9話
修正しました。
馬皇の拳によって皆月は宙に浮く。縦に一回転してから普通ならありえない勢いで跳ばされた皆月は途中が空間の境界だったのかそこで消える。
「ちっくしょう‼ 固ってぇな‼ おい‼」
未だ空間が安定していないためこのまま後を追っても同じ場所に着くか分からないため様子を見る馬皇。その間に殴った方の手の痛みを誤魔化すように手を振った。怪我こそはしていないが馬皇の手は赤くなっている。しばらくして痛みが引いたのか皆月の消えた場所へ馬皇は近づいた。
「逃げられたか……」
皆月が消えた場所を確認するように手を伸ばすが、空間はつながっており手が消えるように見えると言った事はなかった。その先にも荒野は広がっており、皆月がどこに行ったかすら、見当もつかず苦虫を噛み潰した様な顔になる。
「馬皇さん‼」
「ん? ああ。由愛か」
由愛は馬皇の名前を呼びながら駆け寄るとそれに気が付いた馬皇は振り返ると安否を確認する。皆月に何もされていないことを確認すると一先ず無事であることに一息ついた。そんな馬皇を見て事情が分からない由愛はたずねた。
「由愛か、じゃないですよ。心配してたんですよ。それとどうしてここに?」
「それは悪かったな。簡単に事情を説明するとある程度は一緒に行動してたが、それじゃ効率が悪いってことで真央と別れてからアストリアとWCAの拠点をしらみつぶしに攻めて行ってたら、皆月を見つけたから後を追っていたんだ。その後、逃げられたがどうにも嫌な予感がしてな。真央に無理言って探してもらったら由愛たちのいるここに反応を示してな。急いで来たんだが、おいしい所だけかっさらっていかれた」
「多分あのままだったらユメリアさんがどうなってたか分からなかったと思うので来てくれてありがとうございました」
「そうか。それなら来たかいがあったもんだ。それに無事でよかった」
由愛の言葉に馬皇は安堵の息をつくと由愛の頭を慰めるように撫でる。自然な動作で行われた馬皇の行動で生まれた感触に由愛は驚くが身を案じてくれた相手の優しい手つきに気持ちよさそうに目を細める。
「お父様ぁぁぁ‼」
「にゃぁぁぁ‼」
「うおっ‼」
唐突なサライラの声に由愛は現実に引き戻される。由愛の声に馬皇も驚いて手を放す。バランスを崩した馬皇の背中にサライラに背中に突撃した。
「会いたかったですわぁ。3日ぶりですわぁ」
倒れ込んだ馬皇の上にサライラは興奮した様子で猫のように頭を擦り付ける。その様子に馬皇は呆れるが撫でる手の動きは止めなかった。
「……てて。興奮しすぎだ。サライラ。2日3日合わなかっただけだろうが」
「その少しが問題ですのよ‼ お父様‼ それよりもさっきの由愛みたいに私も撫でてください」
「お、おう」
「ふわぁぁぁ。これですわぁ。これなんですわぁ」
鬼気迫ると言った表情でぐいぐいと顔を近づけて有無も言わせないサライラの言う通りに困惑しながらも馬皇は撫でる。それが気持ちいいのかサライラは馬皇の胸元に顔をうずめる。
その一方でサライラの突撃によって、唐突に生まれた疎外感に由愛はどうすればいいのか分からずに行き場を失う。
「ふむ。お楽しみまで行けなくて残念だったな」
「あうぅ。わ、私もあんな感じだったんでしょうか……」
落ち着かない様子の由愛にユメリアはニヤニヤして由愛に話しかける。サライラによって正気に戻された由愛は目の前の光景を見て、似た状況であった事とそれを見られていた事を思い返すと顔を真っ赤にする。
「そうだな。こう。蕩けた感じだったぞ。あそこまでとは言わないが……」
「そ、そうですよね‼ 何も問題ないですよね‼ 私も行ってきます」
「ど、どうした。由愛」
ユメリアはサライラの方を見て言う。サライラはというと何と言うか扇情的な声で「あぁ」とか「最高ですわぁ」とか呟いていた。その姿を見た由愛は支離滅裂に何かを納得すると声を荒げてユメリアに答える。それにユメリアが困惑している内に馬皇とサライラの所へサライラが突撃した時よりも控えめな感じで馬皇の元へ近づいて行く。
そして、馬皇とサライラに話しかけるとサライラを説得して馬皇を起き上がらせる。その後に熱心な感じと混乱した感じが合わさった表情で由愛は馬皇に説得すると2人同時に馬皇は由愛とサライラを撫で始める。
「熱々なのはいいけど収拾がつかないからそろそろ話がしたいわ」
何と言うか収拾がつかなくなり始めた頃にアストリアとサライラ達が見せた過剰な様子を見てずっと思考停止していたファナが復活すると馬皇に話しかける。
その声に由愛は冷静になると自分のしたことを思い出してリンゴみたいにさっきよりもさらに顔を赤くさせる。サライラは中断されて少し機嫌が悪かったが。
「助かる。俺もこの状況をどうすればいいのか分からんかったからな」
「でしょうね。由愛とサライラにあそこまで詰め寄られたら拒否しづらいわよね」
「すいません。少し暴走してました」
「気にしなくてもいいわよ。たまにからかわせて貰うけど」
「はうわっ‼」
ファナがニヤニヤしながらそう答えると由愛は変な叫び声を上げる。その反応が面白くてファナは楽しそうに笑う。
「いい反応をありがとう。それじゃあ、本題に入るけど馬皇はどうしてここに? 由愛たちと別れて1日しか経ってないはずでしょ」
ひとしきり楽しんだ後にファナは馬皇の方に向かって言った。その言葉に馬皇は申し訳なそうに返した。
「5日だ」
「「「へ?」」」
「ああ。そういう事ですの」
「サライラは分かったみたいだな。この空間の時間の流れがおかしいのは知ってるだろ。中ではそんなに時間が経ってないみたいだが、外では由愛たちがこの洞窟の中に入って来て5日経ってる」
由愛たちは馬皇の言っている事が理解できなかった。否。出来るはずがなかった。数時間だと思っていたら数日たっていたのだ。体感して見なければ理解できるはずがない。
「そ、それなら鉄先生は?」
同じように一緒に来た鉄の事を由愛がたずねる。その質問に馬皇は答える。
「鉄先生も同じようにさ迷ってるが、恐らく何も問題ないだろうな。ここら一帯がゴチャゴチャしているが鉄先生の強い気配は無事だからな。むしろ、そんな無双状態見せられたら魔物たちが逃げ出すだろ」
「そうですか。魔物の群れを食い止めているって聞いてたので。あれはウソの情報だったんですね」
そのことを聞いて安心したのかほっと息をつく由愛。話に一区切りついてふと思ったのかユメリアは地上の事をたずねた。
「そうか。と、ところで学校は我たちの事は?」
「俺が知る訳ないだろう。ただでさえ指名手配されてるからな」
「指名手配されてるのか?」
「ああ。1億だと。WCAが資金提供しているみたいでな。全国のハンターズギルドに出回ってるらしい」
「いっ‼ 」
馬皇は何でもない風に言っているが聞いたユメリアは言葉が詰まる。現実問題として指名手配犯としては破格の額といっても問題ないであろう額であった。それなのに何事もなく平静としている馬皇にユメリアは困惑していた。そんなユメリアに変わってファナが質問を続ける。
「一応、この世界のお金の価値は理解しているけど高いわね。それにしてもどうしてそんなに落ち着いているのよ」
「そんなもん。とっくにそうなるのが分かってたからな。今更そんなのでビビる訳ないだろ」
「それもそうね」
「いやいやいや‼ そんな問題ではないだろう‼ 仮にお前が問題なくても、それに関係する者たちが狙われることをも考えろ‼」
「それについては問題ない。そのために今は真央ががんばってるからな」
「……真央は何をしているんだ?」
馬皇の言葉にユメリアは恐る恐ると言った様子でたずねる。それに馬皇は1拍溜めてから答える。
「世界に認識阻害かけてんだよ。それで俺と真央と親しい間柄の一部以外は俺と真央が絡んでいる情報を聞くときに思考を誘導して別の話題に切り替えてからすぐに記憶の隅に追いやる様にしてる」
「……」
馬皇の言葉に聞いていたユメリアは思考が停止して空いた口がふさがらなくなる。
「また、えらいことしてるわね」
「さすがお父様たちですわ」
「魔法とかの事は分からないですけど皆さんの反応からすごい事をしてるってことだけは分かります」
また、ユメリアと馬皇の話を聞いていた周りも各々が反応する。一通り全員が言葉を発するとユメリアの意識が戻って来る。
「すごいなんてものじゃないぞ‼ どうやったんだ‼ いや‼ どれだけの事をすればそんなことが出来るんだ‼ 陣の構築の工程は‼ 必要な魔力の量は‼ 必要魔力の精度の範囲は‼ 効果の時間は‼ どの程度の効果なんだ‼」
意識が戻って来ると同時に馬皇に詰め寄って捲し立てるように順序も何もなしで思いついたことを質問攻めする。
「ああ‼ もう‼ そんなに言われても答えられる訳ねぇだろ‼ 俺は魔力の供給の手伝いとそれに必要な物を用意しただけだからな‼ それに今はそれどころじゃねえだろ‼」
「むぅ。確かに」
「時間がある時にでも真央にでも聞くんだな。多分答えてくれるんじゃねぇか?」
「そうだな。時間が出来た時にでも真央に聞くとしよう」
そんなユメリアが面倒くさくなったのか馬皇は真央に押し付けるように答える。その答えにユメリアは残念そうにするが馬皇の提案ですぐに復活する。
「それで? 俺は何を話してたっけ?」
ユメリアの捲し立てるような話に自分の話していた場所を忘れて馬皇が聞いた。そんな馬皇にファナが呆れた様子で言った。
「もう。なんで忘れるのよ。確か、私たちの元に来た理由ね。それとこれまであなたと真央で何をしていたかは聞いたわ」
「そうか。ありがとうな。それで、だ。大体の経緯は話したからこれからについてだな。本当は認識を阻害しながら2週間で安全な場所と移動手段を作って相手の本拠地を攻める予定だったんだが、その本拠地の守りを強化するために自由に動ける皆月が俺たちに対する対策を立てて来てな。恐らくの部品にさっき由愛から持って行ったのを使うつもりなんだろうな」
「相手の守りが強くなるならどうしようもないんじゃ……」
由愛は自分のせいで起こってしまった事に悲しそうな顔をする。攻め込むはずだったのが逆に相手の守りを強化させた形になってしまっては本末転倒である。そのことを理解できるが故に後悔の感情が先行するのは無理なかった。
「そこは気にするな。1個は奪われたがもう奴はこない」
「分かるんですか?」
「まぁな。どうしてかは教えられんがな」
「そうですか。という事は他のを取りに行けばいい訳ですね」
「そういうことだ。とはいっても今度は俺も行くがな」
馬皇は力強く言った。
更新しました。書くごとに過去話見て矛盾がないか確認してたらどんどん時間が遅くなっていってますが、勘弁してください。続きが気になるっていう様な形で駆けていたらいいなぁ。
それといつもながらの読んで下さりありがとうございます。ブクマとか評価とか感想などしてくださいますとテンションが上がり、狂喜乱舞してますのでよろしくお願いします。




