15.5話 その6
すみません。終われませんでした
「みなさん。ご迷惑おかけしました」
ネガティブな状態になった由愛を馬皇が抱えて共用ルームに戻って来てからなだめる事しばらくして。ようやく復活したのか開口一番に言ったのは謝罪の言葉であった。
「いいのよ。悪かったのは私なんだし」
「そうだぞ。それに関しては真央が悪い」
「ぐっ。言うわね。間違ってないから言い返せない」
「あははは……。馬皇さんもそれぐらいで」
馬皇のからかいの言葉に真央は言い返すことが出来ず言葉が詰まる。その様子に由愛は苦笑すると馬皇は言った。
「おう。悪かったな」
「なんでかしら。少しむかつくわ」
馬皇の態度に真央は少し腹を立てるが、それを見た馬皇はさらに機嫌を良くする。
「それよりも私の部屋はどうなさいますか?」
そんな和やか(?)な雰囲気の中でサライラが言った。
「そういえばサライラにも部屋を頼んでたな。行くぞ」
「先に行かないでよ。女の子の部屋に1人で行こうとするのは何か変態みたいよ」
「誰が変態だ‼」
サライラの言葉に馬皇はうなずくと立ち上がってサライラの部屋に向かおうとする。その後を追う様に真央が立ち上がってそう言うと馬皇もさすがに無視できないのか慌てて振り返って言い返す。
「私は別にお父様が変態でも……」
「馬皇さん。ふしだらなことはめっですよ」
「誤解だ」
サライラと由愛の言葉が追撃となってさらに微妙な表情を作る。とニマニマした表情でユメリアとファナが言った。
「そうだな。変態さんだな」
「ふふふ。どうしたの? 先に行かないの?」
「お前ら分かってて言ってるだろ?」
「「さぁ? 何の事だ(かしら)?」」
「ほら。行くぞ。そんで勝敗を決めてくれ」
息の合った2人の言葉に馬皇が戦慄すると小さく笑い声が漏れる。それを聞いた馬皇は諦めた様子で肩を落としてからそう言うと馬皇の言葉に従って全員がサライラの部屋の前に立つ。
「ふと思ったんだですが、サライラさんの部屋ってどんな感じになってるんでしょう?」
「そんなの入ってみたら分かるだろ?」
部屋の前に立って何を思ったのか由愛はそんなことを言って扉を開ける前に手を止めると馬皇はにべもなく答える。
「まぁ、最後の部屋なんだし、少しくらい答えてもいいんじゃない?」
「そんなもんか?」
「そんなもんでしょ。でも、先に由愛の想像してることを教えてちょうだい。そうしないと答えられないわ」
「そうですね。とは言っても全く想像が出来ないです。馬皇さんとファナさんはサライラさんの部屋って見たことあるんですか?」
「……ああ」
「……ええ」
「普通の部屋ですわよ?」
由愛の質問に馬皇とファナは何かを思い出したのか同時に歯切れの悪い表情を浮かべると少し間をおいてから答える。そんな様子に由愛たちは頭をかしげる。
「どうしてそんなに歯切れ悪いんですか?」
「どうしてと言われると。なぁ」
「そうよねぇ。私も馬皇も言わなかったけどあれは……ねぇ。何とも言い辛いわ。まぁ、入ってみれば分かるわ」
「何でしょうか。馬皇さんたちの様子からすごく不安になってきたんですが」
「分かるぞ。こんなに言い辛そうにしてるのが余計に不安を煽るな」
「でも、開けないと追われないので開けます」
「……こういう時は思い切りいいな。由愛は」
馬皇とファナの発言に不安しか出てこない由愛とユメリア。その言葉を聞いてから少しして由愛は覚悟を決めると「えい‼」と言わんばかりの勢いで目を閉じた状態で部屋を開ける。
「あれ? 普通ですね?」
由愛が部屋の扉を開けて最初に目に映ったのは普通の部屋であった。部屋は女の子らしさが出ているのか薄い桜色が優しく包み込んでいた。隅にはサライラのベッドがあり、その横にはクローゼット、小さな本棚がある。ベッドの枕元には馬皇たちに似たデフォルメされたぬいぐるみがあり、馬皇、サライラ、由愛、真央という順に手をつないでいるようにも見える状態でベッドの枕元にならんで置かれている。中央には小さな机がありその下には絨毯が敷かれており物は少ないが、いい感じの部屋であった。
「なんでそんなにもファナと馬皇は微妙そうな顔をしていたんだ? ……そういうことか」
馬皇とファナが微妙な顔をするとは思えないような部屋の状態にユメリアは頭をかしげる。かしげながら馬皇とファナを見ていると何かに気付いたのかさらに困惑しているのを見かける。馬皇たちの視線を追っていき、ある物を見つけてつぶやいた。
「どうしたんですか? ユメリアさん?」
「いいや。知らない方が良いぞ」
「どうしたんでしょうか?」
「分かりませんわ。どうしてかお父様の他にも私の部屋に着た者全員が出る頃には微妙そうな顔をするんですわ」
ユメリアがつぶやいたことに気が付いた由愛がたずねるとどう答えたらいいのか分からないと言っているような表情をしてから笑顔で答えるユメリア。そのことに由愛が頭をかしげるとサライラは微妙に納得がいかなさそうな顔をして答えると由愛は「不思議ですねぇ」と言ってお互いに頭をかしげる。
「まぁ、それはいいとしてあの人形は手作りなのか?」
そう言ってユメリアはベッドに置かれている馬皇の人形の背中に引っ付いているように見えるサライラの人形と由愛と真央が手をつないでいる人形を指さす。
「ええ。私の自信作の1つですわ」
「ちなみに人形が動くなんてことはないよな」
「何を言ってるの? 人形が動くわけないでしょ? お父様の背中があの人形の定位置ですわ。それでその近くにはいつも一緒に居る由愛や真央をモチーフに作りましたわ」
ユメリアの指摘に何を言っているのと言った様子で答えるサライラは、人形の事を話す。
「なら、なんであれらは手をつないでいたんだ?」
「手を? 何を言ってますの? 今もお父様とその背中に乗っている私と真央とお父様の隣にいる由愛の人形ですわよ?」
「……あれ?」
「本当に良く出来てますね」
「でしょ。由愛は分かってますわね。お父様とファナがこれを見た時は大体微妙な顔をしますのに」
サライラがそう指摘するとユメリアは慌てて見直す。その先には真央と由愛が馬皇を挟むように置かれておりその背中にはサライラが馬皇の頭の上から覗き込むような姿勢をしていた。そのことにユメリアはさらに困惑する。
「かわいいなぁ。サライラさんは器用なんですね」
その一方で由愛はその人形たちを見て羨ましそうにサライラをほめながら言った。その反応が嬉しかったのかサライラは目を輝かせながら言った。
「ええ‼ ええ‼ お父様のお義母さまから教えていただいたのですわ。欲しかったら今度一緒に作りませんか?」
「いいんですか? でも、私不器用だし」
「問題ありませんわ。私も最初は不定形の何かよく分からない物が出来ましたが、少しすればいいのが出来るようになりますわ」
「そうでしょうか?」
「そうですわ」
「なんだか出来る気がしてきました」
「その調子ですわ」
「なら、今度教えてください。私も作ってみたいです」
「お任せあれですわ」
由愛の反応にサライラが大きくリアクションを取りながら嬉しそうにうなずく。その様子に由愛も楽しみになってきたのかそう言うとサライラは自信満々に答える。
「サライラの部屋も見終わったし、そろそろ出て結果を聞きたいわ」
そんな2人の様子とは裏腹に真央も何かに気が付いたのかすごく居心地の悪そうにそう言った。
「真央さん。どうしたんですか?」
「いや。何と言うかやっぱり勝負だから早く結果を知りたいのよ」
「だな。俺も早めに知りたいな」
「馬皇さんも真央さんもせっかちさんですね。サライラさんもいいですか?」
「私は構いませんわ。お部屋と言ってもお父様や真央みたいに凝ったつくりにする気はないですから今ある部屋以上の空間はありませんし、基本はお父様の部屋に入り浸る気ですから」
「そ、そうか。程々にしろよ。いや、無断で入るのは駄目だが、好きな時に来ればいい」
「? 分かりましたわ」
馬皇の微妙な表情で優しい言葉にサライラは頭をかしげるがそれ以上に割と自由に来ても良いという言葉にサライラは嬉しそうにうなずいて考えるのを止める。
「まぁ、俺の部屋が1番なのは変わりないがな」
「言ってくれるわね。私の部屋が一番でしょ」
サライラの様子を見た馬皇はほっと息をつくと自分の部屋が一番であることを主張する。それに対して真央も負けず劣らずと言った様子で答える。
「「まぁ、それよりも先に共用スペースに戻ろう」」
が、共用スペースに戻ることに関してはどちらも同じなのか同時に声がそろう。
「お父様たちは速く結果が知りたいのですね。本当に負けず嫌いですわね。あのお2人は」
「そうですね。やっぱり仲が良いです」
「一番は私とお父様ですわ」
「ふふふ。分かってますよ。それに私とサライラさんもですよ」
「そうですわね」
馬皇たちの様子に疑問を満ちながらも馬皇と真央、それに続く形でユメリアとファナ、最後に微笑ましいと言った表情で見届けながら後を着いて行くサライラと由愛。由愛の言葉にサライラは嬉しそうに笑う。それを見て由愛も同じように笑った。その後、そのまま部屋を出て由愛が閉める瞬間に人形たちが手を振っているように見えた。
更新しました。今回で終了させるつもりがまさかの終われなかった。次回こそは15.5その終ということで.5話は完結します。そして、本編に戻ります。
いつも読んで下さりありがとうございます。指摘とかブクマとか評価とか感想とかしてくださいますと作者は大歓喜しています。これからもよろしくお願いします




