オハナシ
「で? こいつか? お前たちに襲い掛かってきた奴は? というよりも本当に人間だったのか?」
馬皇たちの通う校舎の裏。豹変したナンパ男だったトロルを見た鉄はどこか驚いたような顔をして馬皇に問いかける。
「ああ。目の前で人間だったこいつが今の姿になったんだ」
「ええ。それについては私も同意するわ。私たちと後はこいつの取り巻きだった奴らが見ただけよ」
「そうか。何はともあれ起こしてから問い詰めないとな」
原因は何であれ異業の怪物と化した男に何か有用な情報が得られるとは馬皇たちは考えていはいないがもしかしてという事はある。
「そろそろ魔法解くわよ?」
「頼む」
「解呪」
真央が一言言い放つとトロルの身体が一瞬だけ光った。
「ンガ? ココハドコダ?」
そこからワンテンポ遅れてトロルは目を覚ました。
「おはよう。のんきで哀れなトロル? さん」
「オマ゛エダチバ‼」
真央のにこやかな笑顔と後ろに控えている馬皇を見て慌てて起き上がろうとするが体を拘束されていて動くことが出来ない。
「ガアアアァァァァ‼」
それでもあきらめずに大きくもがくが拘束はびくともせずそれはトロルが疲れ果てるまで続いた。
「ハァハァハァ……」
「もういいか?」
馬皇は疲れ切って息を乱しているトロルにそう聞くとトロルは声を荒げた。
「ダマレ‼ オ゛レ゛ハ、オ゛レ゛バザイギョウナ゛ンダ‼」
未だに状況を理解していないトロルにこの場にいた全員があきれ返る。
滑舌の悪さもさることながら一向に話の進まなそうな相手に対して真央は怒りをにじませる。
「ねぇ? あんた今の状態理解してる? あんたを生かすも殺すも私たちの自由なんだけど?」
怒気と共に漏れ出る殺気にトロルは凍りつく。いかに化け物になったとしても元々は人間である。ナンパはするが戦いどころかケンカすらしたことのないであろう姿だった青年が殺気で動くことが出来なくなるのは当然である。
「それでね? お願いがあるんだけど? なるべく答えてくれるとうれしいかな」
さっきまでの殺気はそのままにお願いどころか脅迫の分類に入るような清々しい笑顔でトロルに詰め寄る。
「……イ゛、イ゛……ヤダ‼」
辛うじて拒否の言葉を出すことが出来たが今にも屈服しそうなほど声は弱弱しかった。
「それでね? あんた飲んだとか飲んでないとか言ってたけど何を飲んだの?」
完全に話を聞く気がないのか平然とした顔で話を進める真央。
「……ジラ゛ナ゛イ゛」
視線を逸らして誤魔化すトロルであるが一切答える気はないのかきっぱりと言う。
「そう。仮面の男にね……」
「ナゼゾレッ……‼」
自身の失態に気が付いて慌てて口をつぐむが遅かった。真央はニヤリと笑ってさらにたたみ掛ける。
「へぇ。そうなんだ。ちなみにその異能者になれる薬はどこで手に入れたのかな?」
頭の中を見透かされるかのように会話をつづける真央にトロルは顔を真っ青にして脂汗を掻きはじめる。
「ゾンナ゛モ゛ノ゛ジラ゛ン」
「なるほどなるほど。掲示板の『異能者になりたい』ね。普通に考えたら釣りだと思って書き込みしてたらオフ会に誘われたと……。そして行ってみたら薬をもらったと。周りを見てみるとそれを飲んで能力を発現させた人ばかりであんたも飲んだのね。能力は怪力で車を持ち上げられるようになって調子に乗っちゃったのね。それで私たちに強引に詰め寄って襲い掛かったら返り討ちっと。ねぇ? 今どんな気持ち?」
考えていたことや知ったことを言い当てられてさらに煽る真央。トロルになった男は怒りで顔を真っ赤にして拘束を引きちぎろうとするが梃子でも動かない。
「へぇ? あそこかぁ。おっと? 思考を読まれていることにやっと気が付いたんだ? でも無駄ね。時間は有ったんだものもう遅いわ」
真央は何度も頷いて情報を覗いていく。トロルはそれを嫌がる様に叫ぶ。
「ウ゛ル゛セ゛エ゛。ミ゛ル゛ナ゛ア゛ア゛ア゛ァァァ‼ ……ッ‼」
真央が決定的な仮面の男についての情報を得ようとする瞬間トロルは急に苦しみだす。
「しまった‼」
真央は何かに気が付いたようであったがトロルは苦しみ泡を吹いて動かなくなる。動かなくなってしばらくすると膨張した体は急激にしぼみ元のナンパをしていた男の姿に戻る。そこにはいかにも苦しみぬいて死んだと思わせれるような苦悶の表情をした男が倒れているだけだった。
動かなくなった男を見て鉄が慌てて男に近付き確認するが首を横に振った。
「駄目だ。死んでる……」
「ひっ‼」
「落ち着きなさい。大丈夫。私が付いてるから」
一緒に居た由愛が小さく悲鳴を上げると真央は由愛に手を差し出す。由愛は真央の手を強く握ると少しだけ落ち着いたのか震えた様子で言った。
「ほ、本当に死んじゃったんですか?」
「ああ。間違いない。生気すら感じられないな」
馬皇がそう言うと真央と鉄もうなずく。そうこうしている内に死体は塵になってその塵すらも跡形もなく消えさってしまう。
「……どういうことだ?」
よく解らなくなった状況に死体に一番近かった鉄が疑問を述べる。いきなり死体になって元に戻ったと思ったら今度は塵になって消え去ったのである。人が1人死んだことをどう説明すればいいのか分からなくなってしまった事とあまりの急展開に着いて行けないのは当然であるだろう。
「あ~。さっきのである程度は情報を絞り込めたので説明したいんですが……。とりあえず鉄先生の生徒指導室使わせてもらっていいですか?」
真央が鉄に提案すると少し考えてから真央の提案に首を縦に振った。
「……分かった。その代わり何をしようとしていたのか私にも説明しなさい」
「はい」
真央は鉄の言葉にうなずいて真央たちは生徒指導室へと向かって行った。
今回は前書きなしです。死んだという話ではありますが死体は完全に消え去ったために説明しようがありません。行方不明になって迷宮入りになるのが現実です。
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