31話
前に見た時と違うのは額に角が生えて、肌が青く、髪が白くなったくらいであるが見間違えるはずのない存在であった。
「……」
言葉は話していないが全く動かない相手にユメリア以外の全員が警戒する。ユメリアは今にも飛び出していきそうであったがそれを馬皇が止める。
「落ち着け」
「……分かっている」
「なら、今飛び出しても良くないのは分かってるだろ?」
馬皇がそう諭すとユメリアも渋々と言った様子で飛び出すのを止める。それを確認した馬皇はユメリアを離す。
「馬皇。真央。由愛。サライラ。ファナ。先に行ってくれ」
「あなたはどうするのよ?」
ユメリアは覚悟を決めたようにそう言うとファナがたずねる。
「あれを今度こそ葬る」
「1人で出来るの?」
「しなければならないんだ。それに、こいつの相手で無駄な体力と時間を使う訳にいかんだろ?」
「それは……そうなんだけど」
「本当に任せてもいいのね? 」
「ああ。あれを使う」
ユメリアはファナにそう答えるとファナはどう答えればいいのか分からずに言葉が詰まる。それを見越したように真央が話に割って入る。ユメリアはうなずくと真央は納得した。
「そう。なら、任せるわ」
「いいの?」
真央とユメリアのやり取りに不安そうにファナが言った。明らかに憎しみの籠ったユメリアの表情に困惑するファナ。それをぶった切る様に真央が答えた。
「いいのよ。これはユメリアの戦いだから。私たちは信じて先に行った方がユメリアも戦いやすいでしょ」
「そう」
真央の言葉にファナは納得がいかないといった様子であったが、それを言葉にするのを飲み込んだ。
「ブッ飛ばしちゃいなさい。それと使うタイミング謝るんじゃないわよ」
「任せたぜ」
「勝っても負けても絶対に生き残ってください。約束ですよ」
「無茶はしないでくださいな。お父様が悲しみますわ」
未だに活動をしていない綾高を横目に見ながらユメリアを置いて先に行く馬皇たち。それぞれが1言、2言を加えてであるが。
「行かないのか?」
馬皇たちを見送って最後に残ったファナがこの場に残っていたことにユメリアはたずねた。ファナも何かを決意した様に剣と鎧を召喚する。
「ええ。ここに残ってユメリアと一緒に戦うことにしたわ。確かに未来の旦那様の馬皇や真央やサライラの影に隠れちゃってることが、多いけど私だって戦えるんだから」
「ふふ。分かっている」
ファナの言葉に対して同意なのかユメリアは控えめに笑う。それを見たファナも小さく笑った。
「ふふふ。やっと笑ってくれたわね。あんたがそんな辛気臭い顔のまま戦っても碌なことにならないことは分かってるしね」
「言ってくれるな。が、確かにあれを相手にするには1人では少ししんどいな。頼む」
「任されたわ」
ユメリアとファナは互いに顔を見合わせてからうなずきあう。それを見計らったように声がした。
「もう。いいか?」
「綾高 道神‼」
ユメリアは険しい顔をして綾高の名を呼ぶ。
「そうだ。久しいな。領主の娘よ」
綾高自身はそれなりに記憶があるのかはっきりとユメリアの事を指してそう言った。
「なぜここに現れた‼」
ユメリアは声を上げて聞いた。それに対して思いのほかあっさりとした様子で綾高は答える。
「それについてはあの戦いの最中、私が鬼神に乗っ取られる瞬間に肉体の一部に私は魂を移した。戦いの後、私の一部を回収した奴が私の体を使って魔物を作り出したから利用したまでだ」
「まさか‼ そんなはずは‼」
ユメリアはあの時の脱出の事を思い出す。確かにあの時は綾高が完全に死ぬのを見てはいない。戦いの後も鬼神が復活しては困るために国の巫女や術者を集めて入念に浄化とそれらしきものがないかの確認をしたはずであった。
「それはそうだろう。回収されたのは鬼神が暴走する瞬間であったからな。分離してからは圧倒的な速さで巨大化と体の圧縮が繰り返して口から光をはいているという戦場の中だ。お前たちが来る前であれば気づくはずがない。それに私を知り憎む者が近づかなければこうして蘇ることが出来なかった。まぁ、そのお蔭でこうして復活を遂げたのだがな。それも私を唆して近づいてきた小悪党を餌にして最高の状態でな」
「そうか。我が近づかなければ復活はしなかったと。間抜けだな。我は」
「ああ。復活の協力に感謝しているぞ。領主の娘。いや、ユメリア・アマノハラよ」
「何言ってるのよ‼ そんなことなくても復活する手段なんて他にも持っていたに決まってるでしょう‼」
「……本当か?」
「ほう」
そんなユメリアに対してファナが言った。それを聞いた綾高は短く声を漏らす。
「分かるわ。あんたからは私が手を下した強かな貴族と似た臭いをしているわ。慎重に保険に保険を重ねて勝てば莫大な利益を負けても被害を最小限にとどめる上に勝てる戦いにしか出てこないタイプよ」
「その根拠は?」
「勘よ」
ファナは堂々と宣言する。その答えに対して綾高はしばらく沈黙してから笑い始めた。
「……はっはっはっはっは‼ 勘とは‼ 恐れ入った‼ 初見でここまで言われたのは初めてだ」
ファナの自信満々な言葉に綾高は笑う。
「ファナ……」
ファナの言葉に笑い声をあげている綾高とは別にユメリアは困惑した表情でファナの名前をつぶやく。そして、ほぼ初見の相手にそこまで言い切るファナにそこはかとなく不安を覚える。それに対してファナは頭をかしげた。
「あれ? 違ったかしら? 」
「笑わせてくれた礼だ‼ 違わないと答えてやろう‼」
「ほら。言った通りじゃない。私の人を見る目はあるのよ」
「そうか。我は謀れたということか」
ユメリアの目に怒りが込もる。それを見た綾高は言った。
「ほう。出来るのか? あの男がいないのに?」
「つまり、馬皇と正面で戦うのが怖いからユメリアを利用したのね」
綾高の話の腰を折る様にファナが言った。さすがにその答えに対して侮れない勘であると判断したのか、何も言わずに綾高はファナの首を刈り取ろうと瞬時に移動してから刀を振った。
「危ないわね」
ファナは危なげもなくそれを剣で防ぐ。そこから、綾高は一瞬で刀を引かせるとすぐに反対側から切り伏せようとする。
「さすがにこのタイミングでそれは我でも防げる」
まるでタイミングが分かっているかのようにユメリアがファナをかばう様に間に立ち綾高の攻撃を防ぐ。
「ほぅ」
このまま攻撃を続けても無意味だと判断したのか綾高は一旦距離を取る。ユメリアたちに隙が無くなったのを見ながら笑みを浮かべる。
「助かったわ。ユメリア」
「我の方こそ。初撃のあの動きに関しては我では分かっていても反応できない」
互いに礼を言い合うと綾高を見る。綾高は初撃の動きでそれなりに力量を測り終えたのか感心した様に言った。
「まさか防がれるとはな。奴も大概だったが最近の子供は才能の塊だな」
「我たちも成長しているからな」
「つまらん。挑発に乗ってこなくなったか」
綾高の言葉に乗せられないユメリアに少し面倒くさそうに綾高は構える。一触触発な状況で綾高は刀を両手で構える。
「構えた?」
綾高は刀を掴んで構えたまま突っ込んでくる。それに対してファナは微妙に頭をかしげると綾高はその隙を見逃さずに両手で縦に振り抜く。ファナの剣は刀を受け止めるがわずかに速度が落ちた程度で止まる様子はない。
「ファナ‼」
ユメリアは両手でファナを引き寄せるとファナの頬に切っ先が掠る。
「躱されたか」
そこから追撃を入れようとするが地面からユメリアが符術で綾高を捕縛するための鎖が飛び出してきたために追撃を諦めてそれを叩き落としていく。
「油断してたわ。あのままだったら剣と鎧ごと真っ二つね」
「さっきのは一撃に特化した見た通りの一撃必殺の構えだ。我は刀術には詳しくないが見ての通り普通に防げば装備ごと持ってかれる」
「この世界の剣もすごいのね」
「我の話聞いているか?」
ユメリアの説明にファナは目をキラキラさせて答える。下手すればさっきの一撃で死んでいた可能性があるのに元気なファナにユメリアは再度困惑する。
「聞いているわ。つまり、さっきのズバン‼ は正面から受けちゃ駄目ってことでしょ」
「ズバンって……。まぁ、分かってるならいいか。それよりも武器は?」
「大丈夫よ。来て」
ファナはそういうと新たに剣が呼び出される。先ほどの武骨な剣とは違って少し細めであるが神々しさを持った白い剣であった。
「それは? この世界にある聖剣? だっけ? を貰ったの」
「もらったって……」
ファナの言い分にはユメリアはどう答えればいいのか分からなくなる。聖剣の類はユメリアもその剣の神々しさを見ればわかるが、何をどうすれば貰ったという答えになるのか分からない。
「おお。何とも忌々しくも神々しい剣だ。何故それを最初に持たなかった。それだったら私の先の一撃も力任せに防げるだろうに」
綾高は忌々しそうにファナの持つ剣を見る。ファナの態度に舐められていると思ったのかそう言うとファナは答えた。
「練習以外では剣は使えなくなるまでは他のは使わないことにしているだけよ」
「それで死ぬことになってもか?」
「ええ。それで死ぬんなら私が甘かったってだけだから」
「正気か?」
「そうかしら?少なくとも人間止めるよりもまともだと思うんだけど。それにこれ使うのは疲れるのよ」
短いやり取りの中で綾高は警戒しているファナの本質を探る。が、狂気的な部分しか見つからないためにたずねるのを止める。
「さすがにそれを持ち出されるのは想定外であるが、それでも負ける気はしないな」
「そう。それなら今度は私たちの番ね」
ファナがそう言うと同時にユメリアは薙刀を綾高に投げた。
私に任せて先に行け。ベタな王道ですが、こういうのが大好きなhaimretです。恐らく同じように1,2話くらいで終わる予定ですがユメリアとファナの戦いをお楽しみに。
指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者の動力源ととなりますのでこれからもよろしくお願いします。それとしてくれた方ありがとうございます。
……番外編的なのを1話をするべきか、本編進めるべきか悩みどころ




