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第十一話:戦いの結末

不意に、部屋が揺れた。遠くから聞こえる爆発音。異常事態を察知した僕とミーナは、急いで魔人部隊の居る正門前へと走った。


「グレイ、何があったの?」


険しい顔をしたグレイ。いつもより深い眉間のしわに、何かよくないことが起こったと思った。周りに待機している隊員たちも、なにやら忙しなく動いている。


「わからん。隊長か、もしくは敵の攻撃の余波だろうとしか言えない」


「まさか……!」


そんな馬鹿な! アギトの去った方向からして、戦っている場所は魔王城から相当離れているはず。ブルドに聞いたことがあるけど、魔王城は結界によって全方位護られているらしい。それがどのくらいの強さかは知らないけど、魔王城が造られてから一度も破られたことがないというくらいだから、すごい強度を持っているはずだ。離れた場所からここに衝撃が伝わるほどの攻撃なんて、想像も出来ない。これが敵の攻撃だとしたら、いくらアギトでも無事ではすまない。

アギトが戦っているだろう方向を見ても、僕の視界に写るのは、目の前にそびえ立つ閉じられた門と、僕たちを照らす紅い月だけだった。


生暖かい風が、気持ち悪く纏わり着いた。


何かの準備をするかのように忙しなく動いていた隊員の一人が、グレイに報告に来た。


「副隊長、準備が整いました、今すぐにでも出動できます」


「わかった」


簡潔に返事をして、門へと向かうグレイ。


「ちょっと待って。魔人部隊はここで待機じゃないの?」


僕は、当たり前のように出動しようとしてるグレイ呼び止めた。

アギトからは、魔人部隊は全員ここで待機するようにと言われていた。それは、アギトが本気で戦う時、その攻撃が味方である魔人部隊を巻き込んでしまうためだ。一度だけ、念を押されたことがある。それは、敵との戦闘で、アギトが戦い始めたら絶対に近寄らないようにってことだ。居ても足手まといにしかならない、そう言われたのは、僕だけじゃなく魔人部隊の隊員全員のようだった。だからこそ、彼らはここで待機していたのだ。


僕を無視して、歩みを進めるグレイ。他の隊員も、すでに門の横に待機している。誰もが何かを決意したような表情をしていて、緊迫した空気が漂っていた。


ここまでくれば嫌でもわかる、彼らはアギトの助太刀に行くつもりだ。


「僕も行く」


グレイの歩みが止まった。


「いけません! ヤマト様はここに居てください!」


後ろから、ミーナの制止する声が聞こえる。

グレイが振り向き、僕の目を鋭い視線で射抜いた。


「殺気を感じただけで腰を抜かしていた臆病者が、何を言っている。貴様が来たところで邪魔になるだけだ。さっきも言ったが、腑抜けた魔王候補はおとなしく部屋でびくびくしてればいいんだよ」


「僕だって魔人部隊の一員だ!」


自分で思っていたよりも、大きな声が出た。

さっきから、不安が胸をぎる。だって、いくらアギトとは言え戦闘に時間がかかりすぎてる。訓練の模擬戦闘でさえ、少しの時間で歩けなくなるほど疲れるのに、アギトが戦闘を開始してからどれだけの時間が経ったというんだ。グレイたちだってそう思ったからこそ、こんな行動にでたに違いない。そもそも、これだけ時間がかかるってことは、それだけ苦戦しているということだ。あのアギトが苦戦してるなんて、他の種族との戦闘というものを見たことがない僕には想像もできない。


「貴様、隊長がなんのために戦ってるかわかっていってるのか?」


「僕と、魔人部隊を護るため……でしょ?」


その言葉に、グレイの表情が歪んだ。

やっぱり。僕はそう思った。考えればわかることだ。


「アギトが居なかったら、今みたいな異常事態はどうしてたのさ? アギトでさえ苦戦する相手なのに、魔人部隊で対抗できるの? そんなの無理だ。僕だってわかる、他のみんなに比べて、アギトは異常なくらい強い。そんなアギトが苦戦するくらいの相手なんだ、足手まといになるのはここにいる全員に言えることだよ!」


周囲の空気が明らかに変わった。より鋭くなるグレイの眼光。


「さっきと違ってずいぶん強気だな。だが、貴様になにがわかる! 毎日血反吐を吐くような訓練をして、それでも足手まといと言われた俺たちの悔しさが、貴様にわかるか!」


グレイのすさまじい剣幕にも、僕は一歩も引かなかった。


「周囲に流されるだけのお気楽な魔王候補が、わかったような口をきくな!」


グレイの言葉は、的を射ていた。確かに僕は、この世界に来てからは周りの言うとおりに行動してきた。自分の意思なんか持ってなかったし、先のことだと言って、魔王のことなんてどこか他人事のように考えていた。それでも、僕にもこの世界で得たものがある。――決心したことがある。


「アギトを助けたいと思うのは、僕の意思だ!」


この世界でできた大切な友達。気持ちを正直に話すことのできる親友。


「僕は魔王になるって決めたんだ。これから魔王になろうっていうのに、仲間一人助けられないで何が魔王だ!」


あたりが静寂に包まれた。これが、僕の正直な気持ち。なにがなんでもアギトを助けに行きたいんだ。


ふと、一瞬グレイが笑った気がした。でもすぐにそれは消え、急激に空気が張り詰めていった。張り裂けそうなほどの緊張感。グレイの周囲を、魔力の奔流ほんりゅうが渦巻きだした。心臓を突き刺すようなこの感覚は、紛れもなく殺気っ!


「……何をいうかと思えば。俺は貴様を魔王とは認めない。知ってるか? 魔王候補なんて、殺せばいくらでも代わりが出てくるんだ。無能な上に腑抜けな貴様など殺して、新しい候補者を召喚したほうがよっぽど魔界のためになるな」


ミーナが間に入って止めようとするのを、僕は手で制した。

さっきまでの僕だったら、きっとこの殺気で怯んでいただろう。でも、ここで負けるわけにはいかない! 護られるんじゃなくて、護るために僕は行くんだから。


ゆっくりと近づいてくるグレイ。一歩近づくたびに、殺気が強くなる。


額を、冷や汗が流れた。


「……何があったか知らんが、その言葉、忘れるなよ」


嘘のように消えた殺気。あれ? と思った瞬間、後ろ首に衝撃を感じた。たちまち暗くなっていく視界。


「う……」


そして、僕の意識は闇に飲まれた。

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