33話
死が迫ってくる緊張感がユメリアの集中力を引き上げていた。研ぎ澄まされた集中力は綾高の高速の斬撃すらはっきりと迫って来るのが分かる。
(ここまでか……)
ユメリアはとっさに防ごうと動くが体は重く思う様に体は動かない。どう頑張っても確実に間に合わない事を悟るとユメリアは心の中で呟いた。
(ファナは……。我と同じか)
隣にいるファナを見ると同じように防ごうとしているが、感覚的にユメリアと同じように間に合っていない。任せろと言った手前でこの結果になると思うとユメリアは後悔する。
(約束は守れそうにないな)
馬皇たちの事を思いながらユメリアは目を閉じる。時間に指して一瞬。その研ぎ澄まされた感覚は永遠にも近いような長さであり、その重圧に負けたからであった。目を閉じるとこれまでの記憶が流れ込んでくる。そして、今までの記憶を見終わり、まだ生きていたかったという願望とこれまでかという諦観がユメリアの心の中を支配する。
「あっぶねぇな」
しかし、それは金属同士がぶつかる音と聞き覚えのある声によってユメリアは現実に引き戻される。時間の感覚が戻って来るとファナは目を開けると目の前には洋介が立っていた。
「ヨウスケ?」
「おう。無事だったか? 助けに来たぜ。幸太郎合わせろ」
「おう」
「「せーの」」
綾高の攻撃を防いで前に立っていたのはクラスメイトの洋介と幸太郎であった。ユメリアの前には洋介が、ファナの前には幸太郎が立っていた。綾高の攻撃を洋介は剣で幸太郎は篭手で受け止めておりその状態から呼吸話わせる様に押し返した。本来であれば、洋介と幸太郎の力程度では押し返すことが出来ない。しかし、綾高の足場だけがいつの間にか凍っており、あっさりと押し返されていた。
「ふん」
凍った場所を滑っている状態に綾高は刀を地面に突き立てる。それでも洋介たちが正面から綾高の刀を受け止めれる力はあるためにすぐには止まれない。
「待ってたぜ」
どうにか綾高は氷の上で滑っていくのを押し留まる。その先には小太郎が待機しており、ニヤリと笑う。見計らったかのようにユメリアが使っていたのと似たような形の珠を発動させる。
「ぐっ‼ おおおぉぉぉ‼」
小太郎が発動させた魔道具は人の入れるサイズの黒い球体を作り出す。そして、それを中心に綾高を吸いこもうと引力を発生させる。それに綾高は抗うが足場は凍っているために踏ん張る事は出来ない。頼みの綱の突き刺した刀も引き込む力が強いのか地面から離れ宙に浮くと綾高は抵抗できないまま引きずり込まれる。綾高が黒い球体の中心にたどり着くと叫び声をあげて肉体が押しつぶされてい行くのが見える。錐もみするように押しつぶされていき最終的に黒い球体共々跡形もなく消滅すると小太郎は一仕事を終えたかのようにユメリアたちを見て言った。
「ふぅ。やったか?」
「どうしてここに?」
ファナはそんな小太郎をひとまず無視して洋介たちにたずねた。無視された小太郎は残念そうに肩を落とす。ここに突入する前に真央が言っていた通り、今いる場所は地球外。宇宙である。普通であればまず来ることはできない。さすがに同じことを思っているのかユメリアもそれにうなずく。疑問に思うのは当然であった。
「それはー」
「ファナさん。ユメリアさん援軍に来たわ」
「間一髪だったね。本当に間に合ってよかったよ」
「……俺のセリフ」
説明しようとした洋介を押しのけて、クラスメイトであり、由愛の友である斉藤 亜紀と遠藤 珠子が話に割って入ってくる。話に割り込まれた洋介は少ししょんぼりした様子で拗ねているが。
「お前たちだけで来たのか? いや。どうやってきたんだ?」
ユメリアは混乱した様子で洋介たちにたずねるとファナが言った。
「それよりもユメリア。先にいう事があるわ。ありがとう。助かったわ」
「……そうだな。助けられたのなら先に礼を言うのが先だったな。ありがとう。お前たちがいなかったら我とファナは死んでいた」
「お、おお。気にすんな。クラスのみんなは俺たちが中に入る時に邪魔してた奴らの足止めをしてくれてる。どうやってきたかって言われると協力者に場所を教えてもらって、そのついでにその人に連れてきてもらったんだ。だから、ここに来たのは今いる俺たちだけだ。それよりも馬皇たちは?」
素直な感謝の言葉に少し照れたのか洋介はこの場にいない馬皇たちの居場所を聞いた。
「彼らは先に行かせたわ。ユメリアが残るって言ったんだけど、さすがにあのレベルの相手に1人残すのは不味いって思ったから私も残ったの」
「奴は父上の仇だ。けりをつけたはずだったが、生き残っていた。だから、後始末は自分でしなければならん」
「あー。こんな感じで少しこじらせてるから不安だったのよ」
「我はこじらせてない」
ファナは軽い感じでそう言うがユメリアの暗い表情と言葉に洋介は微妙な顔になる。近くて聞いていた幸太郎や他のメンバーもどう答えればいいのか分からずに沈黙した。
「……あー。詳しいことは分からん。が、ユメリアにとってはケリの付けたいことなんだな?」
「ああ」
「だが、さっき小太郎の作った疑似的なブラックホールを作り出す魔道具に取り込まれてぺしゃんこになったけどな」
洋介は小太郎が使った魔道具の説明とその仇が死んだ可能性を伝える。
小太郎の使った魔道具は対象を疑似的に魔力で作りだしたブラックホールである。対象以外は吸い込まないという利便性と取り込んだ瞬間に高圧力の力場に押しつぶされて複数の力場によって削られ、また別の力場が押しつぶし分解する。それが時間の限りは永遠に発動し続ける凶悪な代物である。
「確かにあれは見ている限り凶悪だが、それについてはまだ終わってない」
「そうね。さっきのを考えると……」
「どういうっ‼」
洋介はユメリアたちの言葉に聞き返そうとするが、聞き返すことはできなかった。ほぼ消滅と言ってもいいレベルであった綾高が消滅した辺りから再生する。綾高の周りだけが時間が巻き戻る様に再生すると驚いたように言った。
「先程のは驚いたぞ。不意を突いたとはいえ私を1度完全に殺し切るとはな」
「マジかよ。それよりも少し前にフラグ建てたのを一瞬で回収するとかマジで勘弁してくれよ」
使った魔道具については自信があったのか小太郎は慌てる。ぶつぶつと何かをつぶやいている小太郎を見て幸太郎は言った
「小太郎のあの慌て方は真面目にヤバいやつだな。それにしてもやけに洋介は落ち着いてるな」
「だな。あれ見て俺も冷静になった」
「……とてもそうには見えないんだけど?」
はたから見れば慌てているのは慌てているがまだ余裕があるようにも見える。アワアワした状態の小太郎に対して綾高は剣を振り小太郎を捕える。小太郎は腰に刺さったナイフで防ぐが、圧倒的な力の差であっさりと上空に吹き飛ばされる。
「いいや。あいつ本当に慌ててたら独り言が多くなるんだよ」
「だからこそ。一周回って冷静なってるんだけどな」
「……いや。今吹っ飛ばされたが?」
冷静にユメリアがツッコむと小太郎が空から降ってくる。地面に激突した小太郎にユメリアは慌てるが土煙の中から小太郎が出てきて洋介を捕まえて言った。
「おい‼ 相手が強すぎる上にあそこまでなったのに再生るとかチートすぎて無理ゲーなんだけど‼」
「……どうして無事なんだ」
ユメリアが呆然とするのも無理なかった。綾高の攻撃を防いだだけでも確かにすごいのだが、普通に着地しても大けがしそうな高さから落ちてきたはずなのにたんこぶ1つだけで済んでいるという時点で訳が分からないユメリアであった。綾高の方もそこまで強くなさそうな小太郎を仕留めそこなったことに頭をかしげている。
「それついては俺も知らん」
「自信満々に答えられても困るんだが。はぁ」
小太郎はそう答えるとユメリアはため息をするしかなかった。さすがにこれ以上追及するのは無意味と判断したのか、小太郎の様子にどうでも良くなったのか。真相は本人のみぞ知るといった様子である。
「だが、そうなるとあいつに勝つにはどうするんだよ?」
話が逸れるユメリアたちの軌道を修正するように幸太郎が言った。その言葉にユメリアは少し考え込んでから言った。
「我に考えがある」
今年最後の投稿ですが、あと一話だけユメリアたちの話が続きます。寒さで思考が低下していますが、haimretです。
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