城下へいこう!(3)
「ねえ、あれは何の店?」
僕は気になる店を発見したので、ミーナに質問してみた。
「あそこは武器屋ですよ。入ってみますか?」
「うんっ」
これでもかといわんばかりに即答すると、僕はミーナを引っ張って店に入っていった。
店内は大量の武器で溢れかえっている。そして、そのほとんどが剣のようだった。最近剣術を覚えたものとしては、これほど興味をそそられる物は無いだろう。何を見ようかと店内を見回していると、入り口からアギトが入って来た。他の隊員は入り口前で待機してる。
「ようお二人さん、今日はデートかい?」
ニヤニヤとむかつく顔して、白々しく言う。自分だってフレイアさんの前では、びっくりするくらい顔を赤くするくせに。
「…覚えてろよ」
僕は復讐を心に誓った。
「…それにしても、なんでアギト達はもっと近寄ってこないのさ。僕の護衛で来てるんでしょ?」
「そんなもん、少し離れてたほうが護衛しやすいからに決まってんだろ。お前にはミーナが付いてるんだし、俺たちが近くに居たってやりづらいだけだ」
近くある適当な剣を見ながら、アギトは当たり前のことのように答えた。
そんなもんなのか、と僕は納得することにした。そんなことよりも今は剣を見なくては。
「ヤマト様は、武器に興味がおありなんですか?」
訓練に使っている木剣を、そのまま金属に変えただけのようなシンプルな剣を見ていると、ミーナが横から覗いてきた。
「うん。ほら、アギトとか他の隊員の人達は、皆自分の剣を持ってるでしょ? だから、僕も自分専用の剣がほしいなーってね」
腰にある、なんのへんてつもない剣を叩きながら言う。これはブルドが持ってきた、由緒ある『訓練生専用』の剣らしい。なんでも、何代か前の魔王にすごい剣豪の人が居たらしく、その人が弟子に渡した物らしい。
ぶっちゃけ、有難くもなんともない。だって刃こぼれしてるし。
「うーん。確かにヤマト様の剣よりも、あたしの包丁の方が強そうですね」
確かに。ミーナは腰の後ろの方に、包丁をいくつか取り付けているのだが、なんだか二刀流みたいでかっこいい上によく切れそうだ。
「…二刀流もいいかも」
そんなことをぼやいていたら、アギトに後ろ頭を叩かれた。
「やめとけ、お前には無理だ。それより、剣が欲しいんだったらこれがいいんじゃねーか?」
そう言ってアギトが持ってきたのは、なにやら呪われてそうな、髑髏の装飾がされた剣。あまりの禍々しさに、触るのも憚れるそれは、柄の部分が骨製だ。
これはふざけてるのだろうか。まあ、顔を見る限り、これはふざけてるね。
「もしアギトの剣と交換してくれるなら、それでもいいよ」
アギトは露骨に顔をしかめた。アギトの剣は、魔界でも珍しい魔剣らしい。雷帝剣フィビト、それが魔剣の名前であり、アギトの相棒だ。
しぶしぶと不気味な剣を元の場所に戻すアギト。
僕は結局、はじめに持っていた剣を買った。手に馴染むし、なによりも安かった。弘法筆を選ばずとかっこよく言えたらいいけど、実際は僕の剣の腕だったら、この程度が妥当だろうといったところだ。
人魔族の店主にお金を渡して店をでる。
初めて使う初任給のお金。そして魔界での初めての買い物。僕は今、魔界を満喫しております。
その後も、様々なものを見て回った。魔力で水を操る幻想的な噴水や、様々な小型の魔獣を売ってるペットショップ、中でも占い師がいたのには驚いた。もちろん占ってもらった。恋愛で僕とミーナの相性を占ったら、まあまあと言われた。……まあまあねぇ。
全てが新鮮だった。たくさんの人が話しかけてきて、いろんな魔族を知った。僕の胸は、ずっと高鳴りっぱなしだった。
これが、魔界に住む住人の生活。もっと知りたい、もっともっと発見していきたい。
「こんな楽しそうなヤマト様、初めて見ました」
不意にミーナが言った。うれしそうに笑う彼女。今の僕には、彼女のしぐさの一つ一つも新鮮に見える。いや、そもそも、こんなにはっきりと見るのは初めてかもしれない。
なんて表現したらいいかわからないけど、そう、まるで目の前に下ろされていたフィルターが剥がされたかのように、世界が色鮮やかに見えるのだ。
「うん、僕もこんなに楽しいのは初めてだよ」
繋ぐ手に少し力を籠めて、僕は笑った。この世界に来て、初めて心の底から笑ったきがする。なんともすがすがしい気分だ。
見上げれば、視界に入る紅い月。さっきよりも色鮮やかに輝くその月を、僕は少しだけ好きになった。