13話
前回は洋介たちの視点でするって言いましたが、予定を変えて真央たちの視点です
「ふふふ。少し予想外でしたがうまくいきました。……ふふふふふふ。ふははははは‼ ……素晴らしい‼」
馬皇の精神世界の中枢。竜の姿をした馬皇の真上で皆月は笑い声をあげる。もはや人間の姿ではなく、むき出しの脳のような姿へと変貌していた。触手そのもので馬皇の頭に触れてそこから力を吸収するごとに触手が脈動し、皆月の元へ吸収される。それを続けていると皆月は何かが近づいてくるのを感知したのかある方向を向いた。
皆月は即座に自身を障壁で覆うと真っ直ぐに突っ込んできた存在をその場で受け止める。障壁同士がぶつかるとその場でせめぎ合う様に力場が斥力となって小さい方を弾く。弾かれて出てきた存在に皆月は言った。
「しかし、私の崇高な目的を理解できない愚か者がやはりやってきましたか。それも良く知っている者が。それならばあえて言わせてもらいましょう。しつこいですよ」
悦に浸っていた皆月が先程のテンションの高い発言とは打って変わって底冷えするような声音であった。
「ふん。あんたよりもましよ」
「うぅん」
弾かれた方から出てきたのは真央たちであった。真央は目の前の変わり果てた存在を皆月だと認識すると皆月に言い返す。
一方で結女はというと真央の胸元でまだ抱えられており、衝撃で未だ目を回している。
「ですが、少し遅かったようですね。私は彼の力の一端を取り入れ始められました。素晴らしいですよ‼ 彼の力はっ‼ 少しとはいえ厄介であったと感じられた貴女が矮小な存在であると今は感じられる‼ 少々姿が変わってしまいましたが、それすらもこのあふれるような力と全能感では大したことはない‼」
酔いしれるように答える皆月。完全に逝ってしまっているような発言と表情は分からないが恍惚とした声音に真央は顔をしかめると先制とばかりに魔法で作った炎の槍を皆月に投げ込むが、炎の槍は皆月に当たることなく掻き消える。それに呼応するように皆月の体が一回り肥大化する。
「はははははっ‼ 無駄ですよぉ‼ 今の私は無敵‼ あらゆる攻撃が私の力となる‼」
皆月は真央が放った炎の槍と同じものを作り出してから射出する。
「面倒くさいっ‼ わねっ‼」
真央は来た攻撃を鬱陶しそうに魔力で作った手で払う。
「器用なことを。こうでしょうか?」
皆月は真似をするかのように魔力で手を作ると真央の魔力の手と掴み、拮抗するように押し合っている。
「マネしてんじゃないわよっ‼」
皆月が遊んでいるような声で真央の真似をするために怒りで皆月の魔力の手の力を超えたのか握りつぶす。
「おぉ。さすがですね」
「嫌味のつもり?」
皆月は称賛するように答えると真央は皆月を睨む。
「いえいえ。そんなつもりはないですよ? 力を得たとはいえ、その力の使い方を知っている訳ではありませんからいろいろ試さないと。なので時間つぶしとしては最高ですよ?」
「っ‼ このっ‼」
皆月の答えに真央がキレる。真央は様子見で投げた炎の槍とは比較にならないほどの魔力で圧縮するとその炎の槍を今度は強化した自身の膂力で投げる。音を置き去りにする速度で放たれたそれを見た皆月はそれを受け止めようと障壁を展開する。
「甘いっ‼」
そこから真央は炎の槍の石突きの所を調整した爆発で加速させる。皆月も加速したのが想定外なのか結界を展開するよりも早く皆月に迫るが、それも少し皆月の内部に侵入した程度で障壁が槍を途中から絡め取ると掻き消える。
「ふぅ。さすがに少し焦りましたよ。お返しです」
皆月も二段構えの加速には焦るが、それも難なく吸収すると真央の魔法と完全に同じものを作り出し連続で射出。真央にタイミングを測られないように時間差をつけて石突きを爆発させて加速させる。
「舐めるなっ‼」
真央は障壁で全てを防ぎきる。それに対して皆月は最後に当たった場所と同じ場所に同じく炎の槍を射出。真央は障壁の場所で最大加速になる様に少し前で爆発させて炎の槍そのものを爆発させる。視界を遮られると同じ場所にさらに皆月は絶え間なく新しい炎の槍を真央の障壁にぶつけ続ける。それと同じように連続で射出し続ける場所を増やす。
「っく‼」
障壁を作りかえる間を与えない様に射出され続ける炎の槍が全方向から60を超えたあたりで真央が顔をしかめる。
「……うぅ。って‼ そんな場合じゃない‼」
真央が必死に抵抗している間で結女は覚醒すると押されている状態を目にして由愛は慌てて魔力で術を構築する。瞬時に構築された魔術は皆月が創りだした魔法諸共真央の障壁をも全て消し去った。
「へ?」
「ん?」
いきなり攻撃と防御が掻き消え無防備な状態になったことに真央と皆月は困惑する。皆月は新しく魔法を繰り出そうとするが一切反応しない。
「ふぅ。なんとかなった」
結女はやり遂げた様に表情で真央から降りる。
「どうなってんのよ? これ?」
「魔を払っただけですよ。これでも巫女さんなんですから」
自信満々に答える結女。
「なぜ使えないぃぃぃ‼」
皆月は真央を真似て作った魔法を使おうとするが、一向に発動する気配はない。
「無駄ですよ。それとさっきは少し調整失敗しましたけど今なら真央さんは使えますよ?」
結女がそう言うと真央は先程作った炎の槍を発動させる。すると抵抗もなく発動する。
「発動を選べるとか便利ね。私も出来ないかしら」
「うーん。無理だと思いますよ?」
「なんで疑問形なのよ?」
「えっと。払えるのは私特有の異能らしくて魔術でも魔法でもないんです」
「じゃあなんなのよ?」
「さぁ?」
結女は頭をかしげる。本人も分からない物であるために聞いた真央が分かるはずもなくこれ以上聞くことを諦めため息が出る。未だに叫び続ける皆月に真央は同じように炎の槍を投げる。
「うるさい」
「ぎゃあああぁぁぁ‼」
先程まで吸収していたはずの攻撃が当たり皆月は叫ぶ。チャンスとばかりに真央は取り乱した皆月に向かって鉄、氷、雷、光、闇、風……と様々な属性の魔法で作った槍で皆月を突き刺さして槍そのものは残しておく。
「おまけよ」
最後に突き刺した槍の魔力を解放する。鉄は爆発した時に細かい破片として対象をズタズタに引き裂き、氷は侵食して対象をさらに凍らせ、雷は内部で放電など、それぞれが属性に呼応した現象を引き起こす。その現象が隣り合う属性と重なり合って別の物に生まれ変わり対象を蝕んでいく。
やがて抉れたり、焦げたりした皆月が沈黙する。
「やったかしら? あ。さっきのセリフは駄目だわ。もうひと押ししないと」
真央はそういうと同時に光と闇の特大の魔力球で皆月を挟み衝突させる。属性の相反する同士の属性をぶつけることによって打ち消されるのであるが、その打ち消し合うという実態は対消滅を起こすのである。その渦中にいる皆月を声すらもその対消滅に巻き込まれ音もなく消し去った。
「ふぅ。これでよし、と。さすがにフラグをへし折れたわよね」
「真央さん容赦ないです」
塵も残さずに消滅させた真央はやりきったという表情で皆月のいなくなった空間を見た。結女はその容赦のなさに呆然とする。
「後はあいつを起こさないと」
皆月に攻撃を加えられて気が晴れた事と皆月のいた場所の下の方を見て馬皇が鎮座しているのを見て本来の目的を思い出すと真央は呟く。いざ移動しようとしたその時真央の正面から胸元に衝撃が走る。
「えっ?」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。真央はゆっくりと下を見ると胸元にはこぶしくらいの太さの何かが貫通していた。真央の胸元を突き刺した何かを辿ると皆月の触手が真央を貫いたことを理解する。少し遅れて口から鉄の味がせり上がって来ると同時に触手の引き抜かれる感触が真央に不快感を与える。
「させませんよ。ええ。悲願はあと少しなのです」
「真央さんっ‼ いやぁぁぁぁぁぁ‼」
皆月の狂気的な声がやけに真央の耳に残った。真央が倒れる瞬間の最期に見たのは結女が叫ぶ姿だった。
別の方向で書くのが進んでしまって遅れてしまったhaimretです。遅くなって申し訳ありません。次回こそは洋介たちのサイドだと思います。
ブクマとか評価とか感想とかくださいますと作者自信の活力が上がり、書くための動力源になりますのでよろしくお願いします




