お宅訪問という名の不法侵入
時間がいてしまい申し訳ありません。
更新です。
「ここか?」
「ここよ」
電車を乗り継いで20分弱。その途中でサライラとも合流して閑散とした人気のない道をしばらく進んだ先にあるあこぎ荘の102号室前。建築されてかなりの年数が経っているのか妙な寂びれ具合が街の雰囲気とマッチしておどろおどろしさが強調される。
「なあ? あれはさすがにまずいと思うんだが?」
普通はどんな事情があっても鍵はかさないものである。理由もなく借りられている部屋に入るのは侵入であるので立派な犯罪である。そうならないために真央は管理人と顔を合わせると洗脳の魔法で管理人の目を虚ろにさせて難なく鍵を入手した。
「そんなの少しばかり洗の……もとい説得用の魔法を使えば簡単よ。後、機械類に証拠を残すのもまずいから機械の方にも映像が残らないように少しだけ細工もしたわ」
真央はルンルン気分で鍵を持ってケイスケの部屋を開けて中に入る。真央のあまりにもためらいない姿に馬皇は隠せないの。由愛を見ると由愛も今回の事に困ったような顔をする。
「正直犯罪は良くないと思うんですが今回は事情が事情です。真央さんのことを言えるわけではないんですけど実は私も少しだけワクワクしてます」
背徳的な状況に若干テンションの高い2人とそれに普通に着いて行くサライラ。馬皇もサライラにならって靴を脱いで部屋へと入っていく。馬皇が広い廊下で居間らしき場所に入った真央が羞恥で顔を真っ赤にし由愛が呆然とした様子で部屋を覗き込んで立ち尽くしていた。サライラに関しては真央達ほどではないが汚物でも見た様な目で部屋を見ている。
「おい? どうかした……」
3人の反応に馬皇もさすがにどうなっているのか部屋の中へと入る。そして、言葉を言い切る前にその部屋にある物に絶句する。窓際の彼のベッドには無視できないような存在感の物が鎮座していた。
「み、見るなぁぁぁ‼」
真央は馬皇を慌てて押し戻して部屋を閉める。ちらりと見えたが真央の裸の等身大の抱き枕なんてものを見たら友人や下僕であってもそんな物を見られたくはないだろう。
「待つか……」
真央の心情を察して馬皇はあれを処分できるまで待つことにする。しばらく部屋の前で立ち尽くしていると真央と由愛が作業をしている音が聞こえる。少しするとようやく一通りの処理を終えたのか真央は部屋の扉を開けた。
「……悪かったわね」
「何のことだ?」
馬皇のフォローにいたたまれなくなったのかケイスケの部屋の奥へと無言で入っていく真央。それを察して馬皇たちもこれ以上は喋らずに着いて行く。
「とりあえずこのパソコンから魔力が籠っているのを感じられたわ。だけどそれ以外には魔力の形跡はなかったわ」
真央は部屋の収納棚から見つけたノートパソコンを馬皇の目の前に置くと馬皇もケイスケの魔力を感知する。あの時の戦いで馬皇も魔力を感じ取っていたためにケイスケであると確信できる。
「そうか。なら開けるか?」
「ちょっと待って‼」
馬皇が閉じられているのをさっそく開けて起動しようとすると真央は馬皇の手を止めて静止させる。いきなり止められた馬皇は若干気を悪くしたのか真央にいつもより低めの声で聞いた。
「なんだよ?」
「ちょっと特殊なプロテクトを見つけたから止めたのよ。下手するとデータが消えるみたい」
「そういうことは先に言えよ。ここまで来た意味がなくなるだろ」
「私だって今気づいたのよ‼ 無茶言うな‼」
「なにおう‼」
「なによ‼」
「もうっ‼ 馬皇さんも真央さんも落ち着いてください‼ これじゃあ、いつまで経ってもケイスケさんの真相になんてたどり着けませんよ‼」
馬皇と真央がケンカしそうになっているのを由愛が止める。由愛の言葉に少しだけ冷静になったのか馬皇と真央は少しだけ気まずそうに顔を向ける。
「すまん。いくら慣れてるって言っても警戒もなしにやる事じゃなかったな」
「私も言い方が悪かったわ。今はケンカとかしている場合じゃないのに」
「お父様。このパソコン開いたら画面いっぱいに真央さんの写真が映し出されているのですが……」
「「ちょっと‼」」
馬皇と真央がいろいろと反省をして目を離しているサライラが警戒も何もなくケイスケのパソコンを開けて電源を起動していたことに思わずツッコむ。無事に起動できているのか真央の画像がデスクトップの画面になっている辺りにケイスケが真央をどれだけ愛しているかが見て取れる。転じて真央に対する執着がケイスケの残念さを物語っているのだが。
「あっ‼ これじゃないですか? お父様」
厳重情報と書かれたフォルダを見つけ出したサライラはすぐさまそこをクリックする。そこで当たりだったのかそこには『真央様、馬皇様へ』と書かれたデータがフォルダのトップに来ていた。
「……やけに手慣れてるわね」
「最近うちの母がなんかいろいろ仕込んでるみたいでな……」
真央の質問に馬皇はやや遠い目をして答える。馬皇の母アリアが余分なことも含めていろいろと教えていたことを思い出す。パソコンや携帯電話の使い方、電車の切符の買い方などは分かるが何故か自身が使う魔法を洗い物の油汚れを手早くきれいに落とす方法と一緒くらいの感覚で教え込んでいるのである。サライラ自身も呑み込みが早いのか教えられたことを素早く覚えてなかなか忘れないという事でアリアが気をよくして加速しているのも要因である。それが原因であるのかケイスケの作り出したプロテクトをサライラはあっさりと突破してしまったのである。
「いいんでしょうか? これで?」
「いいんじゃねぇか? どうやらこれが当たりだったみたいだし」
「なんか納得いかないわ……」
由愛も馬皇も投げやりな言葉を出す。真央は納得のいかないような顔をするがあのプロテクトを事もなげに解除して当たりを見つけたサライラに何も言えないのか肩を落とす。サライラだけが馬皇たちの三者三様な感想にきょとんと頭をかしげるが馬皇に褒めてほしかったのか馬皇に飛びつく。馬皇もそんなサライラに甘いのかサライラをなでる。
「まぁ、いいわ。とにかく中身を読みましょう」
真央は気持ちを切り替えてサライラが開けたファイルの中に有った自身たちに向けられたデータを開いた。




