時間では、結局今の状況を打開する名案は浮かばなかった。


「ヤマトが魔王になれば、争いは強制的に無くなる。それまで護れば、お前たちの負けなんだよ、ガラルド」


「我らがいつまでも下等な人魔の支配下に着くと思うな! いいか、冥途めいどの土産に一つだけ教えてやろう。お飾りの魔王を倒す方法は、もう見つけてあるんだよ!」


「なに!?」


翼を広げて、ガラルドが跳躍した。翼を羽ばたかせ、上へと加速していく。風が吹き荒れ、砕け散った木の破片が襲いかかってきた。

まるで嵐の中にいるようだ。体を覆うように炎の結界を張り、防御してやりすごす。フードの女の姿が見えないが、どうやらガラルドの背中に乗っているようだ。


中空で、ガラルドは静止した。紅い月を背後に、巨大な影が翼を広げている。最強の生物である竜、その口元が、不意に紅蓮の輝きを放ち始めた。赤から青へ、青から白へと、色が変わっていく。地上は紅い光ではなく、真っ白な光に照らされた。


「こいつはっ!」


肌が焼けるような熱が、ここまで伝わってくる。ガラルドが放とうとしているのは、竜魔族最強の攻撃だ。口から吐く炎は、幾千の敵を滅ぼし、視界に入る全ての物を燃やし尽くす。個体数の少ない竜魔が、他の種族から頭一つ出て強いのは、この攻撃を持っているからと言ってもいい。この広範囲の攻撃は、近くに居るならまだしも、この距離では回避不可能だ。


「『雷神』!」


俺の体が、白銀の輝きに包まれていく。生き残るには、ガラルドの攻撃を相殺するしかない!


フィビトの刃に、魔力をたぎらせる。俺も初めて見るから、相手の攻撃の威力が予想できない。今は全力で、迎え撃つ。


最強の生物の最強の攻撃。それを前にして、俺の口元が再び歪な笑みを浮かべた。力と力の正面衝突。前回ガラルドと戦った時は、この攻撃を見る前に終わってしまった。小細工無しで、互いの最強の技をぶつけあうことを考えると、こんなにも胸躍る。ガラルドにはああ言ったが、俺が力が好きなのは、紛れも無い事実だった。


地面を踏みしめ、体中のばねを使い、全ての力をこの一撃に伝える。


「オォォォォッ! 貫けっ、フィビトォォォォ!」


上空に向けて、真っ直ぐ剣を突き上げる。俺の魔力が魔剣の力で増幅され、直線的ないかずちとなって放たれるのと、ガラルドが炎を放つのは、まったく同時だった。


目が焼きつかんばかりの閃光が空をかける。あまりの爆音に、まるで世界から音が消えたかのようになった。俺の目に映るのは、視界いっぱいの雷の光と、攻撃の余波で弾け飛ぶ周囲。あまりの出力に、俺を中心に衝撃波が発生したのだ。


雷と炎がぶつかり合った瞬間、世界が震えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「魔王な少年」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ