向かえ‼ ただまっすぐに‼
更新です。
隠れていないフラグっぽい何か。
使われるはず……忘れなければ……多分、きっと、メイビー。
避けた空間から覗かせるこことは違う世界とその中心地であろう光の柱を見て馬皇たちはおろか地震によって外に出てきた人間の全てがこの天変地異に息を呑む。とにかく冗談では済まされないその光景は世界の終りを告げているようにしか見えなかった。
「あそこか。行くぞ」
「ええ。とっとと止めてケイスケとは一回じっくりとお話しないと」
馬皇は真央に向かって視線を送り一言いうと真央もうなずいて元凶の方へ向かおうとする。2人のやりとりに反応するように周りに喧騒が広がっていく。我先にと光の柱と逆方向へと走っていく者、自動車に乗って逃げ出そうとする者、世界の終りだと言ってパニックを起こす者が現れそれはやがて洪水のようにあふれかえっていく。
「待ってください‼」
急いで現場に向かおうとする馬皇たちに何を思ったのか由愛が呼び止めた。普段は心配こそするが何かを確信しているかのように由愛は馬皇たちの前に立った。
「すまん。由愛。悪いが急いでるんだ」
「悪いけどこいつに同感ね。由愛は安全な場所に避難して頂戴」
「わかってます。馬皇さんたちが強いことも。私がこんな時に役に立たないことも。でも、今回は……今回は馬皇さんと真央さんを行かせちゃいけないような気がするんです」
「それはどうしてだ?」
「そんなことは分かりません。でも、このまま行ってしまったら私たちの前からいなくなってしまいそうな気がするんです」
理由はなかった。だが確信はしていた。今回何も言わずにそのまま行かせてしまったら駄目だと。どうしてそんなことが言えるのかは由愛自身にしても分からないが言わなければならない。そんな気がしていた。
「安心しろって。俺らはそんなに軟じゃないぜ」
「そうじゃない。そうじゃないんです」
「ごめんね。由愛。私たちには由愛の言いたいことが分からないわ」
由愛が何が言いたいのか測りかねているのか真央は由愛に助け船を出す。
「す、すみません。えっと……その」
由愛は何が言いたかったのか懸命に考える。その間に自然と体が動き自分の小さい鞄から由愛自身に見覚えのない2枚のコインを取り出した。
「あの、これお守りです持って行ってください。」
なぜかそんなことが口に出てコインを2人に渡す。馬皇と真央もそんな由愛に困惑気味ではあるもののそのコインを受け取った。
「そうか。ありがとな」
「そうね。せっかく由愛が持って行ってほしいって言ってたものだしね」
「……」
由愛はまだ何かを言いたそうにするがそれは口には出てこない。馬皇たちはこれで由愛の方は大丈夫だと判断して由愛に感謝の言葉をかけた後、馬皇はサライラを呼ぶ。
「サライラ」
「はい。お父様」
「由愛と母さんたちを頼む」
「私も着いて行きたいですわ」
「駄目だ。今回に関しては何が起こるか分からない。うちやあいつの両親は大丈夫だろうから安否の確認だけでもしてくれればいい。それよりも由愛を1人にする方が一番心配だ。なぁにすぐに終わらせてくるから俺を信じて待っていてくれ」
馬皇はサライラに笑いかける。
「でも‼」
「頼む。由愛についてやってくれ」
馬皇がいつも以上に真剣な眼でサライラを見る。その眼にサライラは渋々と言った様子でこう答えた。
「……分かりました。ご武運を」
「ああ。ありがとな」
馬皇がそう言うといつの間にか人がいなくなった道路で竜人の姿へと変身する。そしてさらに一回り大きくなった体で真央を抱き込む。
「ちょっと‼ 何すんのよ‼」
いわゆるお姫様抱っこというものだがいきなり抱えられた方はたまったものではない。真央もその例にもれず馬皇に抗議する。
「こっちの方が早い。認識阻害出来るな?」
「そりゃ出来るけど……。それ以前にその、お、お姫様抱っこの方が恥ずかしいわ‼」
ロマンも風情も知ったことではないというように恥ずかしげもなく真央に話しかける馬皇。対照的に真央は恥ずかしそうに馬皇の体の中でもがく。
「いや。そんなこと言われても背中乗せるのは今の状態だとうまく飛べるか分からんし完全な竜形態だといつまで持つか分からんから温存しときたい。だからこれで我慢してくれ。後、しっかり捕まってないとした噛むぞ」
馬皇はそう言うと力強く翼を開き羽ばたく。そして、重力を振り切るかのように空へと飛びだした。
「へ? ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ‼」
もっとも、いきなり高速で飛び出した馬皇に対応できずに乙女らしからぬ叫びを真央があげるがその声も遠ざかっていく速度が速いためかすぐに聞こえなくなってしまう。その姿を見送った後由愛とサライラも行動を開始した。
「それじゃあ、行きましょう」
そう言って由愛は他の人たちが逃げて行った方向とも光の柱のある方向とも違う方へ歩き出す。その行動にサライラは困ったように言った。
「どこへですか? そちらは避難する場所ではありませんよ」
「中学校です。どうしても大馬中学校へ行かないといけないんです」
「そうですか……。それなら向かいましょう。一緒に。それにこのまま歩いていくには距離がありましてよ」
「いいんですか?」
確信しているかのような発言をする由愛にサライラは何かを感じ取ったのか大馬中学校へと行くことを肯定する。
「ええ。別にどこに避難しろとは言われてませんもの」
そういってサライラは体を竜へと姿を変える。その姿はどことなく馬皇と似ているが直線が多かった馬皇に比べて流れるような曲線の割合が多く色も馬皇が漆黒であればサライラは若干赤みのかかった黒である。余談ではあるが実際に馬皇と比べると一回り近く小さい。しかし、それでも種族としての存在そのものが大きいが由愛は恐ろしさは感じなかった。そしてその姿が馬皇に通じている部分があるなと由愛は感じていた。
『乗りなさい。今回だけの特別ですわ』
「分かりました。それにしても……綺麗です。サライラさん」
『そう。それはうれしいわ。それとしっかりとつかまってなさいね』
サライラは腕を使って飛ぶときに邪魔にならない位置に器用に由愛を乗っけた。
「はい」
サライラに言われるとおりに由愛はサライラに力いっぱい抱き着く。
『行くわ』
「はい。お願いします」
そう言ってサライラも由愛を乗せて飛び立った。これが最善であると信じて。
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