エピローグ
「到着ですわ。いつ来ても静かな所ですわね」
「あれ?」
体育館裏。朝が早いこともあるが、元々人のこない場所であることも相まって寂れたような印象を与える。その光景を見た由愛は頭をかしげた。
「どうしたのかしら?」
呆然とその光景を眺める由愛を見て心配そうにサライラは見る。由愛はサライラの方に振り返ると言った。
「サライラさん。ここって誰かと一緒に来ませんでしたっけ?」
「えっ? そうでしたかしら?」
サライラは頭をかしげる。由愛はそんなサライラを見て腑に落ちないと言った様子で言った。
「うーん。さっきから何かを忘れているような……」
「それだったら思いつく限りでクラスのみんなを言ってみたらどうかしら?」
「……えっと。サライラさん。ユメリアさん。亜紀ちゃん。珠子ちゃん。委員長。田中君に佐藤君。角松君。…………」
サライラから始まって他のクラスメイトの名前を上げていく由愛。全員の名前を上げると何か物足りないような感じで顔をしかめた。
「これで全員ですけど……なんでだろう。何か足りないような」
「……そうですわね。何か大切なことを忘れているような気がしますわ」
由愛の言葉にサライラも同じ意見なのかうなずく。辺りを探る様に焼却炉の方を見る。そこから何かを思い出しかけているのかもどかしい声が漏れる。
「後、少し。ここまで出かかってるのに」
「そこら辺の所は分かりませんが、もしかしたら屋上に行ったら思い出せ「屋上っ‼」るのでは。由愛っ‼ どうしたんですのっ‼」
サライラの言葉に覆いかぶさるように由愛は何かを思い出したのか声を出すと走り出した。慌てた様子で走り出した由愛にサライラは直ぐに追いついて横を並走する。
「思い出したんですっ‼ 居ましたよっ‼ サライラさんにとっても重要な人がっ‼」
そう言って廊下の階段を駆け上がる。その途中で疲れてきたのか由愛の息が上がり始める。それでも屋上の扉まで到着する。
「……はぁはぁ」
「いきなり走り出すからですわ。深呼吸して。すー。はぁーですわ」
「…すー…はー。ふぅ。サライラさん。落ち着きました」
「そうですわね。この先にはあの方たちがいますわ」
「思い出したんですね」
「ええ。由愛を頼まれていたこともね」
「開けます」
サライラに言われるがままにゆっくりと深呼吸をすると落ち着いたのかサライラに感謝する。サライラも思い出したのか由愛は扉を開ける。その先は屋上であって、屋上ではなかった。開けた先で見えるのは屋上のコンクリートで出来た床と落下防止用のフェンス。給水タンクなどがあるいつもの屋上。しかし、淡い赤紫のような色の空にフェンスから外には地面以外には何もない。
だが、それ以上に由愛にとっては良く見知った顔がそこにあった。
「もうっ‼ この設定‼ これが一番でしょっ‼」
「いいやっ‼ もっと大雑把でいいだろっ‼ 細かすぎるんだよっ‼」
「なんですってぇ‼」
否。ケンカの真っ最中であった。お互いに取っ組み合いになる一歩手前の状態で怒声が響く。
「真央さんっ‼ 馬皇さんっ‼」
「えっ‼ もう来たのっ‼」
「おっ。思ってたよりも早かったな。うおっ‼」
由愛の声に馬皇と真央は同時に振り向いて言った。同時に2人を巻きこむように由愛は跳びついた。急なことに真央は体勢を崩し、馬皇は少しよろけるがすぐに持ち前の力で倒れない様に支える。
「由愛っ‼ 危ないじゃない‼」
「そうだぜ。このまま倒れたらこいつはともかく下敷きになっちまうだろうがっ‼」
「うっ。すみません」
真央と馬皇は由愛を叱る。感極まっての事であるが、さすがに危険であることは理解したのか由愛は素直に謝った。
「ふふ。今度から気を付けてね」
「おう。今度から気を付けろよ」
馬皇と真央は同時にそう言うとお互いに同じことを言った事に少しばつの悪そうに顔を逸らす。
「はい。でも、それとこれとは別で私は怒ってるんですよ」
由愛は嬉しそうにしながらも、すぐに表情を変えて怒っているような顔をする。そこには怖さは一切ないのは人柄であろうか。
「悪かったとは思ってるが、地球の創世で時間の加速なんてしてたら普通に他の奴らだったら寿命で死んじまうんだ。だから、連れて行けなかったんだよ」
「そうよ。さすがにお婆ちゃんになった由愛とか勘弁よ」
「……分かってますよ。理由もなく置いて行くことはないって。でも、記憶を消すのはやり過ぎですよ」
「それはどれだけかかるか分からなかったのがあるからだ。それに寂しくない様にサライラがいてくれただろう」
「それはそれ。これはこれですよ。2人がいなくて寂しかったんですよ?」
「あー。どうすればいいんだ。こりゃ」
「頭でも撫でてあげればいいんじゃない?」
由愛はそう言って馬皇と真央を掴む力が強くなる。2人の間で顔をうずめて動こうとしない由愛に馬皇は困惑した状態で真央にたずねる。真央は適当にそう言うと早速行動に移す。
「悪かったな。由愛」
「ふぁぁぁ」
馬皇に撫でられた由愛は心地よさそうな声を出す。
「由愛ばかりズルいですわっ‼ 私にもっ‼」
「はわっ‼ まっ馬皇さんっ‼ はっハレンチですっ‼」
「なんでだよ」
そんな由愛を見ていて我慢できなくなったのかサライラが馬皇と由愛の間に割って入る。サライラは空いた方の手を動かして頬に当てると猫のようにスリスリさせる。それを見た由愛は恥ずかしそうに馬皇に言い放ち理不尽な物言いに馬皇はツッコんだ。
「えへへぇ」
蕩けるようにサライラの表情がほころぶのを見た後に由愛は少し落ち着いたのか今の姿勢を思い出して馬皇と真央を離す。まだ恥ずかしさが残っているのか馬皇たちから眼を合せないまま言った。
「と、とりあえず、ゆ。許してあげます。ところでどうして私とサライラさんはここに来れたんですか?」
由愛は少し動揺しながらも何事もなかったかのように気になったことをたずねた。普通であればこの場に由愛が来る意味も必要もない。それに加えて思い出しただけでこの場に来れるくらいに簡単な場所でもないはずである。
「あ。そうだったわ。忘れる所だったわ。最後の戦いの見届け役をお願い」
「え?」
真央の言葉に由愛は聞き返す。聞き返すと今度は馬皇が答える。
「おう。地球の創世はそこまでかからなかったんだが、今度は最後の戦いの舞台の事で色々と口論になってな。実の所さっきの言い争いが最後の部分だったんだわ」
「ええ。ちょっとうやむやになっちゃったんだけど、私がさっきの間に完成させたわ」
「おい。それはズルだろ」
「ふふん。早い者勝ちよ。それよりもここは異空間を色々と改造した場所なの。今までの異空間よりも強度も規模も段違いよ。地球とか他の惑星と大差ないくらいの広さ何だから」
真央は自慢げにこの場を解説する。
「とまぁ。こんなわけで決戦の場が完成したのはいいが見届け人がいない事に気が付いてな。そのために来れるように誘導しておいたんだ。思ってたよりも早く起きただろ。そこから見まわって記憶が少しずつ戻っていくって仕組みは真央の奴が考えた」
「で、するからにはやっぱり一番付き合いの長い由愛がいてくれた方が良いってなったのよ」
「あの……やっぱりいいです」
由愛は荷が重いと言おうとするが、すぐに言うのを止める。由愛の承諾を得たことによって真央と馬皇は笑いながら言った。
「お前と出会ってからお互いに去年は45勝45敗10引き分け。ここいらで決着だ」
「そうね。ここで私の勝利で有終の美を飾らないとね」
「抜かせ」
「「勝つのは俺(私)だっ‼」」
お互いに笑みを浮かべながら言葉を交わす。そんな2人に着いて行けない由愛はどこでスタートと言えば
いいのか戸惑う。そのまま沈黙で時間が過ぎていくと痺れを切らした馬皇と真央が同時に言った。
「「由愛っ‼」」
「えっ‼ あっ‼ す、スタートですっ‼」
馬皇と真央は同時に飛びかかった。
という訳で『転生した元魔王様の非日常的な学生生活』完結です。微妙になると分かっていても最後の戦いの勝敗はご想像にお任せします。後日譚などのサイドストーリーについては書くかは未定です。
次回作は4月4日。遅くても4月6日には上げようと思いますのでよろしければよろしくお願いします。
最後まで読んで下さった皆様に感謝を。ありがとうございました。




