26話
「「邪魔 (だ)‼」」
WCA本社の廊下。けたたましくなるサイレンをBGMに馬皇たちは目につく敵を片っ端から片付けながら一本道を進んでいた。同じような形の人型だけでなく、全く同じ姿をした魔物たち。1体1体は大したことはないが妙に連携して襲い掛かってくる。
「アストリア達が受け持ってくれているとは言っても数が多いな」
狭くはないが、それなりに広い通路で途切れることなく現れる敵を見ながらユメリアは言った。それに対してファナが呆れる。
「それはそうでしょよ。全部の戦力を侵入者だけに使う訳ないじゃない。それにこの一本道のおかげで広い範囲にばらけて襲い掛かってくる心配はないじゃないの」
「うむ。それはそうだな」
「はぁ。はぁ。……余裕、あり、ます、ね」
「無理に喋らなくても大丈夫ですから、今は走るのに専念しなさいな」
「は、はい‼」
馬皇たちの後ろを着いて行くのは由愛。その後ろをユメリア、ファナ、最後尾にサライラである。由愛に関しては今の速度でも結構きついのか少しだけ息が乱れている。
「真央‼」
「分かってるわ‼」
走り追続けている中で馬皇が真央の名前を呼ぶと真央はUターンして背後から襲い掛かってきた敵を凍らせる。そして、中に人がいるか調べる。
「中に人がいるわね。少なくともあなたの機械の鎧程度じゃ壊せないから終わるまでここで他の仲間の妨害でもしてなさい。其れだった死ぬ事はないでしょ」
真央は頭だけ出している相手にそういうと相手から恐怖の感情が目に映っているのを見る。しかし、そんなの知った事かと言わんばかりにためらいなく頭の部分も凍らせた。そして、それが後続の邪魔をするように部屋全体を覆っていき通路が完全に氷で埋まる。その後、軽やかに跳躍すると馬皇に追いついてから横に並ぶ。
「これであの道からは当分来れないわ。魔力を残留させてるから助けようと触れた奴も同じように凍るわ」
「おう。ありがとな。それとこの道で合ってんのか?」
「私が間違えると思う?」
馬皇の言葉に真央は怪しい笑みを浮かべて聞き返す。その様子に馬皇もそこまで異論はないのか軽く笑う。
「はっ。たまにうっかりでやらかす奴に言われたくないな」
「あんたに言われたくないわ‼」
「うおっ‼ あぶねっ‼」
馬皇がそう言うとさすがに心外なのか真央は少し切れる。走りながら真央は氷の弾を作り出して馬皇の方に向けて飛ばす。馬皇も真央の行動に慌ててのけ反る様に避ける。氷の弾は馬皇の背中を通り過ぎて横の壁が開こうとしていた所に当たって氷が相手の通行を阻む。
「ちっ‼ 外したか」
「俺ごと巻きこもうとするんじゃねぇ‼」
「あんたが余計なことを言ったのが悪いんでしょ‼ それに当たってないんだから問題ないわ‼」
「問題大ありだわ‼」
「ふん‼」
今度は馬皇が声を出しながら右ストレート。真央も馬皇と同じようにのけ反って躱す。
「危ないじゃない‼」
「後ろに敵がいただけだ」
「先に言いなさいよ‼」
「おっと手が滑った」
そう言って馬皇は
「もう許さないわ‼」
走りながらもケンカを始める馬皇と真央。真央は消費の少ない魔法を撃ち、馬皇はそれを拳で由愛たちに当たらないようにそらしていく。そうやって馬皇が距離を詰めていき、最終的にお互いに頬を引っ張りながら走り続けると言う器用なことを始める。さすがにこの状態は良くないと思ったのかサライラが珍しく間に割って入ってきた。
「今はふざけている場合じゃないですわ」
サライラが馬皇たちをたしなめる。後ろを走るメンバーは何とも言い難い雰囲気になり微妙な表情をしていた。それを見た馬皇たちもさすがにこのまま続けるのはあまり良くないと判断したのかお互いに顔を見合ってから「ふん」と顔をそむける。それで先程の事は水に流したのか走りながらも普通に話しはじめた。
「ねぇ? 気づいている?」
「ああ。敵が出なくなったな」
「先程は壁の横や先から出て来ていたはずなのに途中から追手がない。まるで誘い込まれてる?」
「ここまで来るのは想定済みってことだろうな」
「可能性は高いわね」
真央と馬皇は同じ答えに行き着く。真央はこのまま相手の思惑通りに事を進めて行っていいのか考える。
「まぁ、今そこまで考えても仕方ねぇだろ」
「……分かってるわよ」
思考に集中し始めていた真央に馬皇が割り込みをかける。今考えなくても仕方ないと思ったのか真央はそれを中断する。そうこうしている内に扉が姿を現した。
「扉ですわ」
「何と言うか。ここまであからさまだとあれだな」
「そうね。まず間違いなく誰かもしくは何かが居るでしょうね」
「これは行くべきだと思うか?」
やけに機械チックな扉の前でどうするか話し合う。どう考えても罠にしか見えない状況のために話が進まない。
「そうね。ケイスケの記憶を見てもこの場所の記憶がないから、ケイスケが去った後に出来たんだと思うわ。確かリーングランデで見たっていう怪しげな連中の特徴とかもケイスケの記憶からは出てなかったし。改装や改造は有っても不思議ではないわ。だから、少し不安だけど進むべきだと思うわ。もちろん警戒はしないといけないけどね」
「私は進んでも問題ないとは思いますわ」
「我としては完全に罠だろうと思うぞ」
「同感ね。由愛は?」
「ふぇ?」
言い出しっぺの馬皇を除いて由愛以外の全員が意見を出す。未だに呼吸を整えていた由愛は頭をかしげる。少ししてから考えを整理し終えた由愛が答えた。
「待ってみるのは?」
「……それこそ色々とまずいだろ」
さすがに敵地のど真ん中で待つのは得策ではない。思考がまとまっていないだけだろうと判断して由愛に対して馬皇がツッコミを入れる。現状は由愛の言っている状態ではあるのだが。
『馬皇君の言う通り、いつまでもそこに居座るのは勘弁して欲しいな』
馬皇たちの会話を聞いていたかのように絶妙なタイミングで声が響いた。
「あそこ。扉の右上」
真央が即座に声のした場所を特定する。全員が言われたところを見ると確かにそこには館内を放送するようなスピーカーが設置されていた。
「誰だ?」
『なに‼ 私の事を忘れているだと‼ 忘れたとは言わせないぞ‼ この天才の事を‼』
派手な反応を見せる男の声に馬皇は面倒くさそうな反応を見せる。
「あ~。確か、天狩だっけか?」
『全く。覚えているではないか。そう。天才の天狩だ‼』
顔は見えないがものすごくドヤ顔をしているであろうことが分かる声であった。その声に馬皇は「お前こんな性格だったか?」と 疑問に思いながらつぶやくがそのつぶやきは誰の耳にも入っていない。
「それで? 何の用かしら?」
馬皇がフリーズしているのを見かねた真央が代わりに質問する。
『いつまでも来ないからこちらから話しかけただけだ。君にようやく完成したスーツを見せられるからな。そのお披露目がメインだ』
「それだったらわざわざ行く必要はないな」
少しの間で復活したのかすぐに真央から馬皇に変わる。馬皇がそう言うとやれやれと言った様子が想像できる声で言った。
『残念ながらここを通らなければ皆月社長の元には行けないぞ。社長本人が異能を使って空間を切り取っているというのもあるが、この会社の外は空間としては不安定らしくてな。どこにもつながらないから外から向かうのは無駄だぞ』
「いいのかよ? そんなこと漏らして」
天狩が馬皇の疑問に答えるという事に馬皇は訝しげな表情でスピーカの方を見る。
『なに。もしここに来るような輩が現れるようであればそう答えろと言われているだけだ。それよりも速く来たまえ』
「扉は壊していけばいいのか?」
『おっと。私としたことが扉を開け忘れていたようだ。はっはっはっはっは。すまないね』
馬皇は目の目にある扉を破壊しようと一歩前に踏み出す。それに対して笑いながら謝る天狩。天狩の反応に馬皇は少し苛立ちを覚えるが、さすがに本人のいない状態では文句を言うことが出来ないため、出会いがしらに一発ぶん殴る事だけ決意する。
『この先に私がいる。勝てば情報をやろう』
それだけ言ってぶつりと放送が途切れる音が聞こえた。目の前の様子に馬皇たちは顔を見合わせた。
「どうするの?」
真央はたずねる。明らかに馬皇を狙っていると分かる天狩の発言に少なくとも嘘を言っているような雰囲気はなかった。このことに関しては真央が馬皇に意見をゆだねるつもりであるのが分かる。
「行く。あいつをブッ飛ばしてから聞きだした方がよさそうだ」
馬皇は目を瞑ってから素早く思考を整理してから答えた。その答えに他の全員も踏み込む覚悟が出来たのかうなずく。馬皇たちは扉の先に向かった。
急に寒くなって手がかじかんでテンションが低くなっているhaimretです。第7章の敵であった天狩さん登場です。
いつも読んで下さりありがとうございます。指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者は大歓喜して動力源ととなりますのでよろしくお願いします




