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城下へ行こう!(2)

見上げれば、満天の星空の中央に浮かぶ、地球とは比べ物にならないほどの、巨大な紅い月が視界に入る。肌に感じる冷たい風、鼻につく木々の香り、そしてこの開放感!

僕たちは今、魔王城に最も近い町に向かっている。移動は徒歩、護衛となる隊員は少数に抑えたらしく、僕とミーナ、そしてアギトたち魔人部隊の一行は、総勢六名でゆっくりと城下町「レーヴァンテイン」に向かっているのだ。

僕は久しく忘れていた外の空気に触れて、かなり上機嫌になっていた。


「ねえミーナ、レーヴァンテインってどんなとこなの?」


隣を歩くミーナに問いかける。


「さっきから、そればっかりですね」


ふふふ、とミーナが微笑みながら説明してくれる。

レーヴァンテインという名は、大魔王ウルディウスが魔界統一を果たしたときに用いた魔剣の名から取られているらしく、それに恥じない大きな町らしい。

魔界を構成する三つの領土の中央に位置し、まさに魔界の中央と呼べる上に、魔王城に最も近いという、聞く限り、これぞ天下のお膝元といった感じだ。


「ブルド様に教わらなかったんですか?」


「ブルドの話しだと、魔王城を建設したあたりだよ」


たまらず苦笑いして僕は答えた。そういえばブルドから魔界の詳しい地理は習ってない。魔人部隊に入隊してからは勉強する暇もなかったけど、どうやらまたブルドに教えを請う必要がありそうだ。


「ははっ、ブルドのやつらしいな。あいつは昔っから一から全部教えようとするから、肝心なことを聞き出すまでにかなり時間がかかるんだ」


アギトが笑いながら、魔王城に来て初めてブルドと会話した時の話を始める。

紅く照らされた道に、僕たちの笑い声が辺りに響き渡った。


町までの道は木々に覆われていて、そのどれもが初めて見るような奇妙な形をしている。

振り向けば魔王城がだんだんと木々に隠れていくようすが見え、前方には恐らく町のもであろう光が空を照らすのが見えてくる。僕は未知の物への興味のせいで興奮が収まらなかった。







レーヴァンテインに着いたときの驚きようといったら、言葉にできなかった。

太陽の光が届かない魔界は、月によって変わる四種の月明かりに照らされる。現在は紅の月明かりによって照らされているはずなのだが、そんなことを感じさせないくらいにレーヴァンテインは明るかった。外なのに、まるで室内のようだ。

そして、溢れんばかりの人、人、人! 魔王城から出たことのなかった僕にとって、これほどの人数の魔族を見るのは初めてだ。基本的には人魔族が多く暮らしているようだが、獣魔族や竜魔族、さらには初めて見る水魔族までもがそこらへんを歩いている。人魔族ばかりの魔王城ではありえない光景だ。


「……」


開いた口が塞がらないとはこのことだ。

町を照らす街灯に、活気溢れる商店街、そしてそこで商売をしているのは、多種多様な魔族たちなのだ。魔王城のすぐ近くにこんな場所があるなんて、今まで考えもしなかった。


「行きましょう、ヤマト様!」


唖然とする僕の腕を取り、ミーナは商店街へと引っ張っていく。僕は紋章を隠すようにと渡されたフードを、慌てて被った。




「いらっしゃい! おやミーナちゃん、今日はデートで来たのかい?」


見たこともない奇妙な果物を売る獣魔族の店主が、陽気な声で話しかけてきた。毛むくじゃらの体に真っ赤な顔、なんとも人当たりのよさそうな顔をしているその店主は、まるでゴリラほどの大きさの猿みたいな姿をしていた。

僕は、はぐれないようにと繋いでる手をみて恥ずかしくなった。アギトたちは、少し離れてついてきてるし、二人で手を繋いで買い物なんて、デートをしてるようにしか思えない。

慌てて離そうにも、ミーナが強く握っているから離せない。


「そうなんです。それで今日は、彼がこの町に初めて来たって言うから案内しているんですよ」


ついでに食材も買っていっちゃおうかな。と世間話を始めるミーナだが、僕はそんな場合じゃない。ミーナが「そうなんです」なんて答えるもんだから、どんどん顔が熱くなっていく。

これはデートなのだろうか。でも二人っきりなわけではないし、アギトたちがすぐそこで見張ってる。


「…げっ」


僕は重大なことに気づいてしまった。アギトたちが見張ってるということは、僕がデートと言われて赤面しているとこも見られてるということだ。

僕は慌ててフードを目深にかぶり直すけれどもう遅い、あとでアギトにからかわれることは確実だろう。案の定、わざわざ僕の視界に入るようにアギトがにやけ面で移動してきた。

いつか燃やすっ。そんなことを考えているうちに、ミーナは何かを買ったようだった。まいどありー、と言う店主の声を後に、また違う店へと足を運ぶ。


「なに買ったの?」


ミーナが買ったのは、なにやら紫色の物体。形は桃のようだが、見るからに毒っぽい。


「これはエルツの実と言って、とても甘くておいしいんですよ。歩きながら食べようと思って」


はい、とエルツの実を渡される。見た目に気後れしてしまうが、おいしそうにほおばるミーナを見て、意を決して齧り付く。


「どうですか?」


「う、うまい…っ!」


見た目とは大きく違うその味に、僕は驚愕してミーナを見た。その様子ににっこりと微笑むと、ミーナは得意げに話し出した。


「エルツの木は獣魔族の領地に生えていて、月の光が持つ魔力によって育ったこの実は、毎月違った味がするんです。今は紅ノ月ですから、最もおいしい時期ですね」


食べると魔力も少し回復するんですよ。と説明してくれるミーナだったが、僕は食べるのに夢中であまり聞いていなかった。

僕が魔界に来て、一番気に入ってること。それは、食べ物がおいしいことかもしれないと思った。

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