15.5話 その3
注意。お酒は容量、用法、節度は守って楽しく飲みましょう。そして、大前提としてお酒ははたちになってからですよ
馬皇の部屋に向かうために真央の部屋を出る直前、ユメリアが共用スペースへの扉を開けようとしている姿を見ていた真央があることを思い出したのか言った。
「あ。そういえば―」
「なんだ? っ‼」
真央が不審なことを言っている間にそのままユメリアは扉を開ける。扉を開けた先にいた存在を見てユメリアは思考が停止した。
扉を開けた先は広い空間であった。地平線すら見えそうなほどに広い空間の先、それも扉の目と鼻の先には明らかに大きな巨躯の存在がふせて鎮座していた。その高さはだけ見てもおおよそ4m。伏せている状態の3つの頭は扉が開いた子に気が付いて一斉に頭だけを上げる。3つの頭はユメリアたちを見つめており、鼻息がユメリアたちに当たる。その鼻息が生き物特有の生臭さと共に一番近くに居たユメリアたちの髪を激しくなびかせとユメリアは言った。
「お、お邪魔しました」
ユメリアは緊張した面持ちで短く、早口で言い切ると軽快な音を立てて扉を閉めた。扉を閉めると真央が話を続ける。
「部屋を出る時は扉の鍵を右に2、左に1、右に3回回さないと下僕たちと遊ぶためのスペースに繋がるんだった」
「……それは先に行ってくれ」
真央は思い出してスッキリしたと言った様子で言った。いきなりの状況に疲れ切った様子のユメリアはツッコむ気力がないのか短くそう言うとその場にへたり込む。しばらくして立つだけの気力が戻ってきたのか立ち上がると真央に言われたように扉の鍵を回した。回し終えてから扉を開けるとそこは共用スペースであった。見覚えのある場所に出てユメリアはほっと息をついた。
「ふぅ。戻ってこれた」
「どう? すごかったでしょ?」
「確かに、色々と言いたいことは多かったな。そういえばあそこに無造作に置かれていた薬品と植えられていた植物は?」
「あれ? 言ってなかったかしら?」
「確か言ってねぇぞ」
「そう。鉢に植えているのはマンドラゴラよ」
「引く抜くと木の叫び声で命を取られるあれか?」
「何言ってるのよ? 植物が叫び声をあげるわけないじゃない。根っこが多いから強引に引き抜くと根っこがちぎれる時にそんな音が鳴るだけよ。ただ、その音がバカみたいに大きいのと葉っぱにも毒性があるから知らずに引き抜いた奴から死んでいくからそんな話になってるだけよ」
「そうなのか。ってそれに触ってたら命を落としていたのか?」
「ええ。毒も結構強くて幻痛と幻覚に苛まれながら発狂して死ぬことになるわ」
「こわっ‼」
真央の説明に驚愕するユメリア。
「でも、あれのおかげでエリクサーが出来るから怖いだけじゃないのよねぇ」
「ああ。あの酒か? 確か薬草酒の一種だから苦いんだが、慣れてくるとほのかに甘いんだよな。それにきちんと保存して時間が長いほど熟成が進んで味わい深さが増す」
馬皇はうんうんとうなずきながら、なぜか味の感想を述べる。そのことに真央は呆れた様子で
「……あんた。私は薬だっていってるでしょうが。手間暇かかってる上に即死じゃなければ飲ませるだけで完全回復するって代物なのよ‼」
「そうはいってもやっぱり酒だぜ? 有名所は一度は飲むだろ。普通」
「ってそういえば前世竜だったわね。それなら飲んだことあっても不思議じゃない? いえ。それよりも薬としての試飲とかはあるけどお酒としては飲んだことはないわね。熟成させるとそんなにおいしいの?」
「おう。癖は強いがやみつきになるぜ」
「いや。それ以前にこの国では未成年の飲酒は犯罪だぞ?」
馬皇の言葉に真央も興味を持ったのか真剣に何かを考え始める真央。その様子を見たユメリアはさすがにそれ以上は駄目だと待ったをかける。
「分かってるわよ。年代物のエリクサーとかどんなものか気になるじゃない? やっぱり」
「分からないでもないが。由愛たちが話に追いつけてないからそれは今度2人だけでしてくれ」
ユメリアはそう言うと由愛たちを見る。由愛はちんぷんかんぷんといった様子で頭を捻っている。その一方でユメリアと目が合ったファナはいきなり話を振られて驚いたように肩を震わせてからユメリアから目を逸らす。しかし、その眼には馬皇たちの言っていたお酒に興味があるのがよく分かるように目を輝かせている。それを見たユメリアは呆れ様子で溜息をつく
「ファナ……」
「しょ、しょうがないじゃない。フィルガリデでは10歳から飲めるのよ」
「はぁ。まぁ、分からんでもないがその話は一旦お終いにして馬皇の部屋を案内してくれ」
「おお。そういえばそうだったな。こっちだ。っていってもすぐそこなんだがな」
目的を忘れていたのか馬皇はそう言うと由愛たちを案内する。共用スペースの端から端へ、真央の部屋の前から馬皇の部屋の前にはすぐに到着する。
「なんだろうな。すごく緊張する」
「分かります。私も少し緊張してますよ。ユメリアさん」
「分かるか。由愛」
馬皇の部屋の扉を前にして緊張した面持ちで見つめる由愛とユメリア。お互いに思っている事が同じで共感できるのかうんうんとうなずき合う。
「そう? 同じ家に住んでいるけどそこまで突飛な部屋にはならないと思うわよ?」
その一方で、馬皇の私生活と実家の部屋を知っているファナはそこまで想像を超えるようなことにはならないと踏んでいるのかそう答えると少し羨ましそうな声を上げて由愛は答えた。
「……うう。少し羨ましいです。でも、あまいですね。ファナさん。馬皇さんや真央さんの実家はご両親といるんですから普通な感じなのが当たり前ですよ。そんな中で実家の部屋とは別に自分だけのプライベートがあるとしたらどう思いますか?」
「まず、思い切り自分にとって快適な空間を作るのに全力を尽くすわね。あっ‼」
由愛の質問にファナが答えると由愛が言いたいことを理解したのか声を上げる。
「ですよね。それが馬皇さんたちの場合も同じだとは思いませんか? 現に真央さんの部屋も色々と自重を捨て去った感じでしたし。趣味とかそういうのに力を注いでいると思いませんか?」
「……それもそうね。そうなって来るとどんな魔窟になのか? ってことになって来るわね」
由愛の言葉を理解するとファナも同じように緊張した面持ちで馬皇の部屋の扉を見る。部屋を比べると言った時にも割と不穏なことを言っていたことを思い出す。
「これは覚悟を決めていった方が良さそうだな」
「そうですね」
「ええ」
「なんで俺の部屋に入るだけでそんな盛り上がれるんだよ? ほら行くぞ」
『ああ‼』
ユメリアたちのやり取りに飽きたのか馬皇はそういうとさっさと扉を開けようとするが、開けるまでの寸劇もどきを楽しんでいた由愛たちは馬皇の行動に残念そうな声を上げ馬皇の手が止まる。
「なんだよ?」
悲痛な感じの声に馬皇は怪訝な顔をして由愛たちを見る。
「せっかく、馬皇の部屋を覗くために場を盛り上げていたというのに」
「もう。馬皇さん。空気を読んでくださいよ」
「そうね。お遊びだけどこういうのも醍醐味でしょ。特に異性のお部屋訪問なんて」
「知るかよ。ってか、なんでユメリアたちもそんなにノリノリなんだよ?」
由愛たちの反応に着いて行けないのかさすがの馬皇も困惑する。
「あれよ。お約束って大事でしょ。盛り上がりを左右するから」
「お前はお前で何言ってるんだ?」
「ん~。お約束?」
馬皇の横で真央がなんとなくで答える。この場での味方がいないことに馬皇は肩を落とす。
「そう言う訳でいよいよ馬皇の部屋にはいるぞ。みんな覚悟はいいか?」
「はい。行けます。ユメリアさん」
「行けるわ。ユメリア」
「そうか。なら、行くぞ」
謎のテンションのままユメリアの言葉に反応する由愛とファナにユメリアは満足すると馬皇の部屋の扉を開けた。
更新しました。言い訳じみていますが話を引っ張っている訳ではないです。ただ、出来上がったらこうなってた。.5話はその5か6までする予定です。それと次回こそは馬皇の部屋です。
ちなみに自由に部屋を作れるとしたらあなたはどこに力を注ぎますか? いろんな意見があると思いますが私は寝床に力を注ぎます。質の良い睡眠、居心地は大事なので。
いつも読んで下さりありがとうございます。おかしなところ等あれば指摘、面白ければブクマとか評価とかしてくださりますと作者は大歓喜です。これからもよろしくお願いします




