18話
由愛の案内の元、3時間近くも樹の枝の上をずっと歩き続けた先で馬皇たちは、ようやく果実らしきものが生っているのを見つけた。
「はぁ。はぁ。あれですか?」
「おう。あれだ。それにしても運が良かったな。近くに両方とも生えているのは珍しい。それにしても一旦ここで休むか?」
「……はい」
由愛は上の枝になっている2つの色の違う果実を指さすと馬皇は珍しそうに見ながらも答える。その答えにようやく目的の物を見つけられた達成感とずっと歩き続けた疲労感が同時に来て由愛は馬皇の提案に答えるとその場にへたり込むように腰を下ろす。
「よっぽど疲れたんだな」
「それはそうですよ。まさか、樹の上をあの後からずっと歩き続けるとは思いませんよ」
「そうか?」
馬皇が聞くと由愛は馬皇の答えに少しだけ不機嫌になる。が、疲労感の方が上回っているために言葉に力がない。
「そうですよ。いくら大きくて真ん中を歩いていれば落ちる心配はないって言ってもまだ樹の上なんですよ? 体力的に疲れたのもありますけどそれ以上に精神的に怖い部分がありますよ」
「それについてはもし由愛が落ちてもいつでも助け出して見せるさ」
「もう。そんな恥ずかしい事、堂々と言わないでくださいよ」
馬皇が恥ずかしげもなく由愛の言葉にそう答えると聞いている方が恥ずかしくなったのか由愛はそっぽを向いた。
「そうか。悪かったな」
「そこまでは怒ってませんよ? それとすみません。少し疲れてたので不機嫌になってました」
馬皇のうなだれた様子を見て、溜飲が下ったのか自己嫌悪なのか冷静になると自分が馬皇に当たっていたことに思い至ってすぐに謝る。それと同時に「くー」と由愛のお腹から控えめな音が鳴る。由愛は慌ててお腹を押さえるが完全に間に合っていない。それを見た馬皇は笑った。
「はは。そうか疲れた上に腹が減れば誰だって不機嫌になるよな。今から飯にするか?」
馬皇の指摘にどんな顔をすればいいのか分からずに顔を赤らめてどうすればいいのか迷っていると馬皇が提案する。
「うぅ。あの……ご飯……用意してきたんですか?」
馬皇の言葉に由愛は顔を赤らめたままであるが、想定していなかったのか純粋な疑問が羞恥心を上回ったのか思わず聞き返した。その反応に心外そうに馬皇が答える。
「失礼だな。難しいのは出来んが、おにぎりとかカレーとか簡単な物ぐらいなら作れるぞ。えっと……確かこの辺りに……あった。ほらよ」
そう言って馬皇は虚空に手を突っ込むと何かの塊を取り出して由愛に手渡す。それはハンドボールくらいの大きさの球体の黒っぽい塊であった。
「……おにぎりですか?」
「おう。おにぎりだ。全体を大きめの海苔で包んだやつだ。具は肉と肉だ」
「あの? 馬皇さん。お肉しか言ってないですよ?」
具の中身が肉しか答えていない馬皇に由愛は呆れた様子でツッコミを入れる。由愛のツッコミにその説明では不足だと思ったのか馬皇はさらに説明を補足する。
「おっと。オークの肉を粗くひき肉にしてからシンプルに塩で焼いた奴と真央の奴と狩ったグリフォンの肉の残りを特製のタレに漬けたのを焼いた奴だ。良い肉だから冷めていても柔らかいからうまいぞ」
「あの。お肉の種類を聞いてるんじゃなくてですね……。あの。いえ。もういいです」
馬皇の言葉に由愛は改めて聞き直そうと思ったが求めている答えが返ってこなさそうなことを悟って言葉を中断する。そんな由愛の様子に何か気になるのか馬皇はたずねた。
「なんだ? 言いたいことがあったら言ってくれよ? 途中で止められるのはすごく気になるだろ?」
由愛が言い辛そうにしていると馬皇はさらにたずねる。その様子に由愛は躊躇いながらも控えめに答えた。
「えっと……おにぎりをくれるのは嬉しいんですが、私には少し大きすぎるのでこの半分……いえ、3分の1だけでいいですか?」
「なんだ? それだけでいいのか? 別に構わないが、喰える時に喰わないと後でまた鳴るぞ?」
「むぅ。お気遣いはうれしいんですが、馬皇さん。その言葉はデリカシーがないですよ。それにさすがにその量を全部は食べられないです」
「そうか。すまん。それとおにぎりをよこしてくれ」
「はい」
由愛の言葉に馬皇はうなずくと先程渡したおにぎりを要求する。由愛も少し頭をかしげるが言われた通りに馬皇におにぎりを返す。馬皇はそれを受け取ると腰の付けている鞄に手を突っ込んでからナイフを取り出した。そのナイフを使って丸いおにぎりの一部をスイカを切り分けるように慎重に切ってからその一部を由愛に渡す。
「これくらいなら大丈夫だろ?」
「ありがとうございます。それといただきますね」
「おう。食べろ。食べろ。俺も食う」
切り分けた残りを馬皇は手早く口に運んで答える。さすがにそこまでされたら食べないのは失礼だと由愛も思ったのか馬皇と同じように切り分けられたおにぎりを口に運んだ。
「あ。おいしい」
「だろ?」
1口目は冷めてはいるが程よい塩味と海苔の風味が米を引き立て食欲をそそられる。それだけでもシンプルにおいしい物であったが、2口目にはそれに加えて甘辛いタレの利いた肉が食欲をさらに増進させる。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさん」
3分の1程度と言っても普通の市販されているようなおにぎりと大して変わらないサイズの物をあっさりと平らげる由愛。それを横目に見ながらも馬皇は由愛と同じくらいのタイミングで食べ終える。
「馬皇さん。早いです」
「そうか? 特には気にしてないんだけどな。それとそうだな。腹もそれなりにふくれた事だし、そろそろあの樹の実の一部を食うか?」
「え? あれって確か頼まれてたものじゃあ……」
頼まれていた物を食べようと言った馬皇に由愛は困惑する。普通に考えればそう言った物は完全な状態で持って行かなければ意味がないと考えるのが一般的である。その例にもれずに由愛はそう言うと馬皇は答えた。
「いいんだよ。つか、採った奴の半分を食べないとそもそも外に出られないからな」
「そうなんですか?」
初めて聞いた情報に由愛は思わず聞き返す。それに馬皇は律儀に答えていく。
「おう。人間が楽園を追放される逸話はそこから来てるんだ」
「へぇ。そうなんですか」
「ちなみにその食べるという行為なんだが、実も男性と女性で触れる実が違う上に触れない方の身をお互いに相手に食べさせ合わないといけない」
「へ?」
馬皇の説明から感心している最中に放たれた馬皇の言葉に由愛は硬直する。
「ん? どうした?」
「あ、あの。お互いに食べさせ合わないとダメなんですか?」
「ああ。由愛には俺から知恵の実を由愛は俺に生命の実を食べさせないと出られない。ちなみに食べなきゃいけないのは1口でいいぞ。そしたらいつの間にか樹海の外に出てるんだ」
「あわ……あわわ‼」
馬皇は説明を続けるが、由愛の頭の中は混乱の極みであった。年頃の男女が食べさせあいっこさせるという事が頭に残りすぎて他の言葉が入ってこない。顔を真っ赤にさせた様子にさすがの馬皇も様子がおかしいことに気が付いたのか由愛にたずねる。
「おう。どうしたんだ? 由愛?」
「えっと‼ あの……それってつまり食べさせあいっこってことですよね‼」
「お、おう。そうだが?」
「馬皇さんと私が……食べさせあいっこ。きゅう……」
由愛が混乱した状態のまま変なテンションでたずねるとその様子に困惑した馬皇はうなずく。それに思考がオーバーフローを起こして由愛はその場に倒れ込む。
「お‼ おい‼ 由愛‼ 大丈夫か‼」
そんな様子の由愛に馬皇は慌てて駆け寄っていくのであった。
そう。難しいのは考えられないhaimretです。今回は樹の実を見つけるまで。次回は食べさせあいっこですよ。お楽しみに
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