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決意(3)

「魔王が、必要ない?」


それはどういうことだ。だって、僕は魔界に必要だから呼ばれたんじゃないの? 僕は魔界の戦乱を回避するためにここにいるんじゃないの?


「そう、魔界は魔王を求めていない。ヤマト様は魔王の力がどういうものなのか、ご存知ですか?」


「ブルドからは魔王にふさわしい力としか聞いてないけど……」


「魔王の力、それは魔法の異常なまでの強化と、相手を絶対服従させる力です」


淡々と、ミーナは言い切った。魔法の強化と……相手を服従させる力? それってまさに絶対無敵じゃないか。魔法の強化がどれほどのものかはわからないけど、相手が絶対に服従するなら誰が相手だろうと絶対負けない。いや、そもそも敵なんて存在しようがないじゃないか。


「魔王ノ月が放つ光を浴びることによって、魔王候補は第三の瞳が開き、魔王として覚醒します。そして魔王になった者は魔界の頂点に立ち、獣魔、水魔、竜魔、そして人魔を統べる王となる。これは魔王の力を持つものにしか出来ないのです」


どうやらわかって来た。


「つまり、魔界を統一するっていうのは魔王の力、『相手を絶対服従させる力』で無理やり全ての種族を従わせるって意味なんだね?」


頷くミーナ。確かにそれなら簡単に統一出来る。自分の意思に関係なく、相手は僕の命令を聞くしかないのだ。僕が魔界を統一すると言えば、魔界は統一するしかないのだから。でも、そこで問題になるのが、人魔以外の種族は、魔王による魔界の統一を望んでいないということ。だから、僕の命は狙われる。それはそうだ、したくもない事を無理やりさせてしまうような力の持ち主なんて危険極まりない。


言いづらそうに、ミーナは口を開く。


「でも、相手を服従させる力は、強い力を持つ者には効きづらいんです。だから、もしヤマト様が魔王になったとしたら、一番最初にすることは各種族の王を倒すことになります」


初めて聞く事実に僕は驚いた。でも、それを質問するよりも先に、ミーナは本題に入った。


「これで、どうして魔王が狙われるかはわかったと思います。そしてどうして、あたし達がヤマト様を護っているのかも。でも、……もし、魔王候補があたし達の希望になりえない存在だったら、どうしますか? 魔王候補を護っているのは人魔。でも、その人魔が……魔王候補をいらないと判断した時です」


顔から血が引いていくのがわかった。人魔に要らないと判断されたとしたら。そんなこと考えたこともなかった。僕は反射的に、ミーナから距離を取った。ベッドの上にいるから意味はないとわかっていても、僕はそうするしかなかった。ミーナが言っている意味。それは、僕にとって想像だにしなかった真実。


「ヤマト様はさといお方です。そう、魔王候補の命はあたし達が握っているんです」


ありえない。だってそうでしょ? 僕はいつミーナに殺されてもおかしくなかった。そう、ミーナは告げたのだから。


「魔王候補が人魔によって殺されることは、今までも何度かあったそうです。魔王は人魔の希望。それは魔王が、魔界を平和に導いてくれるかもしれないからです。魔王候補はこことは違う世界から召喚される。きっと、この力が全てだという魔界を変えてくれる。でも、もし召喚された魔王候補に、魔界を平和にしようという意思が感じられなかったら?」


この恐ろしい話を、僕はこれ以上聞いていたくなかった。でも、耳を塞ぎたいと思う気持ちととは裏腹に、僕の体は動かなかった。

僕は気づいてしまったのだ。魔王候補というものが、どういうものかを。以前フレイアさんが言っていた。魔王候補が死んだ時、額にあるこの紋章は消えて、魔方陣に勝手に戻り次の魔王候補を召喚すると。じゃあ、魔王になることを放棄したらどうなる? 紋章は魔王候補が死ななければ、魔方陣に返ることはない。なら、それなら、放棄した者はどうなる?


「覚醒する前の無力な魔王候補を殺し、次の魔王候補に期待をかける。歴代の魔王は、そうやって選ばれてきたんです」


放棄した者も殺される。それが答えだ。


「じ、じゃあ、ミーナやアギトもそう考えていたの? 僕が使えないような奴だったら……殺すって」


「……少なくとも、最初はそうでした」


もう何がなんだかわからなかった。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。涙はとっくに枯れ果てて、僕の心は絶望に支配されていった。


「で、でも! 今は違います! ヤマト様はとてもお優しいし、あたしはヤマト様こそ魔王に相応しいと思います!」


必死に取り繕うミーナ。そんなことを言われても、僕が魔王に相応しくないのは、僕自身が一番知っている。


「……」


僕はもう言葉が出なかった。しゃべる気力もない。僕は殺されるんだ。他でもない、魔界に来て最も信頼してきた友達によって。

そんな僕の様子を見て、ミーナが泣きそうな顔をしている。


「本当なんです。信じてください……」


ミーナの声は震え、瞳からは涙が流れた。どうしてミーナが泣くのだろう。僕は代わりのきく魔王候補でしかないし、殺すのは君たちじゃないか。


さっきとは打って変わって、部屋にはミーナのすすり泣く声だけが響いた。


僕は考えていた。今までこの魔王城で暮らしてきて、体験した出来事をだ。あんなに楽しかったのに、全てまやかしだったのだろうか。アギトとたわいもない話しで盛り上がったり、ブルドの授業で見た、ブルドの以外な一面や、いつでも優しく微笑んでくれるフレイアさん、そして、眩しい笑顔で僕の手を握り締めたミーナ。全てが偽りだったなんて、僕には信じられない。絶対に信じたくない。僕が今信頼できるのは誰だ? この世界に来て、僕を護り続けてくれたのは誰だ? それは彼らじゃないか。僕に今出来ることは、信じることじゃないのか。そうだ。彼らが信じられないなら、僕はいったい誰を信じればいいというんだ。どっちにしろ、僕には選択肢がない。彼らを、ミーナを信じて、それでもだめだったら、その時は僕は死ぬしかない。そう思った。


「わかった。ミーナを信じるよ」


え? といった表情で、ミーナが顔を上げた。目が、泣いて腫れぼったくなっている。こんなにも本気で僕のために泣いてくれる人を、信じられないわけがない。ミーナの手を取って、もう一度僕は言った。


「信じるよ。ミーナ」


僕は精一杯の笑顔を作った。ミーナが安心するように。これ以上ミーナが泣かないように。なんだか、そう考える自分が恥ずかしい。これが惚れた弱みってやつだろうか。そう、僕はいつの間にかミーナに惚れていたんだ。彼女の笑顔に惹かれていた。だからこんなにも彼女が泣いているのが辛いんだ。僕は決心した。彼女をどこまでも信じよう、そして、彼女を護ろう、そう心に誓った。


でも、僕の言葉を聞いたミーナは、さっきよりも豪快に泣き出してしまった。震える声で、何度もごめんなさいと繰り返すミーナ。今度は、僕が優しく抱きしめてあげた。頭をなでて、謝らなくていいんだよとつぶやく。きっと、そうせざる得ない理由があったのだ。彼女そして、ほかの人魔の人達にも。


しばらく号泣していたミーナだけど、落ちついたとこで、ぽつりぽつりと話し始めた。


「あたしが魔王城に来たのは、アギトさんに拾われたからなんです。あたしの住んでいた村は、獣魔領と竜魔領の間にある、とても小さな人魔の村だったんですけど、ある日獣魔の夜盗に襲われたんです。いつもなら、村にお金や食料が無いことがわかればすぐに帰ってくんですけど、その日は違ったんです。村人を、無差別に殺し始めたんです。村の男の人はバラバラに切り裂かれて、女の人は犯されながら、原型もわからないほどに殴られていました。あたしは、それを食料倉庫に隠れて見てたんです。村に昔からあった、獣魔の嗅覚にも絶対ばれないよう結界のはられた場所。あたし一人だけがそこに隠れて、そこからお父さんやお母さんが殺されるのを、自分が殺されないようにと願いながら見てたんです」


途中、何度もしゃくり上げながら、振り絞るように話すミーナ。僕は、ミーナをなでながら黙って聞いた。


「気がついたら、夜盗はいなくなってました。呆然と結界から出たあたしは、血のむせ返るような臭いのする村で、たった一人の生き残りでした。そんな時、アギトさんと会ったんです。一緒に村人の体を集めて、お墓を作ってくれました。そして、魔王城に来ないかと、誘われたんです。魔王城に来れば、夜盗に襲われることもないし、平和に生きていける。それに魔王だって召喚されるだろうから、もうこんなことが起こらないようにと、直接お願いできるかもしれないって。あたし、一人だけ隠れて生き残ったのが、本当に辛くて、だから、魔王様にお願いして、少しでも罪の意識から逃れようとして。あたしは、本当に卑怯な女で……」


最後の方は、聞き取れないほど乱れていた。ミーナは、こんな小さな肩に、そんなに重いものを背負っていたんだ。魔王の存在に希望をかけて、ここまで来たんだ。きっと、代々の魔王達も、同じような思いを言われたんだろう。そして、その度に対応してきた。でも、ブルドが言うには、魔王が現れるのは三百年に一度だ。人魔の寿命は二百年。きっと、魔王が居なくなる度に、また同じことが繰り返されてきたんだろう。

ミーナの真剣な思いに、僕は答えたいと思った。これから先絶対に、ミーナのような悲しい思いをする子を出したくないと、心の底から思った。


「ミーナ。その願い、僕に叶えられると思うかな?」


ミーナは、僕が魔王に相応しいと言った。僕はそれを信じる。


「はい。あたし達が魔王に求めてるのは、優しさ。あたしは、今までヤマト様の優しさを、すぐ近くで見てきました。自信を持って言えます。ヤマト様こそ、魔界の王に相応しいと」


進むべき道は決まった。叶えよう、愛する人の願いを。導こう、この混沌たる魔界を。僕の一生をかけてでも。


「宣言するよ。僕は、魔王になる」



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