無の強者戦・・・?
エレベーターに揺られること五分。
「いや、長くない? どんだけ高いのさ・・・確かに外から見た時は雲の上まで、あったけどさ?」
「普通のエレベーターの速度だからでしょ・・・。一階ずつ登ってくスタンスなんだからね」
「むぅ・・・ハル〜・・・さっきからアリッサが冷たい〜・・・わたしなんかしたかな〜」
「んー・・・。いつもなんかしてませんか?」
「そりゃそうだ・・・。でもこのイベント中そこまで会ってないから何もやらないって〜」
「聞こえてるからね? 別に冷たくしてるつもりじゃないんだけど・・・」
「そーなの? じゃあスキンシップとってもいい?」
「常識の範囲内だったらいいけど・・・」
「じゃあ・・・えい!」
アリッサの腕を掴んで、抱き着く。
「えへへ〜」
「・・・・・・」
「アリッサ?」
「・・・アリッサちゃん、どう・・・し、死んでる・・・?」
ノノがつんつん、とアリッサをつつくが反応はない。
ハルが近付いて・・・ボケをかます。こんなノリいい子でしたっけ。
「いや死んでねーぞそれ」
「あまりにも可愛すぎて気絶かしら・・・?」
「ベルじゃあるまいし・・・」
「・・・くっ・・・不覚。少しとはいえ気絶するなんて・・・」
あ、復活した。って、え?
「え。ほんとに?」
「もう・・・反則じゃない? まるであの子みたいに可愛いじゃない・・・ね、ハル。似てない?」
「え?・・・あぁ! 確かに。ツンを抜けば似てるね〜」
「でしょ? ね、アスカ。ツンデレっぽい台詞言ってみて?」
「えぇ・・・。そんな風に求められると逆にやる気なくなる・・・。けど、優しいアスカちゃんは例えやる気なくしてもやってあげるわ! べ、別に、アリッサの為じゃ無いんだからねっ!」
「きゃー! やっぱり似てる! ちょっと髪染めてみない? 水色にして〜」
「え、え、そこまでは嫌だよ〜。その、あの子って前に言ってた気まずいビデオ借りてきた子?」
「そうよ? というか、今思えば、見た目は今のアスカよりちっちゃいのに・・・どうやって借りたんだろ・・・?」
「んー。なんか危なっかしい子ってイメージだね。ちゃんと目を離さないであげてね?」
「えぇ、分かってるわよ。まぁ、保護者がいるからあたしは別にね〜」
「そか。・・・ん。やっと着いたのかな?」
何となく減速というか、上昇が止まる直前の感覚が。
がらんごろんと扉が開く。
「いぇい、いっちばーん!」
皆が出るよりも早く扉の外へ飛び出る。
目の前に広がる物凄く広い空間。日が差し込み、光を床が跳ね返・・・?
浮遊感。一向に地につかない足。
「あーちゃんっ!?」
「ふぁぁぁぁ!?」
床がないっ!? あ、あっツヴァイ! ツヴァイ!
開かないぃ!? どんどん落下速度が増し、風を切る。
あばばばば!?
《いや、だから・・・落ち着きなさいって。落ち着いて、呼び出すのよ》
「クー・・・うん。《ツヴァイ》!」
クーの声が頭に響き、助言通りに、落ち着いて・・・ツヴァイを召喚する。
ググッと一気に減速し、空中に留まる。
「はぁ・・・何この空間・・・? シュウくんは・・・?」
《アスカ様。この空間・・・何か変じゃないですか? 魔力の流れというか・・・何でしょうか・・・?》
「ん? ん〜・・・この流れ、変なの?」
壁一面に太い魔力の流れを感じる。それは暗闇に包まれる遥か下に繋がってるようで・・・。
「良くわかんないけど、一旦みんなの元に戻らなきゃ」
羽ばたき、戻る。
「・・・あ! 無事だったのね・・・!」
「アリッサ! 迎えに来てくれたの? ありがとー。結構落ちてたみたいだね」
飛び始めて直ぐにアリッサが降りてきて合流。
「もう、いきなり飛び出るからよ。・・・でも助かったわ。こんな情報・・・無かったし。もしアスカとあたし以外が落ちてたら確実にアウトよ?」
「うん・・・戻るのはいいけど・・・どうしようか?」
「そうね・・・一旦あたしが下の様子を探ってくる。地面くらいあるでしょ」
「分かった。それじゃあ、わたしがみんなを連れてくるよ。その途中で合流・・・出来たらいいかな」
「そうね。・・・深そうだし、時間かかると思うから降りれるならさっさと降りてきて。アスカの言葉を借りれば・・・嫌な予感がする。ってね?」
「あはは。わたしもそう思うから・・・気を付けてね?」
ハイタッチして、その場で別れる。
みんなを連れてくるには・・・やっぱりイノセントの力を借りなきゃ、かな?
別れて直ぐにエレベーターへと到着する。
「アスカちゃん! 無事だったんですね!」
「ノノ、久しぶりに心配した」
「あーちゃんっ! 本当にあーちゃんなのよね?」
「無事帰還しましたっ! ちょ、ベル! 窒息するってば・・・」
「アリッサはどうしたんだ? 助けに行った筈だが・・・」
「うん。途中で会って、先に下の様子を見てくるって。わたしよりLvは上なんだから最適だよね。という事でみんな・・・行くよ?」
「行くって・・・」
鞄からイノセントを弾いてエレベーターの真ん中に出す。
「《VA Ver.デストロイヤー》」
『《VA》起動』
「移動に最適なんでしょ? みんなを運べるかな。というか、運べないなら移動に最適でもなんでもないよ! わたしの中ではねっ!」
『・・・・・・了解。脚部兵装を変更。座席部分を生成する』
意見が通った! 素晴らしい対応・・・神対応なAI大好き!
脚に付いていた機械が取り外され、変形し首輪に接続される。
わたしの腕を避け、下に伸びて三人分の座席が生成される。その形はUFOキャッチャーみたいで。
というか一つ足りない・・・。
『肯定・・・現時点では三つまで作成可能』
「んー・・・仕方ないね。ノノは誰かの膝の上に座って?」
「仕方ない。・・・えと・・・」
「わ、わたしは大丈夫ですよ?」
「私も大丈夫だけど・・・いや、プライドを念の為抱えとくわ」
「俺は構わないが、ハルが大丈夫ならそっちだな?」
「・・・ハルちゃん。お願いします」
「あ、うん」
「よし、決まったなら座って?」
三人が座ったのを確認しつつ・・・シートベルトは・・・無いのかな?
「プライド。私達をこの座席に縛って貰っていい?」
──ぎしゃー!
ベルが指示をプライドに飛ばし、編み込まれた鉄糸が全員を縛り付ける。
「あ。イノセント、シートベルトみたいの無いの?」
『バリア展開』
青い障壁が座席周りを囲む。縛る必要は・・・あまり無かったかな?
「それじゃあ・・・口は閉じててね。舌噛みちぎっても責任取らないからっ!」
「っ! ひぁっ!?」
「・・・・・・っ!?」
「あうっ!? 高・・・!?」
エレベーターの扉ギリギリから向かいの壁まで弾き飛ぶ。
ガンッ! と壁に鉄球をめり込ませ、火花を散らし下がって・・・また弾いて飛んで向かいの壁へ。
『推奨、壁に沿っての走行』
「いいアイデアだ! 全速力でお願い!」
空中を飛んで飛んで降りていこうかと思ったけど、そうだよね。遠心力って物がある筈・・・いや、こんな事出来るのか知らないけどね!
体勢を整えて、壁に再びめり込ませ・・・アクセル全開っ!
一気に火花が散り、斜めに走行を開始!まるで工事現場か、作業場か。金属音が鳴り響き、火花の軌跡を螺旋状に作り出し、かなりの速度で降りていく。
「いぃぃやっふぅぅぅ!!」
長くて短い時間。疾走感に心躍る。
終点が・・・見えてきたっ!
踊る二つの光。一人はアリッサ。もう一人は・・・男の子、かな? その後ろには神官服の子。
そして・・・戦っている。二人が、ではない。
───jgjmtpgejsnjwugkm......
理解が出来ない。機械音なのか、肉声なのか分からない声をあげる、巨大な肉の塊と三人は対峙していた。
・・・これは、この状況は・・・!
「ヒーローは遅れてやってくる・・・! みんな、かなり揺れるよ!」
壁を叩きつけ、空中へと身を踊らせる。この距離、この速度、この鉄球の重さ・・・! 全部全部力に変えるっ!
「《廻天之力》!!」
全身全霊っ! 腕を頭上に、二つ鉄球を合わせ、 回転を加え・・・!
肉の塊へ・・・!
ヂッと音が鳴る。
肉の塊は大きく拉げ、体液を撒き散らす。
そのままミキサーして・・・その場を大きく離れる。
「な、なんだっ!?」
「ちょ、アスカっ!?」
「うわわ!?聖なる加護よっ! 《ディヴァインシールド》!」
三人よりも50m程離れ着地する。
「あ・・・ぐ・・・みんな、降りて・・・」
座席のバリアを解除して、みんなを降ろす・・・。
・・・や、ばい・・・。
顔に、身体に体液をモロに浴び、爛れ、溶けていく感覚。痛みも感じずにただ溶けていき、見る見るうちに目の前が暗くなり、HPが、ゼロになる。
───《霊体化》
イノセントは解除され、地面に落とされる。そのまま身体の再構築を始める。
「あーちゃん・・・!」
「あわわわ・・・!?」
「これは・・・ヤバいな」
「ん。近接攻撃はやめた方がいい・・・?」
各々反応を見せて、ベルがわたしを抱き起こす。
「あ。あー・・・うん。・・・ありがとね、ベル」
「その・・・あーちゃん。ローブに穴が・・・」
喉の調子を確かめつつ礼を言う。
ベルの言う通り、あの肉の塊から受けた体液に触れたローブが再構築されても穴が所々空いて肌着が見えてる。これは・・・もう修理どころの話じゃないかも・・・?
耐久値はほぼ無くなってきてる。次全身に浴びたら容赦なく砕け散るだろうね。
「うん。まぁ・・・この戦闘で最後かな? ノアには申し訳ないけど・・・。さ、前線に行くよ?」
ベルに手を取ってもらって立ち上がる。
既にリョウとノノは三人の元へと向かっていて、ハルはどうしようか迷ってる様子。
「ハル、行こ?」
「アスカちゃん・・・。うん、行こう!」
「プライド、エンデ、ラス・・・行くわよ?」
──ぎしゃー!
──まう〜・・・
──・・・・・・!!
前線へ。アリッサ、リョウ、ノノは果敢に肉の塊と対峙し、確実にダメージを与えていく。が、切り口や打撃痕から体液が溢れ、少なからず、ダメージを負っている様子。アリッサとリョウはまだしも・・・ノノは遠距離攻撃無いのかな?
「・・・ん? 君達は・・・」
剣は抜いたまま、戦闘に行かないでいた勇者くんに話し掛けられる。もう一人は・・・女の子かな?
「君が、シュウくんかな?」
「あぁ。そういう貴方が・・・アスカさんですか。妹さんにはお世話になってます」
「ん。礼儀正しい子だねっ! いい子だとおもったげる。で、この状況はなんなの?」
フレンからわたしの容姿や事情は聞いてるみたいだね?
「んと・・・実は俺達も何が何だか分からないんだ。五分・・・いや、十分くらい前に床が下がってきて・・・五分前にあのおぞましい化け物が現れて・・・」
十分だと・・・丁度モンスターハウスに閉じ込められた辺りかな?
図書館の方で何か特殊な行動でもしたんだろうか・・・?
あの人数だ。変なトリガーを引く可能性は高い。
「そか・・・とりあえず、共同戦線かな?」
「そうなる。改めて、俺はクラン【揺り籠】のマスターのシュウ。よろしく頼みます」
女の子も歩いてきて、一礼してシュウくんに続く。
「僕は【揺り籠】のクランメンバー、ファウンテンです。宜しくお願いします、アスカさん!」
この子が【聖母】・・・・・・男の娘なのか。
「ふぁ・・・噂に違わず、美人だね・・・! 聖母って言うのも頷けるよ!」
「へ? あ、あぁ・・・ありがとうございます・・・?」
「うんうん。よろしくね二人とも!」
二人の手を握り、振り振り。
握手を交わして、早速アインを構える。
「近付かないで、攻撃すればいいんだよね? 《ハルバード・・・》!」
指輪の力を酷使する事になるけど・・・手加減が出来そうな相手には見えないからね。
わたしの全MP分を注ぎ込み、直径5m程の魔法陣を展開する。ミシミシ・・・と身体が軋む様な感覚に陥るが、集中は切らさない。
「ストップ! ストップだアスカさん!」
「っ・・・なに?」
「アイツに無属性は効かない。寧ろ、吸収するんだ。この剣は無属性の剣で・・・刃が通らない上に相手の傷が治るわ・・・で、役立たず・・・と。他の属性魔法はあるから、俺はチクチクと後方からやるしかないんだ」
な・・・それじゃあ、わたしは役立たず・・・?
魔法陣を消して、シュウくんに問う。
「それは、無属性だけなんだね?」
「あ、あぁ。他の属性が効くかどうかと言われたら効果は薄い。が、少なくとも吸収はされないし、ダメージにもなる」
「うん、それが聞ければ十分かな。近づいても大丈夫そうなのは・・・ユラ、お願いできるかな?」
《はい、アスカ様》
メイド服姿のユラ、可愛い・・・!
いいね、素晴らしい。力・・・借りるよ。
《霊装:海闘士》
さぁ・・・なんとなく久しぶりに感じるこの姿。
キュッとロンググローブを付けて・・・走り出す。
無属性攻撃は何も属性を乗せない攻撃。多分、シュウさんのは魔法媒体としても、近接戦闘用にも使えるかなりいい剣です。今攻撃してる三人の中で属性が無くて殆どダメージを与えられてないのは・・・ノノだけ。
「ノノ、これを使ってください!」
紅疾風を召喚し、ノノへ投げ渡す。
「ん・・・?」
「なるべく属性攻撃で戦ってください!」
「うん、分かった。借りるね」
わたし達の信頼関係からか、詳しい説明などしなくても、察してくれる。紅疾風が火を噴き、ノノの姿が掻き消える。
アリッサは血属性。リョウは風と氷の属性剣。
ノノには紅疾風を。
ベルとハルはシュウさんが言ってた事を聞いていたので、光と闇で応戦してくれている。
肉塊は見上げる程の大きさ。その姿は、凶悪な牙が並ぶ大きな口が付いていて、目が至る所に付き、そして目と同じ数かと思うくらいの触手。
近付くだけで、ぎょろりと複数の目が向き、触手で叩き潰そうと振り下ろし攻撃を仕掛けてくる。
「《武蒼流 格闘術 二ノ型 散り逝く華》」
地面を叩きつけた触手の振動を受けないように軽く飛び跳ねる様に触手を避け、着地と同時に触手へ素早く軽く触れて・・・踏み込む。
赤い奔流が噴き出し、触手が無理やり割かれたかのように引きちぎれ、砕け散る。体液が顔や身体全てにかかるが・・・体液とはいえ、水分。直ぐに足元へ流れていき、ダメージは無い。
「《一ノ型 刹那》」
休むことなく踏み込み、大きな肉の壁へ迫り、拳を叩きつける。グローブの効果も上乗せして大きく肉を抉り、波紋が広がる。
───《アクセルブルート》
「アスカ! 重ねて行くからね!」
「はいっ!」
後方からの声。飛び込んでくるアリッサと息を合わせ、抉れた肉の壁をダメ押しする。
「《武蒼流 格闘術 三ノ型 揺らがぬ決意》」
「はぁぁぁぁぁ!」
アリッサに合わせて、捻るように拳を振り抜き、ダブルインパクト。数cmほど肉塊を動かし、体液が溢れ出る。
「はぁ・・・消費が、激しいわね」
「《ステラヒール》これで、どうですか?」
「ん・・・無属性って凄いのね。下手なポーションより回復力あるわよ? まだ行けるよね、アスカ」
「えぇ、まだまだです」
「ふふん・・・アスカの魔法とあたしのでリンクさせるわよ!」
───《ブラッドパーティー》
アリッサの周りに赤黒いモヤがかかる。身体強化系でしょうか・・・?
「唐突ですね・・・」
───《ソウルボルテージ》
───LINK!《血装闘技》
「・・・あ、くふ・・・ふふ! アッハハハハハハ! モウマケルキハシナイワネェ・・・!」
モヤは鎧を上書きするように固まり、首元、顔まで完全に覆う。そして両腕に大きな鉤爪を携える。
その代償なのかは分からないですが、アリッサの様子がおかしい。何かあるかもしれないのでログを表示させて・・・。
「アスカァ・・・ッ!」
状態:バーサク。アリッサの鉤爪が顔横に突き出され、そのまま顔を切り裂こうと振り抜かれる。動きに合わせて横回転し、アリッサの腕を掴み、懐に入り込んで腹を打つ。
動きを一瞬止めたアリッサを肉壁へと投げ込み・・・
「《揺らがぬ決意》」
再び腹を打つ。今度はアーツで、徹底的に肉壁へとめり込ませる。バーサク・・・暴走状態なら一番近い生き物へと標的が向くはず。初めてみる異常ですが・・・。
「クフッ・・・フフフフフフフ! アッハハハハハハハハハ!!」
もはや言葉というのを忘れたかの様に、自身の衝動を肉塊にぶつける。切り裂き、体液が出ようと血の鎧に完全に覆われているアリッサには届かない。
・・・・・・はぁ。冷や汗が止まらないです。あの爪、掠りでもしたら、死ぬかもしれません。
アリッサの猛攻に肉塊が悶えてはいるのですが・・・まだまだダメージは足りてない様に見えます。先が長そう、ですね。強者戦は諦めた方が良さそうです・・・。




