第六話:城下へ行こう!
「そういえば、そろそろ収穫祭の時期ですね」
食事も終わり、訓練の始まる時間までまったりしようとお茶を飲んでいると、唐突にミーナが言った。
「ヤマト様は城下へは行かないんですか?」
亜麻色の瞳を真っ直ぐ僕に向けて聞く。純粋に興味心から来た質問だったのだろう、ミーナはポロリと爆弾発言をした。
「え、城下って何?」
その発言に驚いたのは、ミーナだけではなく、アギトまで驚いていた。お茶が気管にでも入ったのか、しきりに胸を叩いている。
「ゴホッ! お前、まさかこの城から一歩も出たことねーのか?」
無言で頷くと、二人はさらに驚愕する。しょうがないじゃないか。ここに来てからは、勉強や訓練でそんなことを考える余裕がなかったんだから。
でも確かに、魔王城とはいえ、王城があるのだから城下町があっても変じゃない、むしろ当然だ。僕はてっきり、ゲームで出てくるような、誰も来ないような場所にひっそりと佇んでいるのかと思っていた。
「これはいけません! 今日はあたしと一緒に城下へと行きましょう!」
ミーナが決心したとばかりにガッツポーズをとる。しかし、この言葉に慌てたのは僕とアギトだ。
「ちょっと! 僕はこの後訓練があるんだよ?」
「そうだ! こいつだけ休ませるなんて出来ん!」
一応魔人部隊の一員としての自覚が出来てきた僕と、部隊をまとめる立場に居るアギトは、そんなことが出来るわけがないと反対する。確かに城下町はものすごく気になる。でも、他の皆が厳しい訓練をしてるというのに、自分だけ遊びにいくなんて、そんなことは出来ない。
「なに言ってるんですか! 魔王候補ともあろう者が、城の中で引きこもって城下の存在も知らないなんてありえません!」
「でも僕は」
「それに!」
魔王になると決めたわけじゃない。そう続けようとしたが、ミーナに阻まれてしまった。
「魔界の住人を知らない者が、どうして魔王になろうなどと思えますか」
僕の目を見つめてミーナが言う。その悲しそうな瞳は、僕にもっと魔界について知ってもらいたいと、切に願っているようだ。僕は自分の心が読まれてるのではないかと、ドキッとした。
確かにミーナの言うとおりだ。僕は魔界のことはブルドから聞いたことしか知らないし、魔王城に住む人としか会ったこともない。そして、僕が魔界についてなんとも思っていないのも確かなのだ。
僕は何も言い返せなくなってしまった。
「うーん、しかし訓練が…」
まだ悩むアギトに、ミーナは厳しい表情をして畳み掛ける。
「あなた方の本来の役割は、ヤマト様の護衛のはずです。もしや、天下の魔王軍魔人部隊ともあろうものが、城下ではヤマト様を守る自信がないということですか」
やはり、魔人部隊も魔王候補を守るためにここに駐留していたらしい。
今の言葉は、アギトの、いや、魔人部隊の琴線に触れたらしく、食堂の空気がガラリと変わるのを感じた。
「ほっほう。そこまで言われちゃ、後には引けねえなぁ」
ゆらり、と立ち上がるアギト。その目は闘志に燃えていた。食堂を見渡して指示を飛ばす。
「魔人部隊、本日の訓練は城下での魔王候補の護衛に変更! 全員に通達しろ! 各自作戦室に集合、集まりしだい作戦を練る。出発は月が中天にかかる頃だ!」
食堂に居た隊員たちが、返事をして俊敏に解散する。どうやら彼らもミーナの言葉に感化されたらしい、やる気が伝わってくる。
「これでいいんだろ」
そう言ってミーナを見下ろすアギト。ミーナは満面の笑みで頷いた。
しばらく続きます。