40話
「はぁぁぁぁぁぁ‼」
「邪魔を、するなぁぁぁ‼」
サライラが馬皇に飛びかかる。サライラがリンネで突きを放つと馬皇は最小の動きで躱していく。馬皇はサライラが攻撃した直後の硬直を狙って掴みかかるが、今度は真央が氷の槍を放ちそれを牽制する。
が、馬皇は止まることなく真央の魔法が馬皇の腕に直撃。腕を起点に凍らせる事に成功する。
「やった? っ‼」
真央は馬皇が警戒することなく直撃したのを見て声が出るが、すぐに大きく距離を取った。
「……見えなかったわ」
真央はとっさに動いたのが功を奏したのか無傷で済む。真央のいた場所の足元は抉られており、馬皇が何をしたのか分からずに警戒する。
「かっ」
真央が頭を回転させている間に馬皇は腕に刺さった氷の槍を引き抜き、口を開くと真央に向けて何かを吐き出す。真央は障壁で受け止めて先程の攻撃を受け止める。見えない何かが真央の顔の位置に何かがぶつかる。
「ふぅん。空気を圧縮してるのね。これ。言うならば、劣化のブレスって所かしら。威力の変わりに連射できるのね。それならこんなのはどうかしら?」
真央はかかってこいと言っているように手を前に出して手を動かす。全く無防備な真央に馬皇は先程と同じ攻撃を仕掛ける。その攻撃は真央は避けることはせずにそのまま突っ込んで行く。それらの攻撃は全てすり抜けていく。
ダメージを負っていない真央に対して同じように攻撃を続ける馬皇。
「サライラ」
「分かっていますわ。貫きなさい」
真央の掛け声と共にサライラは馬皇の心臓目がけてリンネを投げる。リンネは馬皇の鱗などを貫通して的確に馬皇の心臓を抉る。
「ふん。凍てつきなさい」
真央は言葉と共に攻撃を中断した馬皇の全身を一瞬で凍らせた。動きが鈍くなると馬皇の周辺だけの温度をさらに低くする。生命どころか分子が活動を止めるレベルの温度まで下がると馬皇は動きが止まった。
「今のあんたじゃ戦って勝っても面白くないわ」
「真央‼ お父様‼ 死んでないですわよね‼」
「ちょっと‼ 今、いい所なんだから水を差さないでよ‼ ってか‼ 心臓を貫いたあんたに言われたくないわ‼」
決めゼリフを言おうとした真央にサライラの心配そうな声が水を差す。そのことにサライラが文句を言うと真央が言い返す。
「わっ‼ 分かってますわ‼ あの程度でお父様が再起不能になるはずがありませんわ‼」
「どっちよ‼」
サライラが言った事に対して素早く手のひらを返す。それに真央がツッコむと馬皇を包んでいた氷にひびが入る。
「うぉぉぉぉアアアぉぉぉ!」
「まったく‼ どんな生物よ‼」
馬皇は声を上げて動き始めると腕が割れた。完全に凍った腕は地面に落ちると砕け散る。腕の合った場所から新しい腕が生えてくる。あれですら時間稼ぎにしかなっていない上に再生の仕方がグロいという事もあって真央はドン引きする。
「時間がありませんわ‼ クラウ・ソラスを‼」
「え?ええ。どうするつもりなの?」
真央はサライラの言葉に戸惑いながらずっと持っていたクラウ・ソラスを持ち上げる。サライラは真央からクラウ・ソラスをひったくると構える。明らかに投擲すると言わんばかりの姿勢を取る。
『あの? サライラさん?』
クラウ・ソラスは嫌な予感を覚えたのか恐る恐る問いかける。しかし、それはサライラの耳には届かない。
「いっけぇぇぇっですわぁぁぁぁぁぁ‼」
『えええぇぇぇぇぇぇ‼』
サライラの掛け声と共にクラウ・ソラスは発射される。まっすぐ水平に馬皇の胸元に向けて。未だに再生を続ける馬皇は当然動けるはずもなくクラウ・ソラスは馬皇の心臓部分と思われるに吸い込まれるように突き刺さると馬皇の動きが止まった。
「やった……の?」
「これは……むしろ殺っちゃったんじゃないの?」
サライラのどう考えてもそうは見えない所業に真央がそう言った。気絶させるとは名ばかりで完全に命を取りにいっている。
「んあ? 俺は何でクラウ・ソラス胸に生やしてるんだ? それに体も凍ってやがる。ふんっ」
馬皇の第一声は疑問の声であった。馬皇は気合を入れるように声を出すと体を振動させる。馬皇の振動によって熱を発生させて凍った体を溶かし、刺さっていたクラウ・ソラスを引き抜く。
「お父様‼」
『担い手様‼』
「んおっ‼ サライラにクラウ・ソラス‼ どうしたんだよ? 急に? それに引き抜いた直後に急にタックルするな。刺さったら危ないだろうが」
「お父様ですわぁぁぁ」
『ご無事で何よりです』
正気に戻ったと思われる馬皇に対してサライラがタックルをお見舞いする。それに対して馬皇は驚くものの自分に刺さっていたクラウ・ソラスを引き抜いた直後という事もあって注意する。そんな言葉も気にせずにサライラは安心した様に馬皇の体に顔を押し付けた。
一方のクラウ・ソラスは霊体の少女の姿で現れて馬皇に対して安堵の息をつく。そして、サライラに負けず劣らずといった様子で馬皇にしがみ付く。
「うわぁ」
真央にはクラウ・ソラスの姿は見えていないが、サライラの行動と馬皇の生命力に何とも言えない表情になる。
「あん? 何だ。いたのか?」
「いたのか。じゃないわよ‼」
「あぁ。わりぃ。少し記憶が飛んでてな。お前ら探していたのは覚えてるんだが……」
「分かってるわよ。それよりもあれだけやって生きてる方が訳わからないわ」
「何したんだよ?」
「さすがに私の口からは言えないわ」
「本当に何をしたんだよ……」
真央が口を閉ざすと馬皇は微妙な気分になってサライラとクラウ・ソラスを見る。しかし、2人(?)はそんな視線に気づかずに想いのままに行動していてたずねるのを諦めた。
「まぁ、いいや。それよりも皆月と由愛は?」
とりあえずそのまま見当たらない皆月の事をたずねると真央は見ん場月のいる場所を指さす。皆月はその視線に気が付いたのか馬皇たちの方を見た。
「おや。もう正気に戻ったのですか」
「由愛はどこだ?」
馬皇は皆月にたずねる。皆月はというと口を歪めた。
「もちろん。すぐにお会いできますよ。準備が整いましたので。さぁ‼ 最後の仕上げです‼」
皆月がそう言うと由愛を吸収した本が開く。光を発した本は光る球体を作り出すと皆月の描いた何かの陣らしきものの中央に止まる。そこから先程とは違う巫女服のような服を身に纏った由愛が出てくる。
「由愛っ‼」
「待って。様子がおかしいわ」
馬皇は直ぐに駆け寄ろうとするがそれを真央が止める。馬皇はそれに対して不満そうな顔をするが下手に何かをすると由愛を巻き込みかねない状況であることは想像できたのか真央と同じように様子を見るにとどめる。
「ふふ。そうです。今中断させると彼女の命がありませんよ? もっともこれで万が一もなくなりましたが」
真央が制止させたことに対して皆月は嗤う。
「どういう事よ‼」
「それは見ればわかりますよ」
皆月がそう言うと人形のように動かなかった由愛の目が開く。由愛は無表情のままゆったりとした動作で何かを舞い始めた。
「ぐっ‼」
「ちょっと‼」
由愛の舞を見た馬皇とサライラが膝をついた。サライラは抵抗できなかったのか無言のまま倒れる。馬皇は歯を食いしばっているが倒れるのも時間の問題であるようであった。その様子に真央は戸惑う。
「ふむ。彼女のこの舞だけでも竜は動けなくなるのですか今回の陣の半分が無駄になりましたね」
皆月は目の前の光景を眺めながら言った。皆月の言葉が癇に障ったのか由愛に被害が行かない様に真央は無言で氷の槍を放つ。しかし、それは届くことなく由愛の下に引いてある陣に阻まれた。
「何で通らないの‼」
「怖いですねぇ。魔を払う結界です。あらゆる魔ついた存在の侵入を解き拒みます。それとほら。彼女の舞が変わりましたよ」
皆月は答える。それを聞いた真央は顔をしかめた。仕掛けていた魔法陣が根こそぎ無力化した事に気が付いたためであった。
「おお。もう気が付きましたか」
「これを教える事で効果を範囲から人物に変更できる訳ね」
「正解です。まぁ、これもこの舞が終わるまでなのでそれまでは大人しくしていてください」
「そんなこと‼ 出来るわけないでしょ‼」
真央は魔法が使えない事を理解すると今度は魔力のみで運用する身体強化で皆月たち近づく。しかし、それは別の結界を突破することが出来ずに真央は歯噛みする。
「まだあきらめてなかったんですね。無駄ですよ。この無力感を抱いたままそこで見てると良いです」
皆月はそう言い放って由愛の舞を見る。由愛の舞は佳境に入ったのか全体として緩やかな動きなのは変わらないが動きの速さが上がって迫力が増す。真央は抵抗を続けるが、それをあざ笑うように結界は真央の侵入を拒んだ。」
真央が結界の方に集中している間に馬皇の様子は変化し始めた。まるで溶けるように馬皇の体が消えていっていた。馬皇はそれに気が付くと真央に大きな声で叫んだ。
「ちっ‼ 抵抗するが後は任せる‼」
「ちょっと‼ 何をっ‼」
馬皇の声に真央は振り返る。真央が見たのは馬皇が消える瞬間であった。それを見た真央が正面を向き直ると同時に由愛が舞を踊り終わりその場に倒れる。
「ははははは‼ これであの力は私の物です‼」
そう言って由愛を取り込んだ本の中に吸収されるように皆月が消えると皆月を取り込んだ本が燃えて焼失した。
書いていたのが1回消えて、絶望しているhaimretです。これはTake2。書き直してたらこんな時間になってしまいました。次回はエピローグ予定です。
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