21話
「うぅ……」
月日は経って3月14日の早朝。中学の卒業式当日。6時という早すぎる時間に由愛は1人で教室に来ていた。教室の黒板には卒業おめでとうと書かれており、緊張した様子で席に座っていると教室の扉が開く。
「あら? 由愛? おはよう。早いのね」
「あ。サライラさん。おはようございます。サライラさんこそ早いですね」
「何だか今日はお父様に合える気がして」
「早く会えるといいですね」
「ふふ。今日は自身がありましてよ。それにしてもあの事件から約10か月近くでもう卒業ですか」
サライラは由愛の隣の席に座ると感慨深そうに言った。
「そうですねぇ。まさか、一瞬とはいえ地球が消滅するなんて思ってもみませんでした」
由愛はそう言いながらあの日あった出来事を思い返す。春から夏にかける間のあの日。確かに地球はその姿を消した。皆月の企みを阻むために宇宙にあるWCAの本部にクラスの全員と鉄で攻め込んだ。その時に皆月が地球を含めて残っている人類すべてを人質にしたという事を由愛たちは覚えている。
敵であった天狩と親部の裏切りで地球側の人間をアマノハラに一時的に転移させておけたことによって、何とか犠牲を出さずに皆月を倒すことは出来たのだが、皆月はそこまでの現象を起こした反動で消滅。地球を崩壊させる手段を止めることが出来ずに自分たちの住む星を失くした。
しかし、なんの奇跡か皆月を倒した後に地球がひとりでに再生したのである。その現象にクラスの全員どころか天狩達も呆然と見ることしか出来なかったのは今でも記憶に焼き付いていた。
「そうですわね。それにあの時とこの世界で由愛にあった時にはお父様の匂いがしていたんですけれど……」
「あはは……」
由愛の言葉にサライラはうんうんとうなずく。その様子にどう答えたらいいのか分からない由愛は苦笑いして場を濁して地球に戻って来た時の事を振り返る。由愛たちは地球に戻って来ると人類だけがいない無傷の地球に驚愕しながらもアマノハラに転移させられた人たちが戻って来たことによって色々と知らされることになった。
皆月が地球を崩壊させるために暗躍していた事。天狩が、アマノハラを通して地下世界アガルタ全体の都市に地球に対する警告と緊急用の転移陣を仕込んでいたという事。鉄たちの組織である互助会も鉄を通して皆月の行動を逐一チェックしており、転移洩れした人たち全員を確保しつつ空間をつくる系統の異能持ちによるプライベート空間を利用して救出してのけたのである。
そこから時間を巻き戻すような地球は再生した様子を確認すると最初は探査のために少数の人間が調査のために行き来していたが、安全であることを確認すると転移させられた人たちも無事に元の場所に戻され今まで通りの日常に戻って来たのである。世界から英雄と呼ばれるおまけ付で。
「あの人の波は竜種である私もある意味怖かったですわ」
「ですよね」
サライラはそう言って身震いする。押し寄せるように迫って来て何度も同じことを繰り返し聞かれる迫力には身の危険を感じるのは由愛にも分かるためにそれに同意する。
世界を救ってからしばらくして。ある程度の情勢が回復すると世界中からマスコミやらが押しかけてきたのである。
しばらくは学校生活すらまともに送れない事態に陥るのだが、ユメリアがアマノハラ領主としてクラスと相談。天狩と共に世界中の報道やネットなどを一手に引き受け、国であるアマノハラが上手く采配してクラスメイト達やユメリア自身への視線をうまく誘導。それによって無事元の平穏を取り戻すことに成功したのは2か月前。ユメリアが仕事を終えてひと段落して戻って来たのが卒業式の1週間前。本人は頑なに「卒業式は仲良くなったクラスのみんなと」と言っていたために一時的に地球に戻ってきて、今はホームステイ先の由愛の家で夢の中である事とは想像に難くない。
「という訳で最後にいろいろ見て周りましょうか。時間はまだありますし」
「分かりました。最初はどこに行きますか?」
サライラの誘いに乗って由愛は席を立つ。由愛にたずねられたサライラは少し考えると言った。
「鉄先生の生徒指導室はどうですか?」
「さすがに鉄先生もまだ来てないんじゃ……」
「大丈夫ですわ。来た時にばったりとお会いしましたから」
そう言って由愛の手を取りサライラは手を引っ張ってゆっくりと進む。教室を出て玄関の方へ戻っていくと頑丈な扉の前で扉を見る。部屋の方は明かりがついており、誰かがいるのが分かる。
「この扉も見納めとなると少し感慨深いですわ」
「今は見慣れちゃいましたけど最初見た時は驚きました」
「……そう言えば鉄先生はこの教室で1人の時は何をしてるのでしょう?」
「お仕事してるんじゃないですか?」
「少し覗いてみましょうか」
「止めましょうよ」
少し興味があるのかサライラは興味津々といった様子でそう提案する。由愛はそう言ってサライラを止めようとする。
「大丈夫ですわよ。仮に見つかったとしてもきちんと誤れば鉄先生なら笑って許してくれますわ」
「そうですか? うーん」
サライラの言葉に由愛は少し悩むとそれを無視して先にサライラが部屋を覗き込む。
「どれどれ」
「あ。もう。少しズルイですよ」
好奇心には勝てなかったのか1人先に覗き込んでいるサライラを見て吹っ切れた様にサライラの横からそっと覗き込む。
「ふん。ふん。ふん。ふん。ふん。ふん。ふん。ふん。ふん。ふん…………ふむ。中々の出来だな」
中を覗き込むと上半身裸でスクワットを繰り返す鉄が居た。しばらくするとポーズを決めて自身の肉体を確認。満足した様子で先程と同じようにスクワットを再開する。
「うわぁ……」
「はわぁっ‼ あわわっ‼」
鉄自体は悪いことを一切している様子はないのにひたすらに体を苛め抜いている鉄を見てサライラはドン引きしたような声を出す。上半身裸である事が気になるのか見てはいけない物を見てしまったと言った顔をしている由愛は顔を赤くして目を手で覆う。幸い完全にトレーニングに熱中しているのかサライラ達が覗き込んでいるのには気づいていない。
「そっとしておきましょうか」
「……はい」
由愛の反応を見てサライラはそう言うと少し遅れて由愛は答える。
「上半身だけとはいえ裸は予想外でした」
「朝からあれは刺激が強かったわね。筋トレに関してはある意味予想通りでしたけれども」
廊下を歩きながら鉄に関する感想を言い合う。生真面目な性格をしている生徒指導兼担任である鉄だ。むしろしていない方がおかしいのは少し想像すれば分かる事であった。
「でも……うーん」
「どうかしたの?」
何かを悩んでいるような奥歯に何かが挟まったような表情にサライラは声を掛ける。
「え。あ。すいません。何か忘れていたような気がして……」
サライラの心配そうな顔を見て由愛は我に返ると素直に思った事を言った。
「あら。それは大変ですわね。忘れ物かしら?」
「……違うと思います。卒業式で本当に必要な物なんて特になかったと思いますし。それに行く前にも5回ほど確信しましたし」
「多いわね……。でも、そうなると何を忘れているのかしら? 他には何かないの?」
由愛の確認した回数に呆れた様子でサライラはそう言うと忘れ物ではないという点に疑問が残る。サライラはさらに突っ込んだ質問をすると由愛は真剣な表情で言った。
「……なんでしょうか。とても大切なことだったような。そうでもないような。懐かしいような。皆月を倒す前くらいまでは当たり前だった様な……」
「微妙に揺れてますわね。なら次は体育館裏の焼却場前まで行ってみましょう。もしかしたら歩いている間に何かを思い出すかもしれないわ」
「……そうですね」
由愛は釈然としない感情を抱えながらもサライラと共に体育館裏へと歩き出した。
という訳で卒業式直前に飛びました。由愛は前日のドキドキで早くに眼が覚めて眠れずにいても経っても居られなくなったために早朝に教室に来ています。ちなみに前話の通り記憶にはある程度の改ざんがされいるため現状は誰も馬皇と真央の事を覚えていないという感じでです。
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