12話
「えっと。どうして真央さんが来るのが分かったのかなって」
「そうなの? やだ。私に惚れちゃったの? もしかして?」
呆けた顔をしていた由愛が最初に質問すると、真央は露骨にニヤニヤしながら馬皇に詰めよった。その仕草に馬皇は少しだけ動揺するといつの間にか後ろに回り込んでいたサライラが馬皇の肩を叩いた。
「お父様。お相手はたくさんいても構いませんがお付き合いする順番が違いましてよ?」
サライラの目からハイライトが消える。馬皇から話を聞いたら馬皇を殺して私も死ぬと言わんばかりの雰囲気を漂わせる。普段は純粋な感じというか戦闘が絡まなければ可愛らしいというかそこまで圧迫するような雰囲気は出さないのだが、こういう時ばかりはサライラの潜在能力が発揮されるのか圧倒的な存在感を放つ。馬皇とからかっていたはずの真央の額から冷や汗が流れる。
「お、おい‼ なんでこいつと付き合っている事前提で話をすんだよ‼ ねぇよ‼ 誤解だ‼ 誤解‼ ただ、空間をつなぐときには直前にかすかに揺れるんだよ‼ 本当に小さいけどな‼ むしろ惚れたとか愛とかそういうのは絶対にねぇ‼ 特にこんなちんちくりん相手に‼ だから、その眼は止めろ‼ 怖いぞ‼」
「誰がちんちくりんよ‼ それにそんな揺れが分かるのはあんたくらいじゃない‼ 砂浜で固めてない小さな砂粒が崩れ落ちるレベルの振動とか理解できる訳ないじゃないの‼ それにそれこそは私に失礼でしょ‼ あんたと付き合ってるだなんて‼ 私だって相手を選ぶ権利はあるわ‼」
「お前の方が失礼だよ‼」
サライラの言葉に馬皇がは少し動揺しながらも強く否定すると真央がそれに同意する。その過程で一言多い真央に馬皇は叫ぶ。そのまま馬皇と真央は取っ組み合いを始める。
「そうですか。それだったら問題ありませんですわね」
取っ組み合いを始めた馬皇と真央の反応を見たサライラは誤解だと理解すると安心した様子で一息つくと目に光が戻る。
「あの。あれはどうしたらいいんです?」
そんな様子を見た由愛は困惑しながらも近くに居るユメリアやファナにたずねると方法はないと頭を横に振った。
「いつものようにじゃれ合ってるだけですからしばらく放っておいても大丈夫ですわ。それでも駄目そうなら介入でいいと思いますわ?」
「あ。ここ疑問形なんですね」
「「誰がじゃれあいだ(よ)‼」」
ケンカしている最中であっても自分たちの事を聞いていたのか馬皇と真央は突起見合いを中断して同時に答える。その後にそのまま子供かと言わんばかりに頬を引っ張り合いが開始された。いつもの様子の2人にサライラはさらに安心したのか言葉を続ける。
「息はぴったりですけど、なぜか安心して見ていられますわ」
「……むしろそのままにしていていいんでしょうか? 別の意味で」
微笑ましいと言った様子でサライラが見て答えるが何ともいえない顔をする由愛。それを見ていたユメリアとファナは呆然としていたところから復帰すると馬皇と真央を引き剥がした。
「あん? ユメリアか? 今いい所だから後にしてくれないか? 何。すぐ終わる」
「言ってくれるわね。私の方こそ引導をくれてやるチャンスなのに」
「なんだと? お前も拘束されてるのにか?」
「そっちこそ何言ってるのよ? この子たちを怪我させない様にわざと引き剥がさずに感触を楽しんでるむっつりのくせに」
売り言葉に買い言葉を地で行きつづける2人にユメリアたちはため息をつくと由愛に視線を送る。
由愛は「私ですか‼」と言わんばかりの視線に戸惑うがこのままケンカを続ける2人をそのままにしておくわけにはいかないと由愛は覚悟決める。大きく息を吸うと力強く叫んだ。
「いい加減にしてくださぁぁぁい‼」
由愛の突然の大声に馬皇と真央は驚きで肩を震わせる。
「馬皇さんも真央さんも小っちゃい子じゃないんですからもう少し周りを見てください‼ いつまでもそれじゃあ話が進みません」
「だ、だけどな。こいつが」
「そうよ。こいつの方が」
「だけども、こいつがも、こいつの方がも、くそもありません。今の2人はカッコ悪いです」
「そうだぞ。ケンカをするのは構わないがもう少し止める方の身にもなってくれ。さすがにしょうもないことでケンカを続けられたらこちらがかなわん」
「そうね。かなり子供っぽいわね」
由愛の言葉が効いているのか少し落ち着いた馬皇と真央にダメージを与えていく。さすがに不問名ケンカを始めた2人に呆れといら立ちがあったのかここぞとばかりに便乗して言いたい放題するユメリアとファナ。反論の余地がないことを自覚しているのか馬皇と真央は言い返さずに黙って受け入れる。
「落ち着きましたか?」
「ああ」
「ええ」
「それでは仲直りするための方法は?」
「「うっ」」
まるで幼稚園児や小学生低学年を相手にするように由愛がそう言うと馬皇と真央はお互いを見ながら微妙に嫌そうな顔をする。
「馬皇さん。そうやっていつまでもこだわってたらサライラさんの教育にも良くありませんよ? それに真央さんも変に意固地になってもケイスケさんを喜ばせるだけですよ?」
由愛の言葉に若干毒が混ざっているが、穏やかな表情で諭すように言った。明らかに同い年ではない扱いではないがどちらも反省しているのか、どちらが先か分からないが言った。
「すまん。どうにも引けなくなってな」
「ごめんなさい。からかいすぎたわ」
「仲直りしてくれて良かったです」
馬皇たちがほぼ同時にそれを言うとユメリアたちも大丈夫だと判断して馬皇たちを離す。それを見た由愛はにっこりと笑顔になる。その傍らでアストリアとスライムはは呟いた。
「腕っぷしの強さが全部を決めてる訳じゃないのね……」
「ピィ」
「今のはダーリンが何言いたいのか分かったわ。人間って本当に複雑怪奇よね」
「ピギィ」
よく分からない理由から始まったケンカをあっさりと止めた由愛に戦慄するアストリア。それにスライムは何度も頷くような動作で同意するといつの間にか体(?)を消してアストリアの膝に乗る。
「ダーリンって緑色ではあるんだけど結構ひんやりしているのね。さわり心地はプ二ッとしているし触り心地は最高だわ」
さすがに会話を続けるのが気まずいのか馬皇と真央は黙ったままで由愛はそれに満足しているのか楽しんでいるのか反応するまで見守っているように見える。ユメリアとファナはどうすればいいのか分からずに困惑していた。
「あ。そうでした。とりあえず今いる場所より安全な場所を教えてください」
「え? ああ。そうね。そう言えば連れて行くって話をするつもりだったわね。これから私たちの隠れ家に招待するわ」
思い出したかのように話題を振る由愛。その言葉に真央も少し調子が戻ってきたのか開いていた空間をさらに広げる。人1人が出入りできるぐらいのサイズだったのが複数人が同時に入れるサイズにすると真央はその空間の前に立つ。
「という訳でこの空間を超えたら目の前に隠れ家があるから先に行って。私は閉じる際に用心のために細工をしておかなくちゃいけないから」
真央はそう説明するが、その扉の前でユメリアたちが動きを止める。
「あの? その先に魔物たちがたくさん集まっているとかないよな?」
「そんなわけある訳ないでしょ。あんなことが起こるのはそこの洞窟の中だけよ」
洞窟内でのデタラメな空間の繋がりを通っていく経験をしたせいか慎重になっているユメリア。それを見た馬皇は苦笑して答える。
「まぁ、一応言っておくが基本的に安全だからな。と、それなら先に行って見せた方が早いか」
「そうね。なら、頼める?」
「了解。先に行って待ってるぞ」
馬皇はそう言って安全を証明するように先に入る。その後、教室を見つけたユメリアと同じように頭だけをこちら側に戻した。
「どうだ? これで一応は行き来できてるから安全だろ?」
そう言ってあっさりと安全を確認すると由愛たちは馬皇の頭が空間の先に消える。それを確認した由愛たちは真央たちの隠れ家に足を踏み入れた。
更新しました。色々書きたいことが思いついてはいろんなキャラのシーンとごちゃ混ぜになって書くのが遅くなってるhaimretです。
仕事の帰りの時間の関係で書き始めが遅くなるので23時ごろを目安に更新になると思いますが、完結まで書き続ける予定なのでよろしくお願いします。
また、読んで下さりありがとうございます。ブクマとか評価とか感想などしてくださいますとさらにテンションが上がり、やる気が上がりますのでよろしくお願いします。と真面目に書いてみたり。




