8話
解析から数分。真央はせわしなく動いて薬草や紫色をした液体、何かを潰した粉などを混ぜ合わせる。しばらくすると薬は反応を見せて色を変えた。先程のピンク色よりも毒々しいというよりも禍々しい感じの赤よりのピンクになっているのはとりあえず放置して。
「ふぅ。出来たわ」
「早いですね」
真央の一言に対して由愛が言った。真央は何でもない風に言った。
「薬って言っても今回のはそこまで難しい物じゃないわ。素材も部屋にある物で足りるレベルだし。それに私も作ったことあるから」
「そうなんですか?」
「ええ。こいつらとは目的は違うけれどね」
真央はそういって冷ややかな目で小太郎を見る。小太郎はというと未だに倒れたままであるが真央が視線を向けると体を一瞬だけ震わせる。
「それはいいとして。後はこれを4倍に希釈してから少量でいいから対象にかけてやれば数秒で正気に戻るわ」
「これをかけるだけでいいんですか?」
真央の説明を聞いて由愛は確認のために再度たずねる。真央もそれが分かっているためにうなずき返す。
「そうよ。噛まれての感染だったら、それで何とかなるわ。ただし、直接薬を飲んだ人間に対しては飲ませてちょうだい」
真央は念を押すように言った。やり方の違う事に由愛は頭をかしげた。
「かけても効果はないんですか?」
「うーん。効果はあるんだけどあくまで足止め程度かしら。すぐに襲い掛かって来るから飲ませた方が効率いいわ。とは言っても元々の薬の原液が少なかったから」
「分かりました。でも、これを直接掛けるにはどうしたら?」
「それならこれがありますわ」
そう言ってサライラは自分のポーチから水鉄砲を4つ取り出した。それを見た真央は胡乱気な眼で言った。
「……なんでそんなの持ってるのよ?」
「私の宝物の1つですわ。今回だけの特別ですわよ」
あまりにも都合良くサライラが持っていることに呆れる真央であるが、サライラは大して気にしていないのか自慢気に持っている水鉄砲を見せびらかす。無邪気な様子のサライラに対して由愛は素直に受け取ってから礼を言った。
「ありがとうございます」
「構いませんわ。私もこれを使って遊びたかったので」
「水鉄砲なんて久しぶりに見ました。懐かしいなぁ。小さいころは子供用のプールで遊んでたっけ」
「それは楽しそうですわね。今度やりませんか?」
「いいですねぇ。でも、少し恥ずかしいような」
「それについては問題ありませんわ。真央とお父様も誘って、人のいない場所でやりましょう」
「おーい。目的が変わってるわよ。サライラも。由愛も」
サライラは遊ぶ気満々であった。小さい頃に使った事はあるがそれ以降は見る事のなかった水鉄砲に少しだけテンションの高い由愛。2人の様子に真央はツッコミを入れるが効果はなく真央はため息をつく。
「そうでしたわ」
「すみません。真央さん。勝手に決めちゃって」
「それについては構わないわ。でも、するんならもっと本格的なの用意するから楽しみにしてなさい」
「本格的なのって、何するつもりなんだよ? ってか、水鉄砲がなんでイズバルドさんのポーチから出て来たとかサイズが明らかに4つ入るサイズじゃないとか色々ツッコミたいけどそろそろ本題戻ってくれ」
真央たちのやり取りに今まで黙っていた小太郎は倒れたふりを止めて言った。3人で盛り上がっていたが、今はそれどころじゃないことを思い出すと軽く咳払いして薬を水で薄める。
「コホン。それじゃ見つけたらどんどんかけちゃって問題ないわ。私はこの解毒薬をもう少し作るから。……それといい事を思いついたからついでに作っちゃおっと」
「分かりました。サライラさんと角松君と一緒に行ってきます」
「いってらっしゃい」
真央はぽつりと不穏なことを言うが由愛には聞こえなかったのか水鉄砲に薬を詰めてからそのままいつでも出られるように扉の前に移動する。やる気十分な由愛の後を追う様にサライラも準備を終えて小太郎を連れて行こうとする。
「さぁ。小太郎。行きますわよ」
「待って。真田さんは何作る気なの‼ ってか‼ 俺まだ入れ終わってない‼」
サライラに引っ張られるが、さすがに水鉄砲の水は入れないと大変なことになることが分かっているために必死に入れる小太郎。最後にぼそりとつぶやいた言葉が聞こえていたのか真央が見ていない間に何をやらかすのか不安になる。
「別に変なことはしないわよ? ただ、一部の人間が数百倍に大きくなるだけよ」
「こえぇよ‼ ちょっと‼ 何言ってんの‼」
「大丈夫よ。少しだけだから」
「何がっ‼」
「準備が出来ましたわね。行きますわよ」
「ちょっ‼ 分かったから引っ張らないで‼ きちんと着いて行くから‼」
真央はいつも通りといった様子で答える。本当に碌でもなさそうなことを答えられてツッコまずにはいられない小太郎。薬を入れ終えた小太郎のツッコミが準備の終わりだと判断したのかサライラは小太郎を引っ張って扉の前で構えた。
「さぁ。行きますわよ。それと小太郎はさっさと気持ちを切り替えてくださいませ」
「……いや。どう考えてもすぐには無理だって」
「小太郎」
「どうした。イズバルドさん」
「小太郎のかっこいい姿を見せてくださいな」
「任せろ」
サライラがそう言うと小太郎は気合が入ったのか扉を開けて直ぐに飛び出す。ドアを開く音に反応したクラスメイトたちに小太郎は水鉄砲を当てるとクラスメイト達は意識を失って倒れる。
「ふっ。他愛もない」
銃口の煙を吹き消すように「ふっ」息を吹きかける。調子に乗っているのがありありと分かる。
「おぉ」
「ふむ。小太郎は意外とと出来る子ですわね」
由愛が拍手してサライラが感心するように言った。
「以外とは失礼だろ。イズバルドさん。だが、今の俺に出来ない事はない」
小太郎がそう言うと同時にいつの間にか背後から近づいていた気づかずにクラスイトに噛まれた。
「「あ」」
サライラと由愛は同時に声を上げる。小太郎も噛まれてから気が付いたのか呆然とした表情のままその場に倒れ込む。少しすると頭だけを上げた小太郎。その様子は周りのゾンビになったクラスメイト同様に血の気のない意識のなさそうな様子であった。こうして小太郎は呆気なくゾンビ(?)の仲間入りを果たした。
「えいっ」
が、さすがに仲間がいきなり敵になったのは忍びないと思ったのか由愛は起き上がろうとしていた小太郎に薬を浴びせる。小太郎は抵抗する間もなく再び地面に倒れた。
「警戒をおろそかにした末路は呆気ないですわね。安らかに眠って下さいですわ」
「角松君。死んでませんよ」
「まぁ2人でも問題ありませんわ。由愛も油断しない様に行きますわよ」
「はい」
小太郎の末路を見てサライラ冥福を祈るような行動をする。それに対して由愛は苦笑しながら言うと気持ちを切り替える。そうこうしながら2時間ほどかけて船内で暴走しているクラスメイト達を全員正気に戻すのであった。
少し短くて不安になっているhaimretです。息抜き? 終了。次回は作戦実行。馬皇との対決です。お楽しみに。
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