プロローグ
その日。世界は終わりを迎えようとしていた。
もはや天と地の境目は曖昧となり辛うじて形を保ってはいるが、押しとどめている力が無くなっていっているのか大地も水も宙を浮き始めている状態であった。そして、その先には世界をここまで崩壊させた竜が最後の止めさすためにブレスを溜めていた。
「……あと少しなのに」
そんな光景を目の前にしてただ1人残された少女が嘆いた。仲間は既に倒れた。魔力も体力も底をついているのかその場から立つことが出来ない。竜は最後の止めのブレスを溜め終わるとほぼ真下にいる少女のいる所に向けて放った。
例え全開の状態であっても躱すことなどできない範囲の特大のブレスに死を覚悟する。仮に躱せたとしてもこの星が先に終わるだけで結末は変わらない。そんな死にゆく未来しか見えない中で少女の脳裏に浮かんだのはこれまでの出来事であった。
生まれた時から竜に愛されし者として竜と共にあった20年。10になったころから目の前の竜の王に巫女として仕え、偏見もなく分け隔てなく発揮する優しさで竜の王だけでなく、その奥方である竜や民も愛し愛された。そして、そうやって培ってきた時間とその人柄でそのまま竜の愛人として第2の妻として迎え入れられ温かな関係のまま続くと思っていた矢先に竜の王が何者かの手によって暴走。それを止めるために世界中が止めに入ったが、結果は敗北。
これまでの人生を振り返りが終わるとその後の未来とその前に跡形も残さずに死ぬであろう自分の姿が容易に想像できた。そして、何よりもはっきりと想像できるのは竜の王の……彼の大切なものを失った喪失感と慟哭であった。
「いいえ。まだ。まだよ‼ ――‼ 気合いを入れなさい‼ 彼を助けなくちゃ‼」
それを想像した少女の目に光が戻った。
自分がいなくなるのは仕方ない。それが運命だったと思えるだろうから。もしくは、愛する人に殺されるのならば、死後に恨み言くらいは言うかもしれないが、愛する彼に身も心もささげた身であるために最後は許してしまうだろう。
だが、彼は今暴走している。少女が消えた後に暴走が終わったとしてもそれは彼が1人残されるということ。それは彼女が認めている最後ではない。
少女は思考する。どうすればこの状況から彼を救うことが出来るのかを。
同時に彼の事を考える。この世界をここまで無茶苦茶にする気がないことを知っている。戦いは好きであることを知っている。しかし、殺し合いはそこまで望んでいないことを知っている。彼は強さに貪欲であったことを知っている。それは自分の仲間を愛する者を守るために求めているとこを知っている。彼は不器用であったことを知っている。それでよく奥方を怒らせたこともあるし、それで自分が不機嫌になったこともある。しかし、その後に必ず埋め合わせをしてくれる。
「これよ。これしかないわ」
少ない。とても少ない残り時間である方法が思い浮かんだ。正気ではまず不可能。出来るのは出来るが、そもそも成功率は1%未満。自分が屈した瞬間に終わり。例え成功したとしても自分は朽ち果てるだろうことが予想できた。
だが、これならば星を彼の壊した物を再生させることが出来る。そして、彼を救うことが出来ると。彼女は手を自分の胸に置いて握る。そのまま竜のブレスが直撃した。
「うあああぁぁぁぁぁぁ‼」
少女は叫び声をあげるが消滅しなかった。本来であれば受け着ることなどできない。彼女が行ったのは竜のブレスを身に受けてそのエネルギーを吸収して別の力に変換したのであった。一部は吸収に成功したが、余剰のエネルギーによって体は焼ける。吸収できた力は直ぐに再生させる力とある魔術のストックに使い続ける。焼け続ける体とそれを再生させ続けることによってある種の絶対防御ともいえる状態。
しかし、焼け続ける痛みと身に余る大きな力を吸収、放出し続けるというのは大きな負担となる。少女は彼に対する思いだけで持ちこたえているが、それが彼女の体を蝕む。
「っ‼ まだっ‼ まだぁぁぁぁぁぁっ‼」
想像を絶する痛みと苦しみに屈しない様に声を上げて対抗する少女。止めてしまえば今の苦しみを味わうことなく消えることが出来るのを想像して止めてしまうであろうことが想像できるために声を上げるは止めない。それでも徐々に許容量を超えてきたのか止まっていたブレスが、少女を包み込み地面にぶつかることによって掻き消える。やがて、ブレスを放ち終えた竜は翼を広げ浮き上がった。少女を通り過ぎた後ろには特大の星を貫通した穴があき、大地の破片が飛び散り視界を悪くしながら崩壊が始まる。
「……これが最後の舞です」
そのブレスを受け切った少女がそう言うと舞い始める。するとどこからともなく音楽のような音が聞こえ始めた。今日の分どころかこの先の人生の一生分を使い切ってブレスに耐えた少女は残り少ない時間を使って舞う。竜は空に浮き上がった状態のまま少女の周辺から発せられる音と彼女自身の舞に目が離せないのかじっと見つめている。
疲弊しきっているはずの少女は淀みなく舞い続ける。右に。左に。前に。後ろに。穏やかに。鋭く。激しく。緩やかに。テンポの変わり続ける舞は最後に1回転すると完成したのか竜は穴を開けた場所へ吸い込まれていく。
そのまま落ちて行くのを確認した少女はブレスの時に並行して作っていた魔術を発動させて竜の落ちて行った穴に倒れ込むように吸い込まれていく。
「――ああ。もし……もし叶うのならば――あなた様と―に……」
彼女は竜の方に手を伸ばしてから何かをつぶやきながらとそのまま消えて行った。
自分的には短いと思いますが無事始めることが出来ましたhaimretです。一応プロットはあるのですが、どれくらいになるか想像できない状態でスタートなので実は作者も予想出来てない。そんなこんなですが楽しんでもらえればと思います。
長くなりましたが、ブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者自信の活力が上がり、書くための動力源になりますのでよろしくお願いします。




