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転生した元魔王様の非日常的な学生生活  作者: haimret
第一章 魔王たちは出会う
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じゃんけん

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 2人は空を見ながら真央を待っていると真央の気配を感じたのか、空を見るのを止めて馬皇は屋上のドアを凝視した。由愛も馬皇の動きに気が付くと一緒になってドアを見る。それと同じタイミングで勢いよくドアが開いた。


「今日の勝負はじゃんけんよ‼」

 

 真央は屋上に入ると同時に今日の勝負に何をするのか言った。自信満々に真央は歩いてくる。馬皇も待ちきれなかったのか真央の方に歩いていく。


「あん? じゃんけんだと?」


 ある程度近づくと馬皇は口を出した。真央の方は笑みを浮かべて言葉を返した。


「運も実力の内ってね。それとも自信がないの?」


 ウインクして「今日の勝負はこれで決まりね」とでもいう様な仕草だった。加えて挑発するような口調であったために馬皇はそれに乗る。


「いいだろう。受けてたってやる」


 お互いに手が触れあうことが出来る所まで近づく。2人の視線からは火花が散っているように見えた。


「あの、これって審判とかいらないんじゃ?」


 由愛は思ったままをそのまま言ったが、二人には聞いていないのか聞く気がないのか。由愛の発言を無視する。無視された由愛はがっくりと肩を落とす。


「とりあえず、最初はグーで始めて3回勝負な」

「ええ。それで構わないわ」


 真央はすんなり勝負事が決められたことを喜んでいた。そして勝ちを確信した。


(計画通りね)


 真央は魔法を使う気でいた。その名も小五ロリという。彼女の前世出も変な名前だなと思っていた魔法である。作り出したのは彼女のよく知る下僕であった。同時に前世を持っているとか言っていた男である。


 この魔法は真央が過去によく使っていた魔法であった。効果は対象の思考や記憶の表層を読み取ることである。しかも、この魔法は発動してから瞬時に効果を得られる。発動自体も簡単で詠唱も必要ないし、発動したことが相手に分かりづらい。


 そして、何よりも配下の魔獣たちと意思疎通ができるのだ。。そのため真央はこの魔法を使って魔獣達と多くの時間を過ごした。召喚したためになんとなくは言いたいことは伝わるのだが何を何を言いたいのかは分からない。そんな折に下僕が作りだした魔法は目から鱗だったのである。


 しかし、便利ではあるが欠点もある。この魔法は魔力こそ多くは必要ないが入り込んでくる情報を処理する能力の適正が必要であった。


 相手が精神防御の手段を持ち得ている場合は本当にどうでもいい情報しか得ることができない。相手がいろいろと考えすぎていて思考が入り乱れている場合は断片的にしか得ることが出来ない。


 それらに加えてきちんと成功したとしてもうまく制御しないと相手の情報を取り込みすぎてしまう。一気に押し寄せてくる情報を処理しきれなくなると頭痛という形で帰ってくるのである。無理して続けると最悪廃人になるリスクがあるのだ。そのせいで真央は過去にある部下の心を興味本位で覗いた事がある。その時は狂気のような思いとその為の行動を直接見せられ彼女はこの魔法を使うのを躊躇うようになった。あれは思い出してはいけない。真央はあの時の記憶を思い出さないように心にふたをする。


 それが彼女が今まで使わなかった理由である。今まではどういう魔法か分かってはいても自身の思考が処理に追いつかず使ってはいなかった。最近は並列思考の訓練をして少しの間であれば使っても何も問題ないくらいまでになったので今回の勝負でじゃんけんをすることに踏み切ったのである。


 今回は大事な1戦目。使うのはいろいろと前世を思い出してしまうが、あんなのは前世だけよと心の中で鼓舞する。真央は魔法を使うタイミングを計る。馬皇は集中しているのか真央を見据えて無言である。由愛はそんな二人を固唾を飲んで見守る。


 今だ‼と、真央は小五ロリを発動する。


「ウッ」


 魔法は無事に発動した。馬皇の思考が頭の中に入ってくる。グーだ。馬皇はグーを出す。真央は勝利を確信した。


 しかし、制御が甘かったのか余分な情報が真央に襲い掛かった。それはこってりと生徒指導の先生たちに叱られているときの記憶だった。


 時間は夕方。全生徒が帰宅した後の事だろう。一人目は鉄である。馬皇のあの身体能力でも問題なく捕まえるこの生徒指導に誰も疑問を抱かないことに不思議に思った。隣の先生は副担任の松田であった。彼は話の最中は終始無言だった。しかし、何故だかわからないが彼の目は飢えた獣が獲物を狙うような目だった。鉄にしばらく叱られて、罰としてある場所のトイレ掃除が決定した。監視として松田と共にトイレにいき掃除をするまでは何もしなかった。


 掃除が終わった後に事は起こった。


「先生。終わりました」


 馬皇がそう言うと松田は無言で馬皇の体をさわり始めた。


「そうか。ご苦労様。それにしてもいい体しているな」


 松田の見当違いの言葉と行動に馬皇は嫌な予感がした。


「そっ、そっすか。あの? もう帰っていいっすか?」


 顔をひきつらせるがその場を離れるため、いやいろんな意味での危機回避のためにそうたずねる。だが、松田は右手を肩に乗せて鼻息を荒くする。


「まあ待て。その鉄先生にも劣らない、いい筋肉をしている負毛 馬皇君よ。今からヤラナイカ」


 そう言って今度は左手で馬皇の尻を揉み始める。右手は馬皇をガッチリとつかんで離さない。


「ひぃ‼ ごめんなさい。俺も男なんで男には興味ないんです」


 馬皇は貞操の危機に松田の手を強引に振り払う。そして、馬皇は掘られるわけにはいかないと全速力で逃げ出した。


「逃がさないぞ。負毛君……いや、馬皇君」

「うわぁぁぁぁぁぁ‼」


 後ろから松田線背が追いかけてくる。今も全速力で逃げている最中に隙を突いて、机や掃除用具入れの中に隠れた。隠れるが、すぐに見つけ出すと松田に体を触られる。馬皇は狂乱してタックルして逃げるが大してダメージを受けていないのかすぐに復活して追いかけてきた。


 馬皇は仕方ないので屋上の方へ上り、すぐに飛び降りて死角になっている壁に張り付く。松田も屋上に来てフェンスの下を確認するが誰もいないことが分かると屋上から姿を消した。何とか巻けたと馬皇は安心するとそのまま地上に飛び降りる。辺りを見回してから誰も居ないことを確認すると肩で手を叩かれる。


 後ろを見ると……。


 そこで映像は途切れていた。本人が思い出したくないのだろう。思い出したくない記憶に蓋をするとこんな感じで途切れることを真央は知っている。そして、そんな光景を見て真央は顔を青くなるのは当然であった。なんというかホラーだった。逃げても逃げてもいつの間にか近くにいる。下手すると真後ろにいる。見てても気分が悪くなるだけだった。


「おい? どうかしたのか」


 顔色を悪くした真央にじゃんけんを途中で止めて訝しげに馬皇は見る。真央は記憶を見たとは言えずこの哀れな敵(馬皇)に同情の目を向ける。


「な、なんだよ? そんな視線向けんじゃねぇよ。気持ち悪いな」


 真央の視線に馬皇は鬱陶しがる。そんな感じで真央に生暖かい眼で見られるが、今は勝負の最中。じゃんけんは再開される。


「「最初はグー」」

「「じゃんけんポン」」


 馬皇はさっきの思考の通りグー。

 真央はパー。


 一回目の勝負は真央の勝利。


「クソッ。負けた」

「ふふっ。私の勝ちね」


 馬皇は負けたことに悔しがる。別の意味で見てはいけない物を見てしまっている罪悪感が増すが、悔しそうな馬皇を少しだけ気分が上がる真央。


 そのまま二度目の対決へ。真央はまた見るのは怖くなった。正直見たくない。しかし、今回は勝つために勇気を振り絞った。真央は再度魔法を発動させる。


 今度は意識しすぎたせいで馬皇のじゃんけんの思考の前に馬皇の蓋をした記憶が真央の脳裏に映しだされる。そこには松田先生がものすごい近くで口を近づけているシーンだった。これはもう犯罪ではないのだろうか。


 真央は必死に耐えて次の手を読んだ。真央も馬皇も表情は先程と変わっていない。真剣な顔だ。次はまた、グーを出す。同じ手は来ないだろうと判断しての事だろう。強気な奴だと真央は思った。同時にそんな記憶を持っていても顔に一切出していない馬皇に不本意ながらすごいと持ってしまった。再度、2人は手を振りかぶる。


「「最初はグー」」

「「じゃんけんポン」」


 馬皇は思考の通りグー。

 真央はまたパーを出して買った。


「クソッ。また負けた」


 こうして今回の勝負は決した。真央の勝利である。しかも二連勝。本当なら真央はガッツポーズを取って喜びたい。


 しかし、やっぱりこの魔法を使うとロクな目に合わないことを今回のことで再度証明する形になってしまった。真央は心に決めた。本当に緊急時以外でこの魔法を使うのはやめようと。喜びよりも疲れがどっと出てしまい素直に喜べない真央であった。一方で。静かに見ていた由愛は1人こう呟いた。


「あの……本当に私いらないんじゃ……」

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