幕間
今回の相手サイド
夜遅くの商店街。昼は買い物客や店を開いているため人はいるが、夜になると誰もいなくなった商店街は閑散としていた。
「~~~♪」
人一人いない商店街を女は1人で機嫌よく歌を歌いながら歩いていた。1人で出歩くというのは酷く危なそうに見えるが幸いと言うか一切の人気がない。しばらく気ままに歩いていると鞄の中からスマホがなった。
これからサビに入って盛り上がる直前に鳴ったので女は不機嫌になった。そんな不機嫌な調子のままスマホの通話ボタンを押す。
「もしもし」
不満の声で女はスマホに出た。そこからは男の落ち着いた調子の声が聞こえてきた。
『もしもし。Yですか? USです』
USと名乗る男は聞いた。Yと呼ばれた女性は先ほどの楽しそうだったり不機嫌そうだったりと感情豊かな声であった。しかし、今は感情のない平坦な声になり感情など初めから存在しないような様子であった。
「何の用?」
『相変わらず組織関係の話の時だけは感情を殺すな。疲れないのか?』
「用がないのなら切るわよ」
言葉は平坦であるがそれがより不機嫌なことを強調する。
『全くつれないな……』
関係ない話なら電話しないでということが感情を殺していてもUSは読み取れた。Yは着信を切ろうとスマホの画面に指を伸ばそうとした。
『依頼だ』
USとのやり取りはそこまでにしておいてスマホを耳に持っていく。改めてYはUSに言った。
「で? 本当に何の用? こっちは早く1人でのんびりしたいの」
『それは悪かったな。今回は若返りの薬の予備のサンプルを回収だ』
「そんなのあの時に回収したはずよ。残っていたとしたら大問題じゃない」
あの時は緊急マニュアルの通りサンプルや資料などは早々と持っていかせた。それで、奪われるなどあってはならないことだった。
『いや。輸送中に襲われた。どうやら、ルートが漏れていたようだ』
「役に立たないわね」
Yは本音をはっきり言った。返す言葉がないのかUSも同意した。
『それについてはこちらも思っていることだ。それに奪われた奴らはもう処分している』
「それは当たり前よね。他は大丈夫よね? 後、場所は? 分からないとか言わないでよ」
『予備である劣化した薬を奪われただけだ。他は既にこちらに来ている。ある場所は末原中学校だ』
なぜか、中学校にあると聞かされてYは首をかしげた。
「はぁ? なんで、中学校にあるのよ?」
『奪った奴だが互助会の歩く武器庫だ』
歩く武器庫とは今この学校の校長をしていたはずだ。どうやら、戦闘中に奪われていたようだ。こちらの戦闘員であっても下手すれば一方的にハチの巣にしてしまうような相手にYは気がめいった。
「また、厄介な奴の手に渡ったわね。それが本当なら残っているとは限らないわよ」
『最悪、確認するだけで構わん。今回はできるだけ情報を渡したくない。出来れば回収もしくは破壊だ。なければそのまま撤退だ』
「簡単に言うわね。報酬は?」
『5000万だ。いつもの所に入れておく』
「今回は気前良いわね」
『こちらの不手際だからな。それに、それだけ危険を伴う任務だからな。ついでで構わないからあの薬の過剰摂取で別の反応を出した個体の情報を集めてもらいたい』
あの時の化け物たちのことを思い出しYはブルッと震えた。
「……正直ね、あれを近くで目の当たりにすると干渉したくないのだけれど」
組織の末端であるため拒否できないだろうがYはとりあえず言ってみた。
『それについては無理だ。貴重な特殊個体だからな。もしかすると、人類以外の知的生命体が存在したかもしれない証明になる。それに上は興味を持っていらっしゃる』
「面倒ね」
上の考えていることなんて分からないことをYはこぼした。
『そう言うな。何かあればまた連絡してくれ』
そう言って、USは通話を切った。せっかちな奴めとYは思いスマホを耳に付けたまま言った。
「まったく。いきなり切ることないじゃない」
とにかくまた1人になることが出来たと歌って歩き出す。
「~~~♪」
そして、闇の中に歌声だけを残して消えて行った。




