39話
皆月によって転移させられた真央とサライラはその張本人と対峙していた。皆月は笑顔のまま歓迎の言葉を放つ。
「ようこそ。ここは私の秘密の部屋。いわゆるプライベートルームです」
「……私たちをここに連れてきてどうするつもりなのよ」
「はっ‼ お父様が危ないですわ」
真央は警戒した様子で皆月に言い放つ。サライラは何かを感じたのか正気に戻ると翼を広げて飛び立つ。しばらく、飛ぶと真央たちのいる場所に戻って来た。
「無駄ですよ。今、この空間は先程の部屋とは繋がっていないので脱出不可能。私が許可するまでは入ることが出来ません」
「それならばあなたを倒して行くだけですわ」
皆月の言葉を聞いてサライラはリンネを投げる。皆月は冷静に体をわずかに逸らすだけでそれを躱す。
「おお。怖い怖い。ですが、本当によろしいので? あなたのお父様が最高の状態で帰ってくるのですよ?」
サライラはリンネを呼び戻すと皆月に接近。喉元にリンネを突きつけた。
「お父様はそれを望んではいなかった。それにお父様と由愛を犠牲にするつもりでしょう? 意識などを奪い取る形で」
サライラは睨みつける。見透かすように皆月を見ると皆月はにっこりと否定する。
「そんなつもりはありませんよ。両者がいなくなられると力そのものとそれを制御する術を失うのと同義ですから」
「分かりましたわ。それならば死んでくださいませ。あなたは不要ですわ」
サライラは構えた姿勢から本格的に皆月に突きをお見舞いする。躊躇いなく頭に突き立てる一撃は皆月は動くことなく、サライラは頭だけを動かした。
「ほぅ。攻撃してきた相手に自分の攻撃を移すと大体躱せずに即死するのですが」
サライラの頭のあった位置にはサライラの武器であるリンネの切っ先が通り過ぎていた。皆月の前では小さな黒い穴が2つあり、繋がっているのかサライラに自身の武器が牙をむいているといった様相である。
「やはり、厄介ですわ」
「私も忘れないでよね」
サライラがそう言うと同時に真央は皆月に氷の槍を放つ。皆月はとっさに転移する。姿を消した皆月は真央とサライラから離れた場所に姿を現す。
「ふぅ。危ないですね。まだ、話の途中ですよ?」
「胡散臭すぎるのが悪いわ。反射的に手が出るわよ」
「女性というのは理不尽ですね」
やれやれと言ったようで皆月は頭を左右に振る。
「胡散臭さと情報の確度は低そうだけれども、無いよりはマシだから聞いてあげるわ」
「真央っ‼」
真央は臨戦態勢を解かないまま仕方なさそうに言った。対するサライラはさっさと倒してしまいたいのか急かすように真央に言った。
「落ち着きなさい。私たちの前にいるってことは何かしらの意図があるはずよ。それを聞いてからでも遅くはないわ。それともあなたのお父様はそんな短い時間でやられるような男?」
「そんなことありませんわ‼ お父様は強いですもの‼」
「なら、聞いてからでも問題ないわよね?」
「……分かりましたわ。その代わり怪しい行動をとったらすぐにあいつの喉元にリンネを突き立ててやりますわ」
「それについては期待しているわ。それで? なんで私たちをここへ連れて来たの?」
真央が問いかけると皆月はやっと話せるといった様子で答えた。
「ようやく話が出来ますか。ええ。気にしてませんよ」
「ガッツリ気にしてるじゃない」
皆月の言葉に真央がツッコむ。皆月は気を取り直すように軽く咳払いする。
「コホン。それでは話を始めましょうか。決してあなた方に損はさせませんよ」
「そう言うのはいいから早く」
「そうですね。詳しくは省きますが、彼に力を取り戻してもらうにはこうする必要があったのですよ」
「屋久島が関係しているのね」
「早いですね。そうです。彼らが戦い、勝利することで求める求め内に関わらず、飼った方に力が集約されます」
「そのために私たちは邪魔だった、と」
「ええ。それに成功するはずとはいっても保険は必要なのですよ。時間稼ぎのね。あなた達にはこれから来るであろう暴走する彼を足止めしてもらいます」
「それを聞いて私たちがするとでも?」
決定事項のように皆月がそう言うと真央とサライラは不審な目で見る。皆月はというと余裕そうな表情で答える。
「ええ。そう言うと思ってましたよ。それが出来れば、ですが」
皆月がそう言うと同時に皆月の目の前で空間が割れる。割れた空間から腕が出た。黒い鎧のような腕は引き裂くように縦に空間を破壊する。そこから現れたのは黒い竜人状態の馬皇であった。
「……」
「お父様っ‼」
サライラは馬皇に向かって飛び出す。
「ダメッ‼ 様子がおかしいわ‼」
馬皇の周囲から黒い靄のような物が漏れているのに気が付いて慌てて真央がサライラを止めようとする。
「え? っ」
サライラが振り向くと同時にサライラは吹き飛ばされた。様子のおかしい馬皇に真央は叫ぶ。
「あんた‼ 何してるのか分かってるのっ‼」
「どこだぁぁぁぁぁぁ‼」
馬皇は吠えた。
「っ‼ うるさいっての」
いきなりの大声に真央はとっさに耳を塞ぐ。
「ははは。補足すると彼は今暴走状態です。屋久島にはある細工をしましてね。彼を取り込むことで精神を暴走させるようにしました。もちろん私は認識できない様にしているので襲い掛かってくることはないでしょう」
「やっぱり厄介ごとじゃないの‼」
皆月の言葉に真央は叫ぶ。その叫びに反応して馬皇が真央をロックオンすると襲い掛かる。
「あなた方が抑えている間に私は準備を進めるとしましょう」
「ちょっ‼」
馬皇は獣のように持った剣を振る。真央は障壁で馬皇の動きを阻む。そうしている間に皆月は姿を隠す。真央は皆月を探すどころではなく皆月の姿を見失う。
「ぐっ。がぁぁぁぁぁぁ‼」
それを力づくで突破する。無造作に振られる剣を咄嗟に躱す。
「無茶苦茶でしょ‼」
いつもよりも短い時間で突破される障壁に真央は叫ぶ。同時にいつの間にか復活したサライラが馬皇を蹴り飛ばす。馬皇が剣を手放すと剣は蒼く光る。
『――――』
「何‼」
剣は漂う様にゆっくりと空を飛んでいくと真央の手に納まった。馬皇の方を見るとそこだけ時間が切り取られているかのように止まっている。
「どういうこと? いえどうなってるの?」
『聞こえますか?』
「誰っ?」
『良かった。聞こえてました。屋久島という男を倒してから担い手様、負毛 馬皇様の様子がおかしくなっていったので一旦彼の時間を止めさせてもらいました。あ。自己紹介がまだでしたね。私の名前はクラウ・ソラスと申します。姿については担い手様以外には見せられないので申し訳ありません』
「それはいいわ。それよりもクラウ・ソラス?」
「それはお父様の剣の名ですわ」
「え? あいつの使うのって短剣2本じゃなかったっけ? 確かクラウとソラスって」
「それは仮の形態ですわ。本来は1本の剣ですの。確か時を操る剣と聞いてますわ」
「何よ。そのチートは?」
「まぁ、それを一瞬でも使おうと思ったら私でも体感で1秒ほどで力を使い果たすレベルで消費が激しいとお父様に聞いたことがありますわ。それに意思があるという事も。私にはかの剣の声は聞こえないので必要なことは教えてくださいな。今のお父様を救いたいのは同じですわ」
『はい。彼女の言う通り、普段は特定の要素を表に出した2人に別れています』
「どうしてよ?」
『それは強すぎる力を私が制限してるためです。今の担い手様だとそこまで気にしてはないのですが、強すぎる力は世界に良くない影響を与えるので』
クラウ・ソラスはそう言うと馬皇を見てから真央は納得したようにうなずいた。
「そういうこと。それなら今あいつが動きを止めているのはあなたの力という事ね。それと結構前にあいつが偶に独り言みたいなことをしていたけど、あなたと話してたのね」
『え? あ。はい。そうです。今の状態であれば担い手様以外でも話をすることくらいは出来ますよ。それと担い手様を今止めていますが、それは一時だけ。あと少ししたら動けるようになりますので構えてください』
話を聞いていたのかよく分からない反応をされてクラウ・ソラスは困惑した様子で関係ない事を答える。
「時間がないならこれだけは教えてちょうだい。どうすればあいつを正気に戻せる?」
真央は話を切り出す。まだ動きを止めている馬皇を見てクラウ・ソラスにたずねる。
『彼を気絶させて下さい。もしくは動けない様に縛りつけてから私が担い手様に触れている状態にしてください。それが出来れば私が何とかできます。途中で気が付いて解呪していたのですが、それも私が触れていた間の事。解呪が中途半端になってしまいましたので』
「あいつを気絶させれば彼女? が何とかできるそうよ」
「分かりましたわ。お父様。お覚悟を」
「邪魔するなぁぁぁ‼」
サライラは真央の言葉に頷くとリンネを呼び出し構える。それと同時にクラウ・ソラスの時間停止を超えて馬皇が動き始める。馬皇は臨戦態勢を取った。
「まずはさっさとあのバカの目を覚まさせる‼」
それを見た真央はそう宣言すると戦いは始まった。
という訳で皆月による時間稼ぎ。馬皇のいた場所と皆月たちがいる場所は時間の流れが少し違います。それを見越して皆月が時間稼ぎのために行動していました。次回は馬皇対真央&サライラです。お楽しみに
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