7話
「うぁぁぁ」
「なんでそんなに恥ずかしがってるんです?」
サライラによって運ばれた小太郎は真央の部屋のソファの横で声を上げていた。それを見たいた由愛が頭を傾げてそう言うと真央が答える。
「あれよ。自分よりも背の低くくて綺麗な同い年の女の子に運ばれた上にサライラが運んだ時の安定感が思った以上でときめいたんでしょ」
「そこまで気にしなくても私は気にしてませんよ?」
「うわぁぁぁぁぁぁ‼」
図星だったのか真央の説明とサライラの追い打ちによって体を丸めて小太郎は顔を隠す。しばらくは使い物にならなそうな小太郎をしり目に真央は現状について尋ねた。
「それよりも慌ててたようだけどどうかしたの?」
「部屋の外でクラスのみんながゾンビみたいに徘徊してるんです」
「徘徊? それにゾンビ?」
由愛の短い説明に真央はいまいち状況を理解できずに聞き返す。それを補足するようにサライラが喋りはじめた。
「部屋の外では理性を失っていると思われる子たちでいっぱいでしたわ。ゾンビって言っているのはゾンビっぽい動きでのろのろと当てもなく歩いている姿を見て似てるって思ってたからですわ」
「そう。ようはそれっぽい動きってだけなのね」
「ええ」
「それなら原因は分かってるの?」
「それについては分かりませんわ。小太郎は少し事情を知っていそうでしたけどこの様子じゃあ……」
「あ。それについては任せて」
真央はそう言って小太郎の横にしゃがみこむ。
「ほら。さっさと起き上がりなさい」
「……」
真央は体を揺すりながら小太郎に言った。
「あんたから話を聞かない事には状況が理解できないわ」
「…………」
「他のみんながどうなったのかも聞かないどうしようもないんだから早く話を聞かせなさい」
「………………」
真央が小太郎に言い聞かせるようにたずねるが小太郎からは反応がない。小太郎の態度に腹が立ったのか気の短い真央から何かが切れる音がする。
「ああ。まどろっこしいわね。恥ずかしかったのというのは分かるから少し慰めてみたけど、はっきり言わせて貰えばすごくどうでもいいし、あんたの気持ちとかどうでもいいからさっさと答えなさい。さもないと削るわよ?」
「怖ぇよ‼ ってか最初から慰めてねぇよ‼ あれ‼ 真田さんといい、イズバルドさんといいなんでそんなに物騒なの‼」
声音は先程の説得と大して変わらない。ただし、宣言したことは本気なのか真央の手元で風の魔法が高速で乱回転を始めて小太郎に近づける。小太郎は羞恥心よりも命の危機の方が上回ったことによって復活する。
「別にあの程度だったら大したことないじゃない。そんな事よりも出来るだけ簡潔に事情を説明しなさい。サライラ達にもまだ言ってないんでしょう?」
「そんな事って……。いや。話すけどさぁ。それに話せなかったのはイズバルドさんが―」
「いいから早く」
真央の催促によって小太郎はなんというか釈然としない思いにかられながらもこれまでに合った事の説明を始めた。
「あれはいつもの作業の少し後の話なんだけどな。いくら外と比べてもゆっくりとした流れている時間が違うから、それなりに忙しいとは言ってもそれぞれに自由時間とかある訳だろ」
「ええ。そうね。でも、そこまで根を詰めなくても大丈夫なように計画は進めているつもりなんだけど。それこそ作成の方は私の下僕も召喚してる訳だし、天狩が手伝ってくれているおかげでかなり早く計画は進行しているわ。それに力仕事とか組立も手伝ってくれてるじゃない」
「ああ。さすがに何もしないってのは俺たちも気が引けるからな。あいつを助けるって言っても対抗手段がないとはなしならないからな。感謝してる。感謝してるが、……その……な」
「? 何でそんなに言い淀んでるのよ?」
小太郎は微妙な顔をして言葉を濁した。その理由が分からずに真央はたずねる。その反応に更に言い辛くなったのか口を閉ざす小太郎。
「角松君。困ってるんなら言ってくれないと分かりませんよ」
「別に変なことを口走っても私は気にしませんわよ?」
由愛とサライラがたずねると小太郎は聞き返す。
「本当に言ってもいいのか?」
「なんでそんな前置きがあるのよ?」
「いいんだな?」
「時間はあるけど、そこまで余裕がある訳じゃないわ。早く言いなさいよ」
念を押すように小太郎がそう言うと真央は少し身構える。何を言うかは分からないがどうせ碌でもない事であろうことは想像できた。が、それは聞いてから判断すればいい。真央はしばらく小太郎を見ていると決心がついたのか小太郎は答えた。
「実はな色々と……な。クラスの男子の中である薬が流行ってたんだよ」
「それの効能とかは? 副作用とか材料とか」
「真央さん。それ以前にどう考えてもまともな薬じゃないですって。危ない薬はダメですよって言うべきなんじゃ」
小太郎の言葉に真央は興味がそそられたのか色々とたずね始める。それに対して由愛はたしなめるように言った。
「いや。別に非合法の薬って訳じゃないんだ。ちょっとした魔法薬だって。仲間内で作った、な。あっちの世界にいる時に他の冒険者に教えてもらった奴で危険性とかないかは向こうで調べたし何度か使ったけど問題はないやつだから安心してくれ」
「それで? 何の薬なの?」
「透視薬」
「バカじゃないの」
「ぐっ」
小太郎がそう言うと真央はそれの応用先まで色々と思考を巡らせて、何の目的でそれを作ったのか察したのか冷めた目で言った。小太郎もそれについては否定できないのかぐぅの音も出ない様子であった。
「えっと? どういう事なんですか?」
さすがに薬の名前だけで小太郎たち男子が何をしようとしたのか分からない由愛がたずねると真央は答えた。
「薬そのものは別に大したものじゃないし、怪しい物じゃないわ。ついでにその製法を教えた冒険者の男もね。透視薬は本来、魔力に働きかけて眼に魔力を行き来しやすくすることで目的の物を見ることが出来るようになる薬よ。未来とか過去とかは見れないけれど、配合によっては遠くの物や障害物に囲まれて見えない先とかも見ることが出来るわ」
「便利ですね」
「ええ。便利よ。普通に使えばね」
「つまり?」
「用途によって作り方を変えれば自由にいろいろ作れるんだけど、こいつらはそれを服を透かすことに特化した薬を作ろうとしたの。つまり、私たちの服の先の裸を見ようとしてたって訳よ。変態よね。まぁ、素人でも作れる分こういう事例は良くあるんだけど、その中に失敗作の中でもさらに変異した何かが混ざってると今回みたいにパンデミックが発生するわ。こういうのが無いように地球では免許制があるんだけど、リーングランデではそういうのないから今回みたいに大惨事が起こったって訳なんだけどね」
「角松君……」
「言わないで。分かってるから。これ以上は俺の心が折れる」
小太郎が言いたくなかった理由が分かり、由愛もさすがに擁護できないのか呆れた様子で小太郎を見る。由愛の視線から罪悪感の方が大きいのか落ち込んだ様子で由愛から目を逸らす。
「裸程度で何を興奮するのですか? それだったらさっさと好きな子に告白でも何でもして恋人を作れば、よかったと思いますわよ?」
「ぐっはぁぁぁっ‼」
「か‼ 角松君も落ち着いて‼ サライラさん‼ それは追い打ちです‼ 好きになっても相手の女の子が興味ない場合もあるんですよ‼ 欲を丸出しの角松君は私もごめんなさいしますけど‼」
サライラの言葉に加えて由愛の言葉が追い打ちとなったのか、心が折れたのか膝をつく小太郎。さすがに大ダメージだったのか弱々しい動きで懐に入ったピンク色の液体の入った瓶を真央に渡した。
「これ、が、今回の、元、凶の、原液、だ。これを、飲んだ奴らが、暴走、した。がくっ」
精神的に限界に達したのか小太郎は言葉が途切れ途切れになりながらもそれだけ言ってからその場に倒れる。器用に犯人はあの子と赤い何かで書いてである。そんな芸の細かい小太郎のネタを全てガン無視してどうして持っているのかを考える。
小太郎が飲む直前に他のクラスメイトが暴走を始めて慌てて飲むのを止めたとしたら持っている事には違和感はない。むしろそれ以外に考えられないようにも感じられたために思考を中断する。
「原液があるなら解毒役を作るのは難しくないわね。それにしても。ふーん。確かになんか変な変異を引き起こしてるわね。作る過程かしら? それとも素材に何かたした? どちらにしても想像が刺激されるわね。それと由愛とサライラは少し待ってて。調べ終えたら解毒薬を作ったら飲ませていくわよ」
真央は好奇心を刺激されたのかうずうずした様子で実験台からフラスコや分離機といった機材、薬品の効能を調べる試薬などを手早く用意すると解析を始めた。
生兵法は怪我の基 haimretです。くだらない理由ですが、むしろ決戦前だからこそ書ける。やる気スイッチを入れるための話なので良かったらお付き合いください。次回で解決する予定ですが。
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