11話
幻想的な光景を目にしてから、馬皇はこれからの事を短く説明する。説明を聞いたその場にいた全員が納得はしないまでも神妙にうなずくのを確認すると馬皇が鉱石を探す時と一緒の方法であっさりと洞窟の出口とその場を繋げて脱出する。無事に洞窟を抜けた先では案の定というか鉄が待っていた。見失ったはずの由愛たちが無事に出てきたことに安堵の息をつく。それと一緒に馬皇が出てきたときは驚いていたが、由愛たちが無事の理由を理解してから開口一番に無事の確認と礼を言った。
「まさかこの洞窟の中に馬皇もいたとは。山田さんたちを見失った時は慌てたが無事でよかった。ありがとう」
「……鉄先生に礼を言われるのは何と言うか照れるな」
「何を言っている? 俺だって人間だ。失敗もあるし、助かった時は礼もいうぞ。悪さをする奴には鉄拳を与えるがな。全く。人を何だと思っているんだ?」
「いや。人の形をした何かだと」
馬皇がそう言うと鉄は眉間にしわを寄せた。心配事が1つ減ったが、馬皇たちが自分の事をどういう認識なのかを知って微妙な表情しかできなかった。
「はぁ。まぁ、私の認識については置いておこう。良くはないがな。それで、だ。山田さんたちからは事情は聞いているが、当の本人たちには詳しい話を聞いてないからな。聞かせてもらう。馬皇。あの時何があった? 話次第では助けてやれる。それとあそこの人たちと言っていいのか分からんがそこの2名についても教えてくれると助かる」
馬皇に気になっていたことをまとめて質問する。さすがにスライム顔の何かよく分からない生物は無視できなかったのか鉄はスライムを見る。左側には女性がべったりと言った様子で抱き着いているが、スライム顔の誰かについては見た目のインパクトが強すぎた。魔物なのか人なのかすらわからない。それに加えて彼のスライム特有の割と可愛らしい顔であるが、表情は一切変わっていないため全く読めないでいた。
「それについては巻き込まれたとだけ。俺らが撃退した後に障害物の多い森にある建物の中を遠距離から狙撃された。それ以外についてはこれを読んでくれ。一応俺たちがこれから何するかが書いてある。呼んだあとは証拠を残さないために燃やしてくれると助かる。後、アストリアは森にいた竜で今回の出来事で巻き込まれた関係者だ。そこのスライム(?)については彼女の関係者だとだけ。後で本人たちにでも聞いてくれ」
馬皇はそう言って懐から手紙を取り出すと鉄に渡す。さすがにスライムの説明については馬皇も正直な話、聞かれた馬皇も理解してないため説明しろと言われても詳しくは説明できない。ただ、由愛たちに危害を加える様子はなく敵意もないため、まぁいいかと何も考えずにそのまま受け入れたというのが実情であった。
そんな馬皇の様子からスライムとアストリアの事を察した鉄は何も言わずに手紙を受け取ると直ぐに中身を確認する。手紙は2枚入っており馬皇の渡した手紙を手早く読み終えると手紙は風化するように一瞬で崩れ落ちた。手紙は亡くなったが少し思い出すように手紙の内容を思い浮かべると手紙を読んでいる時と変わらずにあっさりと鮮明に記憶を思い出せた。
「便利だな」
「真央の奴が一度読んだら、しばらくは忘れない様に記憶に焼き付ける魔法だそうです。それで、自白剤や精神系の魔法や異能を受けると記憶からも消えるって優れものだそうです。便利なんで真央の手紙と一緒に持ってきたんだ、です」
鉄に馬皇が説明する。最後の方の言葉遣いが不安定になっているが、それで文句を言われる程ではないため鉄はスルーする。
「とりあえず便利だなという事と聞きたいことは分かった。……だが、これを本当に実行するつもりなのか? 下手すれば多くの人間が死ぬぞ。それに俺がそんなことを許すと思うか?」
真剣な表情で鉄がそう言うと馬皇も答える。
「やらなきゃいけないことだからとだけ。由愛たちは皆月にばれているので安全のために連れて行きます」
「それは自由にしていい。悪いようにはしないだろうからな。だが、それは最後まで立っていたらだ。さすがにこの内容の事をやらせるわけにはいかないからな?」
「でしょうね。でも、これは俺たちが決めた事だ。悪いようにはしないが、計画をやめるつもりはない」
鉄は常人には耐えられない様な圧力を放つ。その重圧に馬皇を除いて全員が膝をついた。馬皇は鉄の目を見てから言い返すと、その反応に眉間にしわを寄せてから鉄は馬皇に拳を向ける。迫りくる拳は馬皇の頬をかすめてその拳圧だけで馬皇の後ろにある壁のようなクレーターに新たな穴を作り出す。
「そうか。そこまで覚悟は決めているか。ならば、何も言うまい。それと情報感謝する」
鉄はそれだけ言うと背を向けて歩きはじめる。馬皇は黙ってそれを見送った。鉄が居なくなると嘘のように重圧が消えて馬皇の周りの巻き込まれた者たちは安堵の息を吐いた。
「……プレッシャーだけなのに死んだかと思いました。それにしてもあれでよかったんですか?」
鉄のプレッシャーに足腰が立たなくなったのか由愛はへたり込んだまま馬皇にたずねた。明らかに敵対したといった様子に由愛は涙目になっている。
「良いも悪いもない。最初から無理だと思ってたからな」
「素直じゃないわね。本当はこちら側に引き入れたかったのでしょう。そのためにこんな回りくどいことをして」
馬皇の言葉にファナは呆れたように言った。馬皇たちがしようとしている事に戦力は多ければ多いほどいいのはファナでも分かっている。だが、そのことに言い出しっぺであるはずの馬皇は反論する。
「事情は洞窟の中で説明してただろ。今回するのは世界の破壊だってな。そうなると基本的に人を救う側の組織に入っている鉄先生が敵対しない訳がない」
「覚えているわ。私が言いたいのは、なんで鉄先生に伝えなかったのよってことよ」
事前に簡単な説明を受けていたファナ達は鉄に中途半端に情報を伝えていたことを疑問に思っていた。馬皇が渡した手紙に書かれている事は真実ではあるが、肝心の部分が抜けている。
「ああ。そんなことしなくてもこの世界はもう持たない事か? それともこの世界の再構築の方法についてか?」
「それよ。それに肝心の再構成? の方法については教えてもらえなかったし」
ファナは不機嫌そうに頬を膨らませる。簡単には説明を受けたが、肝心の世界の再構築する方法については全く知らされていないのである。重要な部分だけ秘密にされ、はい。分かりました。信じます。とうなずけるはずがなかった。
「それについては言っただろ? 方法なんて知らない方がいい」
「ああああ‼ もう‼ 仲間ならそう言う事も共有していた方が良いっていってるの‼」
「まぁまぁ。落ち着いてくださいな。お父様や真央にも考えがあるから内緒にしているんだと思いますわよ。それに親しい相手だからって何でも教えてくれるものではございませんわよ」
その質問には一切答える気がないのか馬皇がそう言うとファナはイライラした様子で声を上げるとサライラがなだめるという珍しい図になる。
「分かってるわよ‼ だからこそ、私もあなた達と同じようにここに残ってるんだから‼ もし、あなた達が間違った事をしているのであれば命を賭して止めてあげるんだから‼」
ファナは馬皇にそう宣言する。馬皇はその宣言に笑みを浮かべる言った。
「そうか。それだったら気を付けないとな。それとそろそろ来るぞ」
「「「「(ふ)えっ?」」」」
「おまたせって? 声を揃えてどうしたの?」
馬皇がそう言うと同時に由愛たちは頭をかしげる。馬皇の視線の先には何もないし誰もいない。訳が分からずに声が揃うと少ししてからと空間が割れて虚空の裂け目から真央が顔を出した。
遅くなりましたが更新しました。矛盾していないか不安になる時もありますが今回は馬皇たちのこれからの行動の真の目的と真央との合流。次回は移動してネタを挟んでから逃がした殴り込みに行く予定
いつも読んで下さりありがとうございます。ブクマとか評価したりしてくださいますとイスの上でくるくると回るくらいテンションが上がりますのでよろしくお願いします




