15.5話 その2
「くっ‼ なんであそこでグーを出したんだ。俺」
「いつもでもぐちぐち言ってないで早く来なさいよ」
「分かってるよ」
盛大なじゃんけんを繰り広げて17回にも及ぶあいこの結果、先に勝利したのは真央であった。じゃんけんに勝利してご機嫌な真央を悔しそうにする馬皇。馬皇も文句は言っているが、真央のい呼ばれると素直に真央の部屋の前に来る。
「ふふふ。私の部屋を見て腰を抜かさない事ね」
「どうだか」
「それだけ素晴らしい部屋の自信があるわ。あ。それと基本は私の後を着いて来なさい。置いてある物ととかは勝手に触らないでよね」
「分かってる」
真央は自身満々にそう言い放つと馬皇もさすがにそれくらいの良識はあるのか真顔でうなずいた。それに続く形で由愛たちもうなずくと真央が言葉を続ける。
「危ないから」
「部屋ですよね‼」
その後の不穏な言葉に由愛はツッコまずにはいられなかった。部屋を見るだけのはずなのにどうしてそんな言葉が出てくるのか分からない。そんな由愛の反応に真央は頭をかしげた。
「何言ってるのよ? 部屋に決まってるじゃない」
「私室だからそこまで危険はないはずなのにそんなことを言ったら混乱するに決まってるぞ」
「ああ。研究室も兼ねてるだけよ。その中には危険な薬物とかもあるから。そういう意味で防犯もしてるから念のために言ってるの。寝室は別にあるわ」
「そうなんですか。……良かった」
何がおかしいのか分からない真央にユメリアが由愛の反応に助け船を出す。ユメリアの言葉に真央は由愛の言いたいことを理解すると説明する。それを聞いて由愛はほっと一息つくと胸をなでおろした。
「もういいのか?」
「あ。はい。真央さん。よろしくお願いします」
「それじゃあ。開けるわよ」
そう言うと真央は部屋を開けた。
「ふふふん。すごいでしょ」
「すごく研究室です」
「研究室ね」
「完全に研究室じゃねぇか」
「広い研究所だな」
そこに広がっていたのを表現するとどこかの研究室というしかなかった。
全体的に薄暗く部屋は雑多としており、出入り口を除いて四方は本棚に囲まれているためか広いはずなのに微妙に手狭に感じられる。本もいわゆる学術書と言われるようなお堅い感じの本が並べられており、所々虫食いのように抜き取られている。それらの本は中央から少し手前にあるソファに山積みにされている様であった。その中央よりやや奥には大きな机と真央にしか用途の分からない機械が置かれており、少なくはあるが植物の植えられたプランターが機械から少し離れた場所に置かれている。その近くには怪しい色の液体の入った瓶や何かに漬け込まれている植物などいかにもな不穏さを醸し出していた。
「もう。反応が悪いわね」
馬皇たちの反応の悪さに痺れを切らした真央が不満そうに言うと馬皇が答える。
「入ってからいきなり陰気くさい所に来たら困惑するだろ。ただでさえ共用スペースはそれなりに明るかったのに」
「それは薬やら魔道具やらを作る時の細かい反応を調べるためにわざと薄暗くしてるの。ちなみにすぐそこにあるソファは私のおすすめよ」
そう言って真央はソファの元まで行くと手で馬皇たちを呼び寄せる。近くまで来るとそのソファに全員を座らせようとする。
「すごい。ずっと触っていた触り心地に加えて、ものすごく柔らかいです」
「……この柔らかさは犯罪クラスだな。立ち上がりたくなくなる」
「分かるわぁ。これは最高ね」
真央に勧められるがままに由愛たちは座るとその全身を包み込んでくれるような柔らかな感触と程よく気持ちよさを高めてくれる弾力、皮のさわり心地が立ち上がる気力を根こそぎ奪い蕩けた様な顔をさせる。そんな様子を見ている出明けの馬皇に真央はたずねた。
「あんたは座らないの?」
「あの中に混ざって座るのは抵抗があるから座らん」
「うん。こういう時のあんたが思いのほか常識的で助かるわ」
真央も馬皇の言葉を聞いてから納得する。蕩けた表情で夢心地な由愛たちを見て真央は苦笑しているとファナが声を上げる。
「あぁ。こんなの反則よぉ」
「ファナ。少しはしたないぞ。ちなみにこれはどこで手に入れたんだ? 出来れば我も欲しい」
「自作よ」
「へぇ。……はい?」
ファナが怪しい声を上げ始めている状況にユメリアがたしなめると思っていたことを口にする。そこから返ってきた答えにユメリアは蕩けていた思考を慌てて引き戻してから思わず聞き返す。
「自作。作ってから魔法でしまってたのを引っ張り出してきたの。素材からこだわったから手入れをしなくても千年は劣化せずに使い続けられるわ」
「ちなみに素材は?」
真央の言葉にさすがにファナもユメリア同様に真剣な表情に戻り聞いていたのか続けてたずねる。
「そうね。まず、骨組みとか、衝撃吸収材のウェービングベルトの素材には世界樹とその皮の繊維を解いてから丁寧に糸にしてからベルト状の布してるわ。それだけでもかなりの耐久と木糸自体の柔らかさがかなりいい出来になってるわ」
「……そもそもあの木は切断できなかった気がするんだけれど? それなら中身は?」
「さすがに羽毛だけだとアレだったから錬金術で羽毛みたいな柔らかさと常温のスライムくらいの弾力と形状記憶を兼ね備えた綿をでっち上げたわ」
「なんて技術の無駄使い。それじゃあ皮は?」
「確か、金色羊の皮だっけ? 馬皇に同じの作る代わりに持ってきてくれたのよ」
「あれは数が少ない上に羊自体が強いからな」
「金色羊ってギリシャ神話の……」
ある物語に出てくるはずのものを真央に続いてあっさりとした様子で答える馬皇。ユメリアはそれが神話の中で王権に関する物である事に気づくが途中で口を閉ざす。それを聞いていたのかファナが緊張した様子でたずねる。
「神話?」
「知らない方が良い」
「そ、そう。なら追求は止めておくわ」
ユメリアの真顔でそう言うとその迫力に押されてファナも追及するのを止める。
「そうしてくれると助かる。ちなみに黄金の毛を持つ羊は他にもいるのか?」
「いるぞ。数は少ないがな。それに滅多に見ることはない」
「そうなのか。はぁ」
衝撃の事実にユメリアは思考を放棄するようにソファの背もたれに体を沈める。その極上の座り心地で忘れようとするがそれらの話から導き出される可能性が頭にちらついて離れない。
「どうしたのよ?」
「いや、それらの話からちょっと現実逃避をだな」
「ふぅん。まぁ、これに値段をつけようと思っても多分つかないわね。手間も含めれば大国2つ分の予算でも怪しいレベルだし」
そんなユメリアに止めを刺すように真央は言った。その言葉に不穏な空気を感じ取っていたファナとずっと緩んでいた雰囲気を出していた由愛の表情が緊張でこわばる。
「……出来ればそれは終わってからにして欲しかったな」
「ど‼ どうしましょう‼ そんなに高いんですか‼」
「由愛。落ち着きなさい」
ユメリアは全く罪悪感なしに躊躇いなく言った真央に少し恨めしい眼で見る。その一方で小刻みに震える由愛をファナがなだめている。
「壊れても別にそこまで気にしていないわよ。そのために自己修復機能を付けたんだし。壊せればの話なんだけどね」
「それでもそこまで行ったら気になるからな。ちなみにそれ以外にもこれレベルの物がごろごろしているのか?」
「いいえ。本を読むのに適した環境は最高じゃなくちゃ」
真央はドヤ顔で答えるとユメリアは何とも言えない表情を作る。そうこうしている内に由愛たちもこのままソファに座るのが怖くなったのか立ち上がるとユメリアが続きを促す。
「そうか。なら他の部分も教えてくれ」
「ええ。次に奥は寝室よ」
そう言って奥に行くとシンプルというよりも味気ない感じの布団が敷かれたベッドに到着する。そこには物はなく衣装棚と思われる棚くらいしかなかった。それにファナが言った。
「研究室に方に地から入り過ぎでしょう。それよりももう少しこっちにも気を使いなさいよ」
「そう? 別にとりあえずで作って見たけど結局使わないのよねぇ」
「とりあえず、もう少し健康に気を使ってください」
「まぁ、善処するわ。とは言っても後は他の部屋と同じよ」
由愛が心配そうにそう言うと真央は適当に答える。そんな様子の真央に疲れた様子で由愛が言った。
「もう少し生活感出しましょうよ。それに紹介できるところ少なすぎですよ」
「そうかしら? 私としては最高の環境なんだけど。自由に本を読んで、気になれば研究。実験。分かればまた本を読むが出来るのよ?」
「同意を求められても困る。確かに研究するには環境としては最高なんだろうが……」
国の施設の研究所を知っているユメリアもさすがにこの生活感のなさには呆れる。マッドな研究者が似た様な事をしているため言いよどんではいるが。
「なら、一通りは部屋を見せたし次は馬皇の番ね」
「さすがにこれには負ける気はしねぇ」
「言うじゃない。見せてもらうわよ」
そうして、今度は馬皇の部屋に向かった。
更新しました。
シリアス書くのは少し休憩。この話書いている間に忘れてしまいそうで怖いですが……。
おはようございます。こんにちは。こんばんは。こんな感じのノリの方が書きやすいと気づいてしまったhaimretです。部屋の紹介のはずがソファの話がほとんどを占めてしまうという(困惑)。閑話だけどもう少し続きます。次回は馬皇の部屋。
いつも読んで下さりありがとうございます。おかしなところ等あれば指摘、面白ければブクマとか評価とかしてくださりますと作者のモチベーションが上がります。これからもよろしくお願いします




