30話
今回は少し胸糞わるい展開があります
馬皇たちは天狩の言っていた通りの一本道を抜けると天狩のいた部屋と似た様な大きな扉があり、今度はそこを破壊して進んだ先には先程と似た様な広い部屋に出る。違いといえば馬皇と天狩がドンパチした後の破壊痕がないくらいであった。
「これが手抜きって奴ね」
「それは違うと思うぞ」
そんな景色に対して真央が率直な感想を述べると馬皇がツッコむ。その感想に呆れた様子でユメリアが言った。
「それにしても誰も居ないのか?」
「そんな訳ないでしょ。馬皇。下」
「分かってる」
ユメリアの言葉がフラグとなったのか真央は馬皇に指示を出す。馬皇も何かが近づいてくるのが分かっているのか一歩前に踏み出す。
そこから少し遅れて地面の中から蛇のような白い生物が馬皇を食べようと飛びかかってきた。それを馬皇は首をひねるだけで頭を目掛けて跳んで来た白い生物を掴むと握りつぶす。白い生物は馬皇の握力に耐えられず悲鳴を上げてもがき苦しんでいるが死んではなかった。
「なぁ。この生物見たことあるか? 俺はない」
潰しても生きている白い何かをしっかりつかむと馬皇は真央にそれを見せる。未だに馬皇の手の中で抵抗しているが相手が馬皇であるため無駄であった。
「私もよ。こんな生物は見たことないわね」
「我も見た事はないな」
「私もないわね」
「私もありませんわ」
全員が見た事のないという答えを聞いた真央は眉間にしわを寄せる。
「もう少し見させて」
「おう」
真央は先程よりもしっかりとその生物を見る。真央に白い生物は抵抗するように威嚇する。しかし、しばらくすると白い生物はぐったりとして動かなくなった。
「やっぱり。もう離しても大丈夫よ」
真央は答えを見つけたのか眉間にしわを寄せたまま馬皇にそう言うと馬皇は白い生物を手放す。白い生物は先程まで生きていたのが嘘のように灰のように粒子になって消えた。
「それで? 何か分かったのか?」
真央の様子からある程度の答えが出たと判断した馬皇。馬皇の言葉に真央は不機嫌そうに言った。
「ええ。あれよ。闘技大会での」
「つまりそう言う事か?」
「ええ」
馬皇と真央が2人で会話を完結させる。そんな短いやり取りで何を理解したのか分からないユメリアたちはたずねた。
「ええぃ‼ そんなやり取りで分かるか‼ 説明を求めるぞ‼」
「おお‼ すまん。だが、本当に聞きたいか? 予め言っておくが、かなり胸糞わるい話だぞ」
馬皇は少しすまなそうにそう言うと真剣な表情でたずねる。しかし、それで怖気づくユメリアたちではなかった。
「仮に馬皇の言う通りに酷い話であったとしても知らなければ我も含めて考えることが出来ん。知らんままに戦うのは性に合わん」
「そうね。少なくとも何を相手にしているのかだけは知っておきたいわ」
「私はどちらでも変わりませんわ」
「私は……聞いておきたいです。知らないままというのは嫌です」
ユメリアどころか由愛もそう答えると馬皇は真央に視線を送る。真央もそれに対してうなずくと答えた。
「それなら私が答えるわ。この生物だけど魔物よ」
「魔物? 確かに地面の中を泳げる時点で普通ではないし、魔物と言われたらしっくりくるがそれがどうして胸糞わるい話になる?」
「正確には作りだされた魔物よ」
真央の言葉にユメリアたちは顔をしかめて、そして納得した。
「そういえば生物合成を生業とするチームがあると言っていたな」
「ええ。多分、そのチームが私たちの戦力の確認と先生のためにさっきのを放ったんでしょうね。しかも、情報を取られない様に死んだときは私でも見分けられない様に細かく分解されるようになっていたからさっきは灰になったの」
「ほう。こんな少ない時間でそこまで見抜くとはなかなかやるのう」
真央の説明に対して感心したような声が聞こえた。その声の元に振り向くと地面からエレベーターがせり上がり、そこからどこかにいそうな悪の組織の博士といってもいいような眼つきの悪い老人が姿を現す。
「さっきのを作ったのはあなた? 趣味悪いわね」
「趣味が悪いとは失礼な。基本は生命の合成や改造だが、先程君たちに見せたのは私の研究の到達点である生命の創造。魂という概念を肉体に宿すという神にも等しい行為をバカにしないでもらいたい」
「それがどれだけ質の悪い事か理解できているのかしら?」
「? 何を言っている。これのおかげで魂という概念と構造が理解できた。其れのおかげでエネルギーとして利用できるようになる。それに加えて人口の魔物たちを量産することでエネルギーの問題だけでなく労働力としても使えると言う優れものだ」
まるで子供の夢物語のように答える博士。それに対して真央はさらにたずねる。
「そう。その答えの先にあるのが破滅だとしても?」
「ふん。それこそありえない話だ。魂の発生には限界などない。つまり、無限の可能性を秘めている」
「そうね。生命を発生させるのに事態には限界なんてないわね。でも、その後はどうかしらね。生命は生まれた時点で無垢ではないわ。例え生まれた瞬間の自我が少なかろうと少ないだけで0ではない。そう言った積み重ねの先に積もりに積もった感情の混ざったエネルギーはどうなるんでしょうね?」
真央は博士に笑みを浮かべる。それに対して面白くなさそうに博士は言った。
「そこまで分かっているのなら分かっているだろう。その負の感情すらも言ってしまえばエネルギーだ。使ってしまえば問題ない」
博士の答えに真央はため息を1つ。興味をなくしたのか言った。
「なんだ。ただの愚か者じゃない。相手にするだけ無駄ね。行くわよ」
「私が簡単に通すと思っているのか?」
「それにしても次は異能者が関係しているって言っていたわね」
真央は目の前で話している博士を無視する。それに対してどう反応すればいいのか分からないユメリアたちは何とも言えない表情をする。沸点が引くのか少し無視されただけで顔を真っ赤にしてから博士は言った。
「……やれ」
博士は命令を下す。見えない様にあらゆる場所に潜ませている魔物たちにそう指示を出すと真央は呆れた様子で言った。
「これだから自称学者は。頭が固いくせにプライドだけはデカいから今の状況を理解していないのね」
真央がそう呟くと博士は異変に気が付く。自分の出した命令に関しては絶対服従を刷り込んでいるはずの生物たちの反応がない。
「なっ‼」
そこから気が付いた時には遅かった。博士は足が地面に飲み込まれ動きを封じられる。そこから博士の影や地面、上空とあらゆる場所から作りだした魔物たちが現れる。
「命令を無視するな。お前たちの獲物はあっちだ」
博士は取り囲むように現れた魔物たちに対して馬皇たちを狙う様に指をさして指示を促す。しかし、それらの声に全く反応せずに博士を見つめる。
「どういうことだ? なぜいう事を聞かない?」
博士は頭をかしげるが答えは出ない。そうこう考えている内に陰から出てきた人型の魔物は博士の頭を食らいついた。首から上が無くなるとそれが合図となっていたのか他の魔物たちは博士を喰らっていく。
「うう。我もキレていたとはいえやり過ぎたのだろうか?」
その光景に真央は由愛の目に見えない様に目を覆って遮音を結界で行う。それをはっきりとみているユメリアは目の前の光景に後悔していた。
「自業自得よ。ユメリアの使った陰陽術はそう言った感情を元の持ち主に向けさせるだけの物でしょ」
「それはそうなんだが。まさか、ここまでの物になるとは思わないだろ。普通」
ユメリアがそう答える。真央が博士と話している間。ユメリアに真央は指示を出していた。真央の言う通りこの地にある怨念を魔物に集約させるという呪いの前段階を行ったのである。本来の使い方はその集めた怨念を浄化するなり特定の相手の呪いの道具にするのだが、この地における恨みの強さなだけに集めただけにもかかわらず目の前の博士があっさりと食べられたのである。命令には絶対服従という刷り込みを超えて。どれほどの命を実験に使ってきたのかがよく分かる構図であった。
「それに本番はこれからでしょ。とどまった呪いが発散された後は無差別に襲い掛かってくる。陰陽術の本に書いてあったわ」
「そうだった」
真央がそう言うとユメリアは険しい顔をする。博士を食べ終えた魔物たちはまるで蠱毒のように目の前にいる同種を喰らい合う。巻きこむようにあらゆる場所から湧いてくる魔物たちを見てどこにいたのかという疑問も出てくるが、それ以上に共食いというには規模の大きな状態である。しばらくすると、魔物たちは全部出尽くしたのか1体を残して全滅する。残った魔物は最初に博士の頭を喰らった黒い人型の魔物であった。
黒い人型の魔物はひび割れるように体が崩壊すると中から見覚えのある姿をした魔物が出てくる。
「お前は‼」
その姿を見てユメリアが殺気立った。それはユメリアが自らの手で止めを刺したはずの綾高 道神であった。
俗にいうボスラッシュ。こんばんは。体力の少ないhaimretです。1つ前の戦いとはうって変わって命の冒涜をする報いとそこから出てくる殺したはずの相手が出てくる展開です。もちろん。彼が蘇った理由もありますが、本文で書くかは少し迷ってます。次回もお楽しみに
指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者の動力源ととなりますのでこれからもよろしくお願いします




