14話
『『鉄先生っ‼』』
洋介は鉄にかばわれた事に気が付くと叫んだ。動揺する洋介に鉄は言った。
『落ち着けっ‼』
『っ‼』
『この程度の損傷は想定内だ。行けっ‼』
鉄は損傷した腕を馬皇の方に向ける。腕は肘の部分から回転を始め発射された。馬皇の方へ飛んでいった腕は顎へ吸い込まれるように命中すると激しく爆発した。
『ふぅ。まさか最初から使うとはな。ロケットパンチ』
爆発の閃光と煙によって馬皇の視界が完全にさえぎられると想定外だったのか鉄は呟く。馬皇の方を見ると煙が邪魔なのか翼を大きく広げて動かす。空気がないために翼を動かすだけでは推力は得られないが、それが近くにある衛星や地球の破片が鉄たちに襲い掛かってくる。
洋介は迫りくるデブリに乗り移りながら、サライラは翼から魔力を出すことで空を飛ぶのと同じように、天狩たちはアークを器用に制御しながら、鉄はスーツについているバーニアによる制御を利用して回避していく。
『いやいやいや‼ ちょっと待って‼ 何だよっ‼ あれっ‼』
破片による攻撃を乗り切ると予想外な鉄の行動に洋介は思わずツッコミを入れる。天狩の声が聞こえた。
『私が説明しよう。この巨大スーツ。アトラスであるが、さすがに素材という面では潤沢であったが、一つ問題を抱えていた。そうっ‼ 強度の問題がっ‼』
『勝手に話始めたんだが、サライラさん。どうすればいいんだこれ?』
『とりあえず好きに話させておけばいいですわ。それよりも来ますわ』
実況者のような解説を始める天狩。それをBGMに馬皇も本格的に動き始めたのか馬皇は吠える。
「――――aaaaaっ‼」
本来は聞こえないはずの音。頭に響くように重苦しく感じる音が聞いた者全てを硬直させる。馬皇はというとブレスを終えてから即座にブレスを吐く。
『まずいですわ』
サライラはとっさにブレスを放つ。しかし、溜める時間も少ないために馬皇のブレスの勢いが気持ち弱まった程度で洋介たちに向かう。
『やべぇ‼ リル‼ 何かないのか‼』
『我もブレスを吐ける‼ ほら‼ 口の周辺に魔力込めるのじゃ‼ 外からもじゃ‼ soreigaino
制御は我がやる‼』
『ええぃ‼ ままよ‼』
迫りくる馬皇のブレスに洋介は慌てて魔力を集めることに集中する。宇宙空間にある魔力を自身の口元に集める。リルに体の制御を代わると集めた魔力を食べ遠吠えするように放出した。
『―――ぉぉぉぉぉぉん‼』
遠吠えと混ざり合い放たれたそれは馬皇のブレスと拮抗する。しばらく互いに打ち消し合うとブレスは相手に止めを刺すことなく終了する。
『……すっげぇ』
『はぁっはぁっはぁっ。……そうであろう。だが、いくら我でも連続は無理じゃ。緊急のとき以外は躱すのじゃぞ‼』
『……‼ 分かった‼ すまねぇ』
洋介はリルが放った一撃が馬皇の一撃と同程度という事に驚く。しかし、それ以上にリルの消耗が激しいという事実に気を引き締める。馬皇はというと洋介の攻撃を警戒しているのか様子をうかがう様に動きを止めている。
『洋介。助かった。それと天狩‼ まだ戦闘は終わっていないぞ‼』
『…―――――――逆転の発想。つまり、パーツを換装させることによって……っと。そうだった。すまない。すぐに転送する』
鉄が天狩に声を荒げると現実に引き戻されたのか現状をすぐに把握して天狩はアークに備え付けられているスイッチを押す。アトラスの亡くなった腕の先の空間から先程とは少し変わって盾が装着された腕が現れると合体。連結すると鉄が手を握る感覚を確かめているのか手が握られる。
『よしっ。連結完了。どこも問題ないぞ』
『こちらからも確認した。思う存分に力を振ってくれ』
『うおぉぉぉ。合体だ……。色々ツッコミたいが、合体なんて初めて見た……』
『真央が好きそうですわね』
男のロマンが詰まったような機能を見て洋介がつぶやく。その傍らでサライラが呆れた様子でそれを見る。
『この盾は?』
新たに腕に装備された盾を見て鉄は天狩にたずねる。
『彼のブレスを想定して作り出した物だ。最初から用意できれば良かったのだが、威力がわからんのに最強の盾を用意しても防ぎきれなかったら目も当てられないから最初は装備させなかった。先のブレスの威力であれば10倍までなら耐えられる計算だが、過信するなよ』
『助かる。それと行くぞ。洋介。イズバルド。私が先頭に立つ』
天狩の言葉を聞いて鉄は号令をかける。洋介たちを守る様に鉄は先頭に立つとサライラが言った。
『サライラでいいですわ』
『分かった。これでいいか? サライラ』
『ええ。もちろんですわ』
鉄も直ぐに順応するとサライラはうなずいた。鉄は盾を前に出すと正面から加速を始める。鉄の行動に合わせるように洋介たちも後ろを着いて行く。射線上にいる鉄が正面から突っ込んでくるのを確認した馬皇は先程と同じようにブレスを放った。
極大のブレスが鉄たちの全体を覆う。光の奔流によって視界が白く染まる。
『くっ‼』
鉄の口から声が漏れる。天狩の言っていた通り盾は十分に機能して鉄たちを守る。光の奔流によって鉄たちが焼き切れるという事はないが、ブレス自体の持つエネルギーの勢いに鉄の纏うアトラスの推進力と拮抗する。
『まだだっ‼』
鉄はバーニアを噴かせてじりじりと拮抗状態から徐々に勢いを取り戻していく。が、それも少しの間だけですぐに拮抗状態に戻る。
『サライラ‼ 洋介っ‼』
鉄はさらに勢いをつけるためにサライラと洋介に声を掛けた。
『分かりましたわっ‼』
『鉄先生‼ 気張ってくれよ‼』
後ろからサライラと洋介はブースタ―の部分を避けて鉄の背中を押す。洋介とサライラは魔力を逆噴射させて勢いをつける。
『うおおおぉぉぉぉぉぉ‼』
鉄たちは光の奔流に逆らう。光を突き進んだ先にはブレスを続ける馬皇の目の前に出る。そのままアッパーを顎に叩き込むと口を開いたまま頭が上に跳ね上がる。馬皇はブレスを中断させるが動きが止まる。
『今だ‼』
鉄が声を掛けると後ろに控えていた洋介が飛び込む。洋介の牙が馬皇の翼を削り取る。馬皇が洋介に反撃しようとするが、鉄が妨害する。
『させん‼』
鉄の腹部に蹴りを繰り出す。洋介の方を向いたために馬皇は蹴りを背中で無防備にくらう。馬皇も反撃で鉄を尻尾で薙ぎ払う。鉄も辛うじて防ぐが盾ごと腕を粉砕される。
『鉄先生っ‼』
『大丈夫だ‼ いけぇ‼』
洋介は懐に入って妨害していた鉄が引き剥がされたことによって助けに行こうとするが、それを制止して攻撃を再開させる。
『うおおおぉぉぉ‼』
洋介は振り切った尻尾に爪をたてる。尻尾に取りついた洋介に馬皇は暴れるが、しぶとく粘る。
『溜まりましたわっ‼』
異様に長く感じられる時間の中でサライラの声がする。馬皇の振られる尻尾に洋介はタイミングを合わせて離れると毛を逆立てて威嚇する。馬皇も洋介の方に完全に意識が向いて言うのか目を離さない。
『お父様‼ これが今の私の全力ですわ‼』
馬皇の横でサライラは言った。洋介の奮戦によって稼がれた時間はサライラがブレスのために魔力を溜めるには充分であった。サライラは自分が溜められる最大まで溜めた魔力を解放する。自身の体の数十倍の大きさを誇る光の線は馬皇を捕える。横から迫ってくる閃光に馬皇は気が付くが、避ける間もなく馬皇を飲み込んだ。
『やった』
『行けたか?』
サライラの一撃に鉄と洋介が確実にクリーンヒットした。その一撃が旨く言った事に喜びの声が漏れる。が、それも長くは続かなかった。
『まじかよ』
『いや。効いているぞ』
ブレスを出し切ったのか徐々に細くなっていく先にあったノアは馬皇が立っている姿であった。確かにダメージらしきものが蓄積できるのは確認できるが、それを上回る速度で馬皇は再生していた。すでにちぎられた翼が再生しているのを見て顔をしかめる洋介。しかし、他の傷の治りが遅いのを見て、鉄は確実にダメージが入っている事を確信する。そこから洋介を鼓舞する。
『やはり、全力でもお父様の再生力を超えられませんわね。ですがっ‼ 鉄‼ 洋介‼』
サライラはさらに弱らせるための方法を思案する。どうにかしてある程度まで弱らせなければ対話どころではないからである。
『分かっている‼』
『わりぃ。少し弱気になってた』
『構いませんわ。それよりももう一度行けますわね?』
『もちろんだ。だが、換装までに少し時間が掛かる』
『俺はまだ行けるぜ』
洋介たちにサライラは状態を確認する。先程と同じように懐に入るのは警戒されている。そして、馬皇からの攻めてくることを警戒しながら再度、懐に入って同じようにダメージを与える策を練る。
「――――――ぉぉぉぉぉぉ――――――‼」
馬皇が吠えた。しかし、動きはない。
『どういうことだ?』
『どうなってんだ?』
鉄と洋介が同時に頭をかしげる。
『お父様が……悲しんでいる?』
鉄と洋介の疑問に答えるようにサライラが今の咆哮から感じられる感情をつぶやく。先ほどのような威圧するような圧迫感はそこにはなく、戦う意思とは別の悲しみのような含んだ音。それはさながら泣いている様であった。
日に日に書くのが遅くなって行っているのを時間を見て実感して焦っているhaimretです。書くのが遅くなっているのもありますが、書き始めの時間が遅くなるとどうしても……。今回は宣言通りに鉄たちの視点。次回は真央たちの視点になる予定。
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