我慢対決 その1
馬皇が初敗北を期した次の日の放課後。
馬皇はクラスの悪友達に遊びの誘いを断って屋上に向かっていた。なぜか、断りを入れた時に友人たちだけでなくクラス中の視線をとても生ぬるい感じで受けて非常に居心地が悪かったのだが。微妙な空間に速く立ち去りたかったのか馬皇はそれだけ伝えて教室を出る。
いつものように屋上の扉を開けると真央と由愛が談笑しているところであった。楽しげに会話が弾んでいるが馬皇はそんなもの関係ないというように話に入っていく。
「よう。今日は勝たしてもらうぜ」
馬皇は軽く手を上げ今日の意気込みを言った。前回負けたことが悔しかったのか馬皇の目には闘志がみなぎっていた。
「あら、懲りずにまた来たのね。尻尾巻いて逃げたのかと思ったわ」
真央は勝者の余裕からか軽やかな口調で馬皇を煽る。
「まだ1敗しただけだ。この後、勝ち続ければいいだけだ」
「このまま勝ち続けて完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ」
売り言葉に買い言葉。2人はお互いを煽ってにらみ合う。2人の会話も由愛からすれば2回目であるが、よく飽きもせずにケンカ腰続けられるなあ。としか由愛は考えられなかった。
馬皇は珍しく言い合いしている最中に視線をそらしてちらっと由愛を見た。
「ほれ」
2人が戦いに入る前に何かを馬皇は由愛に投げた。由愛は慌てた様子で投げられたものをキャッチしよう手を構えた。その何かは短い放物線を描いて落としそうになりながらもなんとか由愛はキャッチする。
「えっと?」
由愛は掴んだものを見る。ストップウォッチだった。それを受け取った由愛はどうすればいいのか馬皇を見た。
「ストップウォッチだ」
「それは見れば分かりますけど……」
なぜ渡されたのか分からないという顔を由愛はした。そんなことを気にもせず馬皇は真央に言った。
「今回は我慢対決だ」
「いいわ。受けて立つわよ」
「おう」
急展開過ぎてついていけない由愛である。なんでこの2人はこういう時だけは意見が合うのだろうか。短い言葉にすらなっていないやり取りから2人は何を読み取っているのかさっぱりわからなかった。
ただ、由愛がこの二人と接して1つだけ分かるのはこの2人って実は仲がいいのでは? ということくらいだろうか。
「問題ないわ。で? どういうルールでするの」
真央は馬皇にどういうルールでするのか聞いた。馬皇も簡潔に答える。
「スタートを決めて相手を怒らせた時間の長さで勝負する」
「なら、交代でするのね」
「そうだ。言う側と耐える側にだな。時間の短い方が負けだ。そして、直接攻撃するの話だ」
直接攻撃をやり始めたら、それこそ周りも関係なく大勝負になるだろう。しかし、それでは勝負の意味がない。そこら辺はわきまえているのか言わなくても暗黙の了解になっていることである。
「それでいいわ。なら私が先手をもらうわよ」
「いいだろう」
馬皇と真央は一通り段取りを決め終えた。そして、馬皇は由愛の方を向いて言った。
「だから、それで山田さんには時間を計ってもらいたいんだ。いいかい?」
馬皇は確認すると由愛もうなずいた。我慢の限界については基準がない。だから、馬皇はこの裁量を由愛に任せることにしたようだった。真央の方は由愛に任せることに異論はないのか無言を貫いた。任される由愛も変なことにならないようにと緊張する。
「は、はい分かりました」
馬皇と真央はその後も火花を散らしていた。そんな2人に仲が良いのか悪いのかよく分からない由愛であった。