20話
お互いに実を食べさせあった直後。気が付けば馬皇と由愛は最初に足を踏み入れた樹海の入口に立っていた。
「へ?」
「どうかしたのか?」
樹の実を食べただけだと言うのに一瞬で樹海の外に戻ってきたのである。訳の分からない状況に由愛は困惑する。しかし、口の中には食べた樹の実特有のさっぱりとした甘さが口に残り、手には切り分けて残った方の実を持っているため夢だったという事を否定していた。訳の分からないこと続きで由愛は混乱した状態のまま馬皇に詰め寄る。
「それはそうですよ‼ 樹の実を食べただけなのに気が付いたら最初に着た場所ですよ‼ 驚きますよ‼」
「お、おう。そんなに驚くとは思ってなかったぞ。っと、真央から連絡来たからすぐに転移するぞ」
「え? あ。はい」
由愛は興奮で気が付いていないのか思い切り体を密着させている。そんな様子に馬皇は何とも言えない様子で答える。そうこうしている内に真央から連絡が来たのか馬皇が由愛に言うととっさの事に由愛はうなずく。うなずいた瞬間。一瞬の浮遊感と共にこの樹海を訪れた時と似た浮遊感を由愛は感じる。そして、あっという間もなく真央たちの隠れ家の玄関に戻って来ていた。
「おかえり。サライラは先に帰って来て休んでるわ。ユメリアとファナはまだ探しているわね。それで? どうだった?」
馬皇たちが戻ってきてそうそう真央はニヤニヤとしながら玄関で待ち構えていた。
「見てたから知ってるだろ?」
「そんなことはないのはわかってるでしょ」
馬皇がたずねると真央は即座に否定する。馬皇もあの空間を魔法などで見通すことが出来ないくらいに魔力が濃すぎて見えていないと言うのは分かっているが、真央の表情と反応からそうではないと思える。そのために不審そうな顔をして馬皇は眉を顰めながら言った。
「それはそうだけどよ。そのニヤけた顔はすげぇむかつく」
「そう。これがいつもの顔よ」
「嘘つけ」
未だにニヤニヤしている状態で簡単に分かる嘘をつく真央に馬皇が半眼でそう言うと真央はわざとらしく由愛の方に目を向けて言った。
「それよりも大胆に抱き合っているけど何があったのかしらね?」
「「っ‼」」
真央の確信犯じみた言葉に由愛と馬皇はようやく今の状態に気が付く。実際は馬皇に聞くために詰め寄っただけであるが、由愛が一方的に馬皇に抱き着いているようにしか見えない状態であった。馬皇と由愛は慌てて少し離れると真央は何かを確信した様にうんうんと何かに納得するようにうなずく。
「うんうん。そうよね。そんな反応をするってことはあの伝承は正しかったってことよね」
「おい」
真央の言葉から何かしらの検証の出しに使われたことを悟った馬皇がそのまま思考の海に入ろうとしている真央に待ったをかける。その声に真央は少し不機嫌そうに言った。
「何? 今いい所なんだから話は後にして」
「伝承ってなんだよ?」
「……何でもないわ」
「その間はなんだよ。そんなに言えないようなことをさせたのかよ?」
真央の反応に馬皇がそう言うと真央は観念した様子で言った。
「そんな訳ないでしょ。由愛にそんなことさせるわけないじゃない。今手に持っている素材が必要だったのよ」
「それで? 本当は?」
「伝承の片隅に相思相愛のペアしか入る事の許されないリア充の聖域があるって私のご先祖様が書きなぐってあったから本当なのかなと……はっ」
馬皇の露骨な誘導に引っかかって口を滑らせる真央。その答えを聞いた馬皇は怒りより先に呆れの方が強かったのかため息が出た。
「……はぁ。気になるなら自分の目で見ればよかっただろ?」
「別にあろうがなかろうがどっちでも良かったけど、まさか私の探知の領域すら超えて妨害されるとは思わなかったわ。それのせいで妨害された先は見れなかったけど、そういう場所が本当にあるっていう証拠の1つが手に入ったのは大きいわね。それとあんたはあの場所について知っているみたいだけどどうしてあの場所知ってたのよ? 入口での話は聞いてたんだけど?」
「それはそうですね。割と詳しかったです」
真央はひとしきり説明を終えると話題の対象を切り替えるように真央は馬皇に聞いた。そのことについては由愛も気になったのかそれに同意するようにたずねる。
「あれか? 昔にあれを採りに行く仕事があったんだよ。真央が言う通りに薬に限らず触媒とかにも使えてほぼほぼ万能に近い代物の上に貴重な代物でな。これ単体でも普通に買おうと思えばバカみたいな値段になる。だから採りに行かせる人間も厳選して制限してたんだよ」
「という事はある場所も知っていたはずよね?」
「その場所は俺が亡くなった後に枯れたってサライラが言っていたぞ。元々魔力の濃い地でしか育たない樹だったからな。俺やサライラ、イシュララなどの竜が大量居た事や俺自身がその地に加護と魔力を注いでいたことが生えたきっかけだろうという話だ。その樹自体も樹齢を考えれば今日見てきた奴よりも若輩も若輩。むしろ、幼子と言ってもいいぐらいのものだったしな。そもそもある程度まで大きくなれば自身の力で魔力を生み出して世界を作り出し循環させるから自立できるんだが、時間が短すぎた」
「……それって私にはその実を栽培してたって聞こえるんだけど?」
「勝手に生えてきたのをいくつか条件や育てる奴を変えて各々で育ててみただけだ。その結果、1本しか大きくならなかったのとその実がいろんなことに使えてしまったってだけだ。それが今の日本でいう御神木と同じような神聖な物の扱いからそうなっただけだ」
「なにそれ。ズルい」
「ズルいって。お前なぁ」
馬皇の言葉に真央が羨ましそうに答える。
「戻ったぞ。ん? 馬皇と由愛も戻ってたのか?」
「ただいま」
そんなやり取りをしている間に別に取りに行っていたユメリアとファナが帰ってくる。
「どうやって戻ってきたんですか?」
何事もなかったかのように戻って来たユメリアたちに由愛はたずねた。
「そこはケイスケさんにお願いしてもらった。これだろう?」
由愛にこの場所に戻った方法を説明しながらユメリアは裾の中をごそごそと探して見つけた物を投げ渡す。宙を飛んだ物を真央は慌ててキャッチすると投げたユメリアに文句を言った。
「見つけて来てくれたのはありがとうだけど、危ないじゃない‼ いくら固いとは言っても脆いんだからもっと注意して扱って‼」
「す、すまん」
真央の鬼気迫る表情にユメリアもさすがに悪いと思ったのか素直に謝る。ユメリアがぞんざいに扱いはしたが、壊してはないため一先ず怒りを収める。
「もういいわ。それとおかえり」
「ああ。戻ったぞ。それで真央たちは玄関で何をしていたんだ?」
「お願いした物の手に入れた場所について話してただけよ。古い伝承系の本にある場所は書かれていたんだけど詳しい場所はなかった上にその場所に行くまでに面倒な手順を踏まなくちゃいけないから気になってね」
「そうなのか? それは気になるな。どんな場所なんだ?」
ユメリアの問いに馬皇と由愛はどう答えればいいのか、悩んで躊躇っている内に真央が説明する。その説明に興味がそそられたのかユメリアが参戦する。
「えっと……とっても大きな樹がある場所です」
「ほうほう。そんなに大きいのか? それはどれくらいだ?」
「少なくともものすごく遠目で見てやっと全体が見えるくらいです。樹の枝すら家が並んでても問題ないくらいでした」
「おぉ‼ それはでかいな‼」
由愛が条件をぼかしながらそう答えるとユメリアはますます興味がそそられたのか目を輝かせる。そんな様子に由愛は苦笑いして予防線を張った。
「ただ、場所については真央くらいしかしらないので詳しい話は真央さんに聞いてください」
「言っておくけど大雑把な場所は分かってるけど詳しい位置は私も知らないわ。そもそも普通の手段じゃいけないから」
「そうか。それならその伝承の書かれた本を後から読ませてくれ」
真央の言葉で普通に行くのは難しそうなことを判断すると少しだけしょんぼりとするが、すぐに機嫌を直して真央にたずねる。真央もそれについては何も問題ないのか「ええ」と短く言ってからうなずいた。
「それとファナに持たせていたが、本当にこれで良かったのか?」
そう言ってファナがどこに片付けていたのかどこからともなくビニール袋を差し出した。その中にはジャガイモや玉ねぎに似た物、二股のにんじん、何かの肉、鋭い口の形をした魚、大きな手のような形の葉っぱなどの葉っぱ各種。料理に使うのかと言わんばかりの素材から薬草らしきものまでバラエティに富んだ代物が入っていた。
「あの? これは何に?」
「何? って。皆月たちの拠点に侵入するための魔道具の触媒だったり、ポーション類とか装備の素材諸々の足りなかった奴よ。とりあえず、これらが出来たら出発になるから今のうちに休んでおきなさい」
「そ、そうですか……。真央さんは?」
「私は作業を終わらせてから休むわ。少なくとも1日はかかるからそれまでは自由時間よ。はい。解散」
そう言って真央はホクホク顔でファナから素材などを受け取ると研究室の中に引きこもっていた。置いてきぼりをくらった馬皇たちは何とも釈然としない思いにかかりながらも思い思いに時を過ごすのであった。
評価して下さって嬉しい反面ブクマが減って一喜一憂しているhaimretです。
次回は準備が整って本格的にWCAに攻め込む予定です。章のタイトル回収はもう少し先になります。
いつも読んで下さりありがとうございます。指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者は大歓喜しますのでこれからもよろしくお願いします




