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決意(2)

あの後、城の中から出てきたブルドによって、僕は結局自室に連れてこられていた。考えるのはアギトのこと。あの殺気を感じた直後、すぐに単身敵のもとへと向かってしまった。無事なんだろうか。ベッドの上で、布団に包まれながらそんなことを考えてる自分に嫌気がさす。アギトは僕のために戦っているというのに、僕は安全な場所でびくびくと怖がっているだけなんだから。


あれから、どれほどの時間が経ったんだろう。


もうずいぶんとこうしている気がする。もしかしたら、アギトはもう帰ってきているのかもしれない。様子を見にいこうか。そう思いはしても、実際に行動には移せない。布団から出たくない。一番安心できる場所はここだから。


コンコン、と部屋の扉が叩かれた。


もしかしたら、誰か殺しに来たのかも。以前と同じようなことを考えてる自分を、なんとか落ち着かせようとする。僕にとって、一番安全な場所はここだ。もしここが信じられなくなったら、それは僕が殺される時だ。


「……どうぞ」


布団に顔まで埋めたまま、僕は返事をした。声が震えていた。その情けない自分に、苦笑いする。入って来たのは、ミーナのようだった。もう祭りが終わるほどの時間が経ったのか。失礼しますと言って、ベッドの横まで来るミーナの気配。


「その、大丈夫ですか?」


心配そうなミーナの声。なにが大丈夫なんだろうか。僕は大丈夫に決まっている。だって、当事者のくせに、アギトに全て任せて一人だけ安全な場所に居るんだから。僕は心配されるような価値なんて無い存在なんだから。


「……話は聞きました。まだ、アギトさんは帰ってきてないようです」


「本当に!?」


僕はその情報に、思わず布団から飛び起きた。

アギトは僕の中で最強の存在だ。実際の強さを目にしてきたし、アギトが誰かに負けることなんて想像できない。だから、僕は心の中では、アギトだったら簡単に敵を倒して、すぐに帰ってきてるという期待があった。

僕の行動に驚いたのか、ミーナは目を大きくして僕を見つめている。


「どうしたんですか、その顔」


言われて思い出す。そういえば、けっこうな強さでグレイに殴られたんだった。いちおうブルドに治療してもらったんだけど、口の中も切ったし、たぶん今は腫れてひどい顔をしてるだろう。でも、僕にそれを説明する余裕なんてなかった。不安が胸を支配する。もしかしたら、僕のせいでアギトは殺されたのかもしれない。僕なんかを護るために。こんな、臆病で何の役にも立てないような僕の。


「僕のせいだ」


自分の体を抱きしめる。そうしないと、何かが壊れてしまうような気がしたから。アギトが負けたって決まったわけじゃないけど、まだ帰って来ないってことは苦戦してるってこと。つまり、あのアギトでさえてこずるほど強い敵だったんだ。怖いよ。アギトが居なくなってしまうかもしれないというのが、とてつもなく怖い。

不意に、震える僕の手に暖かいものが触れた。ミーナを見れば、心配そうに僕を見て、優しく手を握ってくれている。

やめて、そんな目で僕を見ないで。ミーナの栗色の瞳が、その暖かい眼差しが僕の胸をえぐる。そんな優しくされるような権利なんて、僕には無いのに。


「そんなに、自分を責めないでください」


「……そんなの無理だよ。だって、狙われてるのは僕なんでしょ? アギトにもしもの事があったら、僕は……」


「アギトさんに、もしもの事なんて起こるはずがないじゃないですか。アギトさんを信じてください。すぐに、いつもの笑顔で帰って来ますよ」


そんなの気休めだ。そう思ってるのに、ミーナの言葉をすぐに信じてしまいそうになる自分がいる。それは楽だからだ。誰かにそう言ってもらって、それを無心で信じるのが一番楽だから、すぐにそれに縋ってしまいたくなる。


「やめてよ! そんなの根拠がないじゃないか! 気休めなんかいらない!」


ミーナに八つ当たりなんかしたくないのに、口からはこんな言葉しか出ない。


「僕のせいでアギトが危険な目にあうなら、僕は魔王なんかにならない! そもそも僕に魔王なんて器なんかないんだ! こんな弱くて、怖がりで、役立たずで、僕に魔王なんて始めから勤まりっこないんだから!」


嫌だ。ミーナは悪くないのに、悪いのは僕なのに。僕はまるで吐き捨てるように、言葉をミーナにたたき付けた。


ミーナはただ黙って僕の話しを聞いている。どう思っているのだろう。こんな自分勝手で、醜い僕は、ミーナの目にどう写っているんだろうか。

自分でもわからない内に、僕は泣いていた。


何もかもが嫌になる。自分の身も護れず、アギトが戦っているのに一人安全な場所でびくついて、心配して来てくれたミーナには八つ当たりして、そんな自分が、たまらなく嫌いだ。


いつだってこの城の人は優しくしてくれた。魔王になるかも決めてない、問題をただただ先送りしてる僕に。もしからしたら、僕が魔王になることを放棄するかもしれないのに。


部屋に響く僕の泣き声。全てが僕を批難してる気がした。皆の今までしてくれた優しさ、僕への期待、この城で過ごした時間、この魔界という世界が全て敵のような気がした。


だって、結局僕は誰かに甘えてきただけなんだ。みんなの優しさを利用して、魔王になんかなるつもりもないのに、誰かがどうにかしてくれるって期待して生きている。


「だから、僕に優しくしないで……」


僕は自暴自棄になっていた。醜い自分を、これ以上曝さらしたくなかった。こんな僕は嫌われて当然なんだ。

だけど、ミーナは優しく抱きしめてくれた。優しく、まるで愛でるように。僕は温かい体温に包まれる。どうして、どうしてそんなに優しくしてくれるの? 僕は最低な奴なんだよ?


涙が、止め処なく流れる。


「そんなに、自分を傷つけないでください」


優しく、何度も頭を撫でられる。


「ヤマト様は、何も悪くないんですから」


その言葉に、少しだけ顔を上げる。どうしてそんなことが言えるのだろうか。


「どうして魔王が狙われるか、ヤマト様は知っていますか?」


唐突な質問。僕は素直に首を振った。


「魔王はあたしたちにとっての希望です。それは、人魔だけでなく、魔界で虐げられているものたち全ての希望なんです」


そこで、ミーナは少し間を取った。僕にどうやって説明しようか、言葉を選んでいるようだった。


「魔界では、力が全てなんです。力の弱い者は強い者の命令には逆らえない。逆らえば殺されてしまう。魔界は、そんな世界なんです」


僕は心臓が止まりそうになった。だって、僕の知る魔界はとても平和で、町だってとても賑やかでそんな様子どこにもなかった。


「ヤマト様は知らないと思います。ここでは、そんなことはないですから。魔王城とレーヴァンテインは、魔界で唯一、弱者が自由に生活できる場所なんです」


自由。その言葉のところに、ミーナの気持ちが妙にこもってる気がした。なんだか話がずれてってる気がするけど、ミーナが真剣に話してるから、僕は黙って話しを聞くことにする。


「最強こそが頂点。魔界では誰もが最強に憧れて、自分こそが最強だと言う人に溢れてる。どの種族も、自分こそが最強だって証明したいと思ってる」


それは、つまり……。


「魔界は、魔王を望んでいないんです」

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