最強を冠する者達(3)
今まであまり触れませんでしたが、魔界の男は、基本上半身裸です。(もちろんヤマトも裸です)
僕は今、激怒している。何故か、それはガラルドさんの発言についてだ。
「まったく、あそこで言い返さないなんて、アギトらしくないよっ」
「どうしたのですカ? ずいぶんとご立腹のようですガ」
今はブルドの授業中。善は急げということで、言った初日から再開したというわけだ。
「だって、魔人部隊が最弱の部類に入るだなんて言われたんだよ? 悔しいじゃん」
僕の愚痴に、ブルドもどう対応していいかわからないようだ。僕がこれだけ怒っている理由、ガラルドさんの、いやここはあえてガラルドと呼ぼう、ガラルドの発言、それは僕とガラルドが自己紹介して、しばらく経った時に発せられた。
アギトの話によると、昔アギトが武者修行をしていた時に、竜魔領のとある田舎でたまたま山賊退治をしたらしいのだが、そこで山賊を討伐しに来たガラルドと偶然出合ったのだそうな。
でも戦闘で殺気立っていたアギトはそのままガラルドにも攻撃を仕掛け、ガラルドからしてもアギトは血に餓えた危険人物にしか見えず、二人は出会い頭にいきなり死闘を繰り広げたのだ。結果は引き分け。そして、二人はそれから友人となった。
ここまではいいのだ、僕が怒っているのはこの後のガラルドの発言。まあ要約すると、人魔のくせにアギトは異様に強い。でもそれってアギトだけであって、他の人魔って皆弱いよね。このような発言を、よりにもよって人魔の精鋭である魔人部隊を横目に言ったのだ!
僕は立ち上る腹立たしさに机を力いっぱい叩いた。
「こんちくしょうっ!」
「おやめ下さい、魔王様」
びっくりしたように、ブルドに止められた。うん、確かにこんちくしょうはなかったよね。
「この野郎っ!」
そういう問題じゃないというのはわかっているけど、どうしてもむかつくのだ。皆が日々どれだけ精進しているかを、僕は直接見ているのだ。あんなこと言われて、腸が煮え返るとはこの事だ。だいたいアギトもアギトだ、曖昧な笑いを返すだけで言い返さないなんて。
どうやらブルドも諦めたらしく、仕方なさそうに授業を開始した。
「わかりましタ。ではちょうどいいですし、今日はそこらへんの事情についてお話しましょウ」
その言葉に、とりあえず僕も矛を収め、話を聞くことにした。
昔、魔界は竜魔族、獣魔族、水魔族、そして知恵を持たぬ魔界の生き物、魔獣の四つに分類されていた。人魔族などは存在していなかったのだ。人魔族は当時、獣魔族として生活をしていた。
では、何故人魔族として、獣魔族とは別になったのか。そもそも、何故人魔族として最初からなかったのか。それは人魔族が戦闘に向いていないためであった。
強靭な肉体と俊敏性を持つ獣魔族、生物の根源たる水に特化した水魔族、そして最強の生物竜魔族、そのいずれにも、それぞれ魔王を名乗る王が居たのだ。最強の下に集う似たような者達、それが種族という分類の始まりだった。つまり、人魔族には魔王を名乗るだけの強さを持つ者が居なかったのだ。
しかし、ある時変化が現れる。それこそが魔界の、本当の意味での初代魔王ウルディウスであった。各種族による戦乱の真っ只中に、突如現れた人魔族の少年。その圧倒的な力の前に、各種族の王は倒され、当時最強として名を馳せていた竜王ファフニールを滅ぼしたその少年は、魔界統一を宣言したのだ。
そして、人魔族が生まれた。人魔族で魔王が現れたのだから、それは必然であった。
「しかし、人魔族において強いのは、大魔王ウルディウスだけだったのでス」
つまりはそういう事なのだ。たまたま魔王が現れたから良かったものの、本来人魔は獣魔族の下につく貧弱な生き物だということだ。
しかし、僕はここで重要なことに気付いた。
「ん? てことはだよ? アギトは魔王の素質があるってこと?」
そう、ガラルドが言っていた通りとするならば、アギトは人魔としては異常に強いということだ。ならば、アギトが人魔の魔王を名乗る事も出来るのではないか。
「いいえ、王を名乗るにはさらに力が必要なのでス。アギト様は確かに人魔としては限界を超えた強さをお持ちでス。しかし、各種族の王もまた、それぞれの種族において限界を超えた者なのでス」
つまり同じ限界突破でも、元のスペックが大きいほうが強いという事か。アギトでも無理だというのに、本当に僕は魔王になれるのだろうか。
「ねえブルド、僕ってそんなに強くないけど、本当に魔王になれるの?」
魔王を名乗るには、魔界で最強でならなければいけない。つまり、アギトよりもさらに強いという化け物のような王達よりも、さらに強くなくてはならないという事だ。
「大丈夫でス。前にも言いましたが、魔眼が覚醒した時、魔王様は魔界を統べるにふさわしいお力に目覚めるのでス」
うーん。確かに以前、授業でそんなことを言っていたけど、全く実感が湧かない。本当にそれだけで強くなれるのだろうか。
魔王になるには、最強でなくてはならない。それは、とても重要な事実だった。