22話
oh。どうしてこうなった……
「……あの? ここは?」
真央たちが足を踏み入れると同じに明かりがつく。そこにはスタッフの座る椅子と何かを操作するモニターがあり、いわゆるサブカルチャーに出てくる宇宙船の艦橋のような場所であった。その中央には古い感じの船の操舵に使われるハンドルである舵輪があり、目の前に広がる明らかに共用スペースとは毛色の違う空間を見た由愛が一番最初に口を開いた。
「ここは艦橋よ」
「あの。そうではなくてですね」
「すごいでしょ。ここと共用スペースとを強度や空間ごとの干渉の抵抗値を最小にして作るのには苦労したわ。そのために馬皇の手を借りなきゃいけなかったのは少し悔しいけど」
真央はこの場所を自慢するように答える。由愛が聞きたいのはそういうことではないのだが、真央は構造の事聞きたかったのかと思ったのか的外れなことを答える。あまりにも短い説明に馬皇が補足する。
「それだけじゃ分かられねぇだろうが。詳しく言えば俺とこいつが作った宇宙船だな」
「宇宙船って……」
馬皇の補足に由愛は納得せざるえなかった。艦橋のガラス張りの先には真っ暗な周辺には不規則かつ無法則に大小さまざまな岩が漂っている。そして、はるか先には光り輝く恒星が川のように一面に見える。まさに宇宙としか言いようのない光景であった。世界に映るものの由愛がさらに質問しようとすると、馬皇の説明に不服なのか真央は由愛の質問に割り込んで早口で説明を始める。
「何言ってるの‼ これは宇宙船じゃないわ‼ 私の祖先が作った方舟を参考に宇宙だけじゃなく大気圏内も深海も次元すら渡って行ける事を想定した万能艦よ‼ しかも、この艦は最強の金属と言われるオリハルコンやアダマンタイト、魔鉱石などをふんだんに使って合金にして薄く何層にも重ねたミルフィーユ構造、それに加えて特殊なフィールドによるバリアがあってデブリだろうがビーム兵器だろうが核弾頭だろうがこの船を傷つけることは出来ないわ‼」
「説明長ぇ。じゃあ、なんて呼べばいいんだよ?」
真央の説明の長さに鬱陶しそうに馬皇がそう言うと真央の口の動きが止まる。しばらくして、何かを思い出したように「あ」と間抜けな声を出した。
「……名前考えてなかったわ」
「おい」
「ちょっと待ってね。今すぐ最高の名前考えるから」
そんな締まらない感じであーでもないこーでもないとうんうんと唸る。少しすると真央は思いついたのか考えもなしに名前を口にした。
「やっぱり。これね。方船よ」
「え、えっと……い、良い名前だと思いますよ。……名前じゃないですけど」
「うん。名前じゃねぇな」
「わ、わかってるわよ‼ そんなこと‼」
さすがに真央もそれが名前ではないことが分かっているのか顔を赤くして言った。
「どうしてそれで行けると思ったんだ……」
馬皇の率直な感想と由愛の苦笑する。真央の反応に逆に驚いて答えるユメリア。そんな様子を見ていたサライラがここで始めて喋った。
「真央のネーミングセンスは置いておいて、とりあえず同じ意味でも呼びやすいアークでいいのでは?」
「そうね。私もそれでいいと思うわ」
「我もそう思うぞ」
「……もうそれでいいわよ。アークね。アーク……」
ファナやユメリアの答えに不機嫌そうに船の名前をつぶやく真央。
「それで、だ。進まない話を纏めるとこの船で皆月たちのいる本社に突撃を掛けようって訳だ」
「ちょっと‼ それは私の‼」
「別にいいじゃねぇか。ちょっとくらい。それにそのまま説明させても時間が掛かるだけだったろうが」
「私が説明したかったのよ‼ その為にここまでの仕掛けを用意してたのに‼」
「もう‼ ケンカはそこまでです‼」
「「‼」」
真央と馬皇はお互いににらみ合う。少しでも刺激すればケンカになりそうな雰囲気の中で由愛が馬皇と真央の間に割って入った。急にかつ物理的に引きはがしに入ってきた由愛に馬皇たちは驚く。
「ただでさえ理解が追い付かないのにここで説明を放棄しないでください。馬皇さん。真央さん」
「お、おう。悪かったな」
「え、ええ。大人げなかったわ」
予想外の行動を見せた由愛に動揺を隠せないまま馬皇と真央は重苦しい雰囲気がなくなり流れのままに謝る2人。その様子に由愛はひと段落と言った様子のため息を吐く。
「それで、話を戻しますけど、この船で敵の本拠地に向かうってことなんですよね?」
「そうよ。その為に切り離された宇宙を見つけ出して潜り込んでからこうやって漂ってるわけだし。敵も防衛面も含めてかなりの物だと推測しているから出し惜しみなしで攻めるつもりよ。ついでに、私たちがいなくても自動操縦で私の思うままに操作できるから侵入される問題はないわ」
「私たちは真央さんたちに着いて行けばいいんですか?」
「そうね。基本は全員でだけど臨機応変に、よ」
由愛の質問で調子が戻ったのか真央は由愛の質問1つ1つ丁寧に答えていく。
「まぁ、つまり作戦なんてないんだけどな」
「それは言わない約束でしょ。それ以前に協力を前提に動くなんてできないでしょ」
「あ。やっべ」
実のところ行き当たりばったりもいい所な作戦に馬皇と真央以外の全員が呆れた様子で馬皇たちを見る。
「……まぁ、我たちだとそもそもだしな」
「そうね。足手まといになりそうで怖いわね」
「……そもそも私は戦えるかどうかもあやしいです」
「ああ‼ もう‼ だから作戦なんてまどろっこしいことはしないの‼ それよりも見えてきたわ」
ネガティブな方向に由愛たちの思考が向かおうとしていたのを真央は無理矢理軌道修正するために話題を変える。何もなかったはずの場所には大きな施設が漂っていた。
「あそこが敵の本拠地だ」
「もう‼ 私のセリフだっていってるでしょ‼」
「おう。悪いな」
「はぁ。もういいわよ。おそらく、あれらを動かしている動力については私たちが乗ってる舟:アークと同じよ。エネルギーは無限。そのエネルギーを何に使ってるかというと……。丁度いいのが来たみたいね」
そう言って真央は望遠の映像を映し出す。そこには宇宙空間を飛び回る粘液上の不定形の生き物がWCA本社に取りつこうとしている姿であった。
「うぇ。なんだあれ?」
「うぅ。宇宙にはあんなのがうようよしてるの?」
ユメリアとファナはその見た目にドン引きする。由愛はその見た目に何も言えないどころか気を失いかけている。
「そんなのはどうでもいいのよ‼ 来た‼」
そんな場違いな感想に対しても真央はツッコミを入れると真央の言いたいことをユメリアたちは理解した。不定形の生物はその施設を取り込もうとするが途中で何かに阻まれるように一定の範囲で動きを止める。そこから全体が一瞬で燃えると塵や灰すらも残さずに数秒で燃え尽きて掻き消えた。
「……なぁ。これからあの中へ突っ込んでいくのか?」
「当たり前でしょ。そのために由愛たちに同じような結晶を用意してもらったんだから」
明らかに殺意の高いバリアに突撃していくと言う事実にユメリアの言葉から腰が引けているのが分かる。それに対して何をいまさらと言わんばかりに真央が答える。
「それとここまで来たらさすがにばれるよな」
馬皇がそう言うと同時にアラートが鳴った。つんざくような音が急に鳴り響いて由愛たちは思わず耳を塞ぐ。外の方を見ると施設の方から人型のロボットらしきものが多数出撃する。
「さて、ここからが見せどころね。馬皇やるわよ」
「おう。他の奴らはどこでもいいから腰掛けろ。ちっとばかし揺れるからな」
真央がそう声を上げると馬皇は由愛たちに指示を出す。由愛たちは近くにある場所に座ると馬皇は別の場所に移動を始める。
「私も行きますわ」
「おう。行くぞ。それと任せたぞ」
馬皇が出ようとすると馬皇の後をサライラは着いて行く。それに対して馬皇は止める気はないのかそのままついてくることを許可する。
「私を誰だと思ってるの?」
「自称天才様だろ?」
「自称は止めて。結界内に侵入したら合図送るからおもっきり暴れなさい。その後、あの施設の中央部にある社長室で合流よ」
「おう。分かりやすくて助かる」
そんなやり取りをしながら馬皇とサライラはそのまま別の場所に移動する。
「あの? 馬皇さんたちは?」
「あいつとサライラは結界を抜けた後の露払いを頼んだのよ。別あいつらなら結界があろうがなかろうが関係なく進めるんだけど無駄な消耗は押さえたいから先に私とアークで殲滅するのよ。こんなふうに」
そう言って真央は舵輪のある場所に立つと8つあるスイッチの内の1つを押す。軽快にスイッチを押すと船は臨戦体制へと移行する。舟の中に隠されていた砲門が展開して画面に映る敵を一斉にロックオンする。そして、ビームが発射された。ビームは曲がりながらも対象のロボットの集まりを蹂躙していく。
「……あの」
「あら? ロックオンレーザーはうまく作動しているけど思っていたよりも照準がずれてるわね。ここはこうしてっと。おっと忘れてたわ。対物理・レーザー用フィールド展開。これで問題ないでしょ」
それでも撃ち漏らしが多いかったのか真央は機体の方のシステムをいじる。そうこうしている内に撃ち漏らした何機かが狙ってきたのを確認するとフィールド型のバリアを発生させる。敵の銃はレールガンなのか明らかに普通の銃弾を射出される速度よりも速い弾丸がフィールドに触れた瞬間に蒸発する。それに対して敵側も動揺しているのか攻撃の手が一瞬止まった。
「ふふん。戦場で動きを止めるなんて愚かね」
その隙を逃さずに真央は再度ビームを発射。今度は敵の撃ち漏らすことなく頭部と手足を撃ちぬく。
「完璧ね。これから突入よ。全員衝撃に備えて」
綺麗に決まったことに真央は満足そうな顔をすると次の行動に移す。相手の結界に阻まれて船内全体に衝撃が走った。結果、船体の半ばの所で結界に阻まれる。今も結界が船体を押しつぶして元に戻ろうと圧力がかかり真央が自慢していた装甲がきしむ。
「っ‼ これ‼ 本当に大丈夫なんですかぁ‼」
「まだよ‼ こんなこともあろうかと‼ 中和粒子フィールド展開‼」
そんな状態に由愛が叫ぶが、自身の船が活躍しているという状態に心が昂っているために聞こえていない。真央はそのままフィールドの上から金色の粒子が船全体を覆う。すると結界が阻んでいた部分が氷を解かすように溶けてから真央の船仮称:アークが結界を超えた。
「そのまま全速前進よ‼」
「……もう無茶苦茶です」
結界を超えて衝撃から遠ざかると戦いの最中であるが、由愛はそう呟くのであった。
実は宇宙だったのさ。な、なんだってー‼ くらいの軽い気持ちで書いて裏目に出そうなhaimretです。宇宙空間ですが、正確にはその宇宙空間そのものを切り取った別位相の世界です。
大丈夫かと聞かれたら、大丈夫じゃないと答える自信だけはあります。とか言いつつ全く使う想定をしていなかった宇宙船の機能を使うことが出来て嬉しいという気持ちもあります。ぐだぐだしたままWCA本社に突入です。
いつも読んで下さりありがとうございます。指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者は大歓喜しますのでこれからもよろしくお願いします




