我慢対決 その2
馬皇の場合
「何かしらの大きな反応を見せたら決着だ。その時由愛さんはストップウォッチを止めてくれ」
馬皇の言葉に由愛は頷いた。真央は馬皇が由愛のことを名前で呼んでいたことに軽く驚いて見せた。
「あら? あなたも由愛を名前で呼ぶことにしたの?」
「ん? ああ。この前少しな……」
意味深な言葉に真央は少し考えるが、別にいいかという結論に至った。それで何か変わるわけでもないと真央は判断したためである。
「さあ、かかってくるがいい」
真央がどうでもよさそうな顔をし始めたのを見計らって馬皇は芝居掛かったように真央にそう言った。真央も嬉しそうにその言葉に乗る。
「じゃあ行くわよ」
真央は、馬皇を罵る準備をする。
「スタートです」
由愛の可愛く合図した。若干緊張感のない声に真央は躓きそうになるがすぐに持ち直して容赦なく言葉を結ぶ。
「脳筋」
「っ‼」
馬皇は耐える。誰が脳筋だ‼ といつもなら言っていただろう。過去のやり取りからこらえ性がないとお互い思っていたのだが思ったよりは耐えられるのだろう。真央は楽しくなってきた。
「へえ。耐えるんだ。」
真央はニヤリと言った。これなら容赦なくもっといろいろ言っても問題ないと判断する。自信満々な真央は言い続ける。
「私ってね。情報ツウなの」
「それがどうした?」
平静を務めて真央と会話を続ける。真央は意味深なことを口にすると馬皇は顔を引きつらせる。
「ただの自慢よ」
「お……‼ くっ‼」
手を腰に当ててない胸を張り、ドヤ顔で馬皇を見る。関係ない話というよりも身のない話であるはずなのにその表情が無性に腹が立つ。思わず突っ込みを入れたくなるが、勝負の最中ということもあり口から出かかった言葉を飲み込む。
「あら、これも耐えるの」
「ふっ、残念だったな」
真央に対して精一杯の返しをする。正直キレる一歩手前ぐらいである。
「そういえば、馬皇って松田先生にほら――」
「なぜそのことをっ‼ 違う‼ あれは未遂だ‼ 逃げ切ったんだ‼ というか今関係ないだろ‼ っは‼」
馬皇そう言って真央を怒鳴り込む。自分の失態に気が付いた時にはもう遅かった。由愛はストップウォッチを押す。
「うおおおぉぉぉ‼」
完全に乗せられた馬皇は悔しさで叫んだ。それをみた真央はうまく言ったほくそ笑む。
「関係ありよ。私の勝利の音。ふふふふふ」
「くそったれぇ‼」
馬皇は叫んだあと地面に膝をつくと手をうちつける。よっぽど悔しかったのだろうことがうかがえるようん仕草であった。
しかし、勝負は勝負。無情にも短い時間に決着がついてしまった。
真央の場合
「次は、俺の番だな」
馬皇は自信満々に言った。先ほどまでは悔しそうにしていたが、切り替えは早いのか悔しさをすべて出し切った後はそう言って何事もなかったかのような態度を示す。そんな馬皇の様子を見ていた真央も言う。
「ええ、そうね。でもあんなに忍耐弱い馬皇におしとやかな私の忍耐力に太刀打ちできるかしら」
真央は受ける側になっても馬皇を煽ることはやめなさそうだった。馬皇は忍耐に関係なさそうなこと言う真央に言い返した。
「おしとやかさとか忍耐に関係ないだろ」
「……脳みそまで筋肉でできていると思ってたけど、考えるところあるのね」
意外にきちんと考えていることに真央は驚く。滅茶苦茶失礼なことを言われて馬皇はカチンとなる。
「なんだと」
「ま、野蛮だこと」
真央は、「オホホホホ」とでも笑うかのように手を口の横に添えて言う。馬皇は絶対にほえ面かかせてやると決意した。
「スタートです」
さっきと同じように由愛はストップウォッチのボタンを押す。馬皇は言った。
「無乳、ぼっち」
馬皇も容赦なく言葉をぶつける。真央の表情は変わっていないがなんというか威圧感がすごい。馬皇の内心ではもうこれアウトだろと思い由愛を見るが、由愛は頭を横に振る。それを確認した馬皇はずっと思っていたことを言うか秘策を切る。
「お前の苗字と名前。繋げて別の読み方したら、死んだ魔王になるよな。なあどんな気持ち? 死んだ後も死んだ魔王なんて呼ばれるかもしれない名前ってどんな気持ちだ?」
なるべく軽い口調で言ってみる。
「あ・ん・た・が・そ・れ・を・い・う・な‼」
こうかばつぐんであった。真央は大声で言い返す。そして、やられたというような表情を作る。馬皇はうまくいったとにやける。
由愛はストップウォッチを止める。色々と由愛の中では言いたいことがあるがそれは心の中に秘めたままタイムを比較した。その結果を告げるために2人を見る。
「結果を発表します。勝者は――」
由愛はいったんここで言葉を止める。二人を見る由愛。2人は由愛のために息をのむ。いったいどちらが勝者なのか。2人とも大雑把な時間ではだいたい同じくらいだろうと感じている。ならば、勝負を分けるのは僅差のはずだ。その結果が今明かされる。
「馬皇さんです」
由愛は馬皇の腕を上げようとする。されるがままに腕を上げると逆に由愛がつるされるような形になってしまったが、勝ったことが嬉しいのか馬皇はそのまま声を出した。
「うっし‼」
馬皇はガッツポーズを取る。対照的に真央はがっくりと肩を落とした。忍耐力では馬皇にも劣るというのとでもいう様に呟いた。
「まさか、負けるなんて…」
「どうだ、俺の実力」
腕を組み胸を張る馬皇。
「まだ、1勝1敗1引き分けよ。首を洗って待っていなさい」
明らかに、三下が言うようなセリフを真央は吐いた。これだけだと完全に負け惜しみである。
「おーおー。どこからでもかかってくるがいい」
機嫌が良いという表情で煽る馬皇。
「ただ、さっきのことは許せないわ。誰が死んだ魔王よ。確かに死んだけど、あなたも同じじゃない。というよりも負けた魔王とも読めるわよねあなたのフルネーム」
「お前っ‼ 言ってはならんことを」
馬皇も自分の苗字のことを気にしていたのか真央に怒鳴る。
「なによ。うるさいわね‼」
そう言ってイライラしている真央は馬皇の頬に手を伸ばす。そして、引っ張り始めた。
「いはっ‼なにふんだひょ。おまへらってさんじゃんいっへふだrほう」
馬皇はつねられても言い返し、同じように真央の頬を引っ張る。
「かんへいなひはよ」
そう言ってつねりあいを開始する2人の魔王。痛いのかお互いに涙目であるが意地を張って1秒でも長く相手の頬を引っ張ろうとする。
「今日も仲がいいですね~」
ほのぼのと由愛はつぶやく。
「「どほが‼」」
全く同じことを言う2人を見て、由愛は今日も平和だなと2人を眺めていた。