エピローグ 2人の夜
更新です。
馬皇と真央の会話会です。ここでいったん第3章を区切ります。
次は新章に移ります。夏休みの後半です。今回の話は前の章で張った伏線を使うための準備みたいな物です。とはいうもののどこにどれだけ伏線を張ったのか分からなくなってくるという始末。メモするべきだった……。
そんな訳で始まります。(どんな訳だ?)
シリアスとシリアルのバランスって難しい。
テロと言っても差し支えない行為があった決勝戦から少しだけ時間が経った夜。灯台の下で真央は1人海を眺めていた。波の音は聞こえてくるが灯台と月の光が波に反射して幻想的な光景を作り出している。
それを眺めている真央は灯台に背を預ける。真央は1つとして同じ光景を見せない海の姿を楽しむわけでもなくそこだけ時が止まったかのように身じろぎ1つせずにまた今日の出来事を思い返す。ケイスケがあの場を去った後屋久島たちも同じように姿を消したらしい。鉄もそれなりに傷こそは有ったものの致命傷とは程遠く屋久島が去った後にすぐさま馬皇と真央の元にやって来ていた。それと同時に真央の視界は真っ暗になって次に目覚めた時にはすっかり日が落ちていた。目覚めたら馬皇たちが状況を説明してくれたから現状の事だけは一応分かってはいる。
だが真央は理解できなかった。何故ケイスケが敵の方にいるのか。長い間ずっといた下僕であり教育係として兄のように慕っていたケイスケが真央を裏切っていたかもしれないという事に。そして、それに気付けなかったという事を。その事実が真央の思考を堂々巡りさせて気が付けば1人海を眺めてケイスケの事をずっと考えていた。
「そこにいたのか……」
波の音にかき消されたのか別の事を考えていたからなのかいつの間にか馬皇がすぐそこにいた。
「……」
「由愛たちが探してたぞ。真央がいないって慌てて」
「……なら戻って伝えればいいじゃない。今は関わらないで」
「そうかよ」
真央は馬皇を拒絶するが馬皇は何も言わずに真央の隣へと座った。最初、真央は嫌そうな顔をするが別の事で頭がいっぱいなのか馬皇の事を放って置いて思考に没頭する。馬皇も馬皇で夜の海を静かに眺める。
「「……」」
そこからどれぐらいの時が流れたのだろうか。お互いに何もしゃべらずにいた沈黙をまず破ったのは真央の方だった。
「ねぇ?」
「なんだ?」
「あの時対峙していたのは本当にケイスケだったのよね?」
「そうだな。俺も見間違えだと思いたいがあいつはケイスケだったな」
「っ‼」
真央が確認のために問いかけたことに馬皇は律儀に答える。その答えに真央はどうして?とでもいう様に顔をしかめて馬皇に怒鳴り込みたいという欲求に駆られるが自身の感情を押し殺して少しずつ話を続ける。
「私ね。本当はあの魔法を見た時にはあいつがケイスケだと気付いていたの」
「そうなのか?」
馬皇は真央の独白を聞き返す。
「あいつね前世の教育係だったの。魔道の書庫の番人として生まれた私たち一族に仕えているんだけど何と言うかどうしようもなく変態でね。それなのに隠そうともしないあいつが嫌いだった」
真央の言葉に馬皇も初めて会った時のケイスケの姿を思い出して苦笑する。確かにあの何とも言い難い変態性に馬皇は何も言えなかった。
「でもね。魔法に関しては本当に優秀だったのよ。不埒な目で私を見ては来るけど丁寧に魔法の基礎から勉強するんだけどそれがとってもわかりやすくて楽しいものだったの。それで気が付いたらあいつがいるのが当たり前になってたの。だから、あいつがよく使う魔法についても知っているしケイスケも私が前世で作り出した魔法も知ってるはずなの」
真央の声は弾む。ケイスケとの深い絆が見て取れるようでもあった。真央の表情は明るく昔のケイスケを思い出して懐かしんでいた。
「……どうりで。それであいつの使う魔法についても良く知っているわけだ」
馬皇は静かに真央の話を聞いて不器用に思っていることを言った。
「ええ。その後もいつも親身になって勉強やマナー、魔法の実践、最終的には私の右腕として付き合ってくれたわ。だからこそ今あいつが敵として相対していたという事が私には理解できない」
真央は分からないと言って顔を膝に埋める。
「それじゃあ、お前は今でもあいつのことを信じているのか?」
「いいえ。信じていないわ」
「どっちなんだよ……」
真央のきっぱりとした即答に馬皇は真央のことが一気にわからなくなってくる。
「確かに有能で使い勝手のいい下僕だけどいろいろと胡散臭いことをよく影でしていたタイプよ。あいつ。どこを信じろっていうのよ‼」
「そ、そうか……」
真央は腹が立ったという風に声を荒げはじめる。その急な様子の変化に馬皇は戸惑い始める。
「私がナイーブになっているのはちょっと裏切られたくらいで気絶してしまったふがいなさに対してよ‼ あいつが敵対しているのにはそれなりの理由があるはずなの‼ あいつ魔獣が死んでたのを報告してから帰って行ったじゃない。あんなの私たちの前でする意味がない。ただあいつが何をしたかったのかが分からないからずっとモヤモヤしてるんじゃない‼ 次会ったら顔面に蹴りいれて分かり辛いってお仕置きしなきゃ……」
真央がずっと考えていたこと口に出してブツブツと独り言を言っている。馬皇はいつもの真央の様子を見て馬鹿らしくなったのか吹きだした。
「何笑ってんのよ?」
「わりぃ。そういうつもりじゃなかったんだ。何と言うかな……沈んでるお前の姿があまりにも似合わないから一緒に居たんだがなんかどうでも良くなってきた」
「失礼な奴ね。私のどこが似合わないのよ? むしろどんな表情でも絵になるでしょ?」
当然とばかりに自信満々に真央は言った。自信過剰な発言に馬皇はまるで仏にでもなったような顔で言った。
「頭大丈夫か?」
馬皇の発言に真央の右こぶしが唸った。
「ってぇ‼ なにしやがる‼」
「あんたが悪いんでしょ‼ その顔がむかついたからよ‼」
「なんだとぉ‼」
火に油。馬皇の発言に真央の拳がさく裂しそれが連鎖的に取っ組み合いになり頬を引っ張り合ったりビンタしたり、挙句にはひっかいてみたり噛んだりし始める。夜の静かな空間はケンカの音が空しく響きあう中で2人の夜は更けていくのであった。
闘技大会から帰って来ると異能の事が世間に公表されていて世界中がてんやわんや。けれども、そんなこと関係なしに夏休みはまだ続く。せっかく孤島にまで行ったのに海を満喫するのを忘れていたぜ。そんなことも有ってか俺たちは一度この後の夏休みの予定を立てるために集まった。そしたらなぜか異能を使うチンピラ達に絡まれて……
次回「新章 夏休みは計画的に」
お楽しみに
次回予告風の練習です。あまり関係なかったりすることもあるので読み流すくらいで大丈夫です。
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