3話
更新しました
「ファナさん。ユメリアさん。あの先です」
由愛に導かれるまま傾斜を下り、右へ左へ傾斜をまた登り、立ち止まってからまた進むを繰り返した先には大きな穴があった。あまりにも突然かつ不自然なこの空間にファナは言った。
「なんでこんなところに洞窟があるのよ‼ 上からは何もなかったのに‼」
「そうだな。我達が降りてきたときにはなかったのにな。本当に辺りにある鉱物はどんな特性を持っているのか調べてみたいな」
ファナの言葉にユメリアは同意すると好奇心が抑えきれないのか目を輝かせる。
「それはさすがに戻ってから存分にしてちょうだい。それよりも本当にこの先でいいの?」
ユメリアは足元にも転がっている鉱石の一部を拾い上げて覗き込む。隣で聞いていたファナはユメリアの言葉に疲れた様な声でそう言うと最初に指さした由愛にたずねる。
「はい。真央さんが言うにはあの先に連絡手段を用意しているとのことです」
「真っ暗だな」
先の見えない洞窟の中をユメリアは精一杯目を凝らして覗き込むがその先は全く見えない。同じようにファナも覗き込むとユメリアに聞いた。
「奥に魔物がいる可能性は?」
「うむ。分からんが近くにはいないみたいだな。人の通った形跡はあるが、魔物が通ったような跡はない」
ひとしきり覗き込んだ後は洞窟の入り口前に足跡らしき痕跡を見つけてユメリアが口を出す。ファナも同じように辺りを見回すが人の足跡以外にはそれらしき形跡はなかった。ファナは由愛にたずねる。
「由愛。本当にこの先でいいのね?」
「はい。この先に行けば分かるそうです」
「そう。鉄先生たちは先に入ってるの?」
「分かりません。真央さんたちも分かっていないそうですが、「大丈夫だろう」だそうです。ただ、このままそこにいるのは危ないから安全な場所に案内するそうです」
由愛の答えを聞いたファナは少しだけ考えるとうなずいた。
「分かったわ。ユメリアもいいわね」
「ああ」
「ありがとうございます。こっちです」
由愛はファナ達に礼を言うと迷うような動作もなく暗い洞窟へと足を踏み入れていく。
「このままだと暗すぎて見えんだろう。少しきついが……」
先の見えない道に対してユメリアは袖から松明用の木と液体を取り出す。一緒に取りだした液体を木の先端につけて液体の方をしまう。ユメリアは指先に小さな火をつけて木に火をともす。
「ふむ。これぐらいであれば出来るな」
「ここで魔法つかうのは止めなさいよ。もしもの時に動けなくなるわよ」
「分かっている。これくらいだったら問題ないと判断したから松明を用意したんだ。どうせ、狭い通路なんかで強い魔術は使えんしな。必要だろ?」
「ありがとうございます。明るくて分かりやすいです」
「そうだろう。そうだろう。我も役に立ててうれしいぞ。それとファナも心配してくれてありがとう」
ユメリアは笑みを浮かべてそう言うと由愛は素直に礼を言う。そんな様子の2人を怒れないのかファナはため息をつくと呆れた様子で言った。
「はぁ。大丈夫ならいいわ。由愛。案内をお願い」
「分かりました」
ファナの言葉に力強くうなずくと由愛は先に進む。幾重にも分岐をしている洞窟を迷うことなく進んでいく由愛にユメリアとファナはそこはかとなく不安を感じながら歩いて行く。
「ユメリア‼」
「ああ。由愛後ろに‼」
「はい。ユメリアさん‼」
そんな考えを持ち始めたころに由愛たちの先の方から足音聞こえファナとユメリアは即座に反応した。ファナが先頭に立って剣を抜くと松明を持ったユメリアは由愛を連れて後ろに下がる。暗くて先が見えないがそれでも誰かがいるのか足音が近づいて来ているのが分かる。
「誰‼」
警戒したファナが声を張り上げる。足音はゆっくりとこちらに近づいてくるを感じて警戒を強める。松明の灯りの範囲に入ってきたのは見知った顔であった。
「ファナ? 由愛‼ ユメリア‼ ようやく見つけましたわ‼」
「サライラさん? どうしてここに?」
サライラであった。サライラは3人を見つけるととてもうれしそうに声を出してまずは由愛に跳びつく。
「ちょっ‼ サライラさん‼ 苦しいです‼」
「……少し興奮してましたわ。ごめんなさい」
完全に不意を突かれた形で抱き着かれた由愛はとりあえず落ち着くように促す。サライラは苦しそうにしている由愛に気が付くと素直に謝る。とりあえず、サライラが落ち着いたのを見たファナが最初にたずねた。
「とりあえず、合流できてうれしいわ。それで? どうしてここに? 先に行ってたわよね?」
「ええ。お父様と真央の匂いを頼りに魔物を蹴散らしながら進んでいたら後ろの方から由愛たちの気配を感じたので戻ってきたのですわ」
「魔物?」
「ええ。結構いましたわ。殲滅しましたけど」
「その割には血の臭いとかはないが……」
「何言ってますの? この空間は全体的にいろんなところに繋がってる状態でちぐはぐな状態ですわ」
「ちぐはぐ……」
サライラの言葉に理解が追い付かないのかファナはその部分だけを取り出す。
「ええ。あの鉱石が魔法を吸収して記録するという性質を持っているのですわ。それでどこかの誰かは存じませんが設置型の転移の魔法なり魔術なりを使った結果、それが至ると懲りにある鉱石が記録。いろんな空間のとこの場所が繋がって一種のダンジョンに近い状態になってますわ。ただ、どこに繋がっているのか分からない事と周期的にその場所がどういう条件かは分かりませんがに変わっているみたいで」
「なるほど……。そんなことよく分かったわね」
「1週間ほど調べた結果ですわ。これでも真央やお義母様にも魔法の解析などをたしなんでますから」
サライラがしたり顔で答える。その答えに疑問が出てくる。
「1週間? 我たちが入ってきたのは1時間もしていないぞ?」
「そうなのですか? うむむ。という事は時間の流れも結構違ってる様子ですわね。そう考えると貴方たちは運が良かったのですね。私が通った所は溶岩の中とか肉食の小さな魔物の大群が川みたいな感じで共食いしている所とか割と危険な所もありましたわ」
ユメリアがそう答えるとサライラは考察を口にする。その答えを聞いたファナとユメリアは背筋を凍らせた。
仮にサライラのいうことが正しいとすると下手をすれば魔物たちの群れの中に放り出されていたかもしれない。もしくは人間の住めないような猛毒の沼や溶岩といった普通の生物が生息しにくい環境に出るかもしれないし、その毒やガスがこちらに流れ込んできているかもしれない。その可能性もあったという事の恐ろしさを簡単に想像出来てしまいユメリアとファナは座り込む。
同時に何事もなかったことに安堵した。
「……由愛はその話を聞いて何ともないのか?」
安堵したユメリアは未だに座り込んでないどころか自然体の由愛を見て、あまりにも異常な光景に思わずたずねた。
「確かに、危ないですけど真央さんたちがそんな場所には連れて行かないと思うので」
「信頼してるのね」
「本当にな」
「そうね。私も無理だわ」
由愛は完全に信じ切っている様子であった。王族であったファナとユメリアには考えられない答えである。感心するような呆れているような感じの声でファナとユメリアがそう答えると由愛はきょとんとした顔で頭をかしげる。
「そういえば真央たちと言っていましたが、という事はお父様も?」
由愛の言葉にサライラが反応する。馬皇の部分を強調している辺りに馬皇に対する勘はいいのか由愛がうなずいた。
「はい。この念話はかなり特殊な方法でしてるみたいで馬皇さんと真央さんが協力して特定の場所に入ってくれば繋がる様にしていたそうです。ただ、今は回線そのものが近くにはない上でそこまで電波が強くないそうなので短い言葉しか送れないそうです。それに「ドジし、そう、だから?」って酷いです‼」
会話らしきものが成立してるのか言われたことをそのまま伝えると由愛は途中で怒り始める。
「よく分かるわね」
「最後はドジしそうだからってはっきり言われたので。基本的には「念話、特殊、特定、繋がる」みたいに単語単位で区切られてますけど、言いたいことは分かりますよ?」
「すごいわね」
話を聞く限り短い単語しか届いてないはずなのに会話が成立しているようなそぶりを見せる由愛に再度感心するファナ。ファナの言葉が嬉しかったのか由愛はえっへんと胸を張る。
「私やユメリアでは無理でしたの?」
「聞いてみます。サライラさんたちでは? はい。分かりました。無理だそうです。サライラさんやユメリアさんは抗魔力が強すぎてレジスト? されるそうです。それで時間がなかったらしいです」
「そうか」
「少し妬けますわ」
その回答に納得したのかユメリアは少し残念そうにする。同時に馬皇の声が聞こえないことに少しだけ感情を吐露するサライラ。
「それとなんでこんな回りくどいことしているかについてですが、それは到着したら教えられるそうです」
「それなら案内してくださる?」
「はい。こっちだそうです」
由愛はそう言って先頭に立って歩き始めた。
という訳で由愛の聞こえる声についてとクレータ内が変なことになっている理由についての解説です。自分が思っているよりも長くなっていますが、次回は馬皇と真央を出せるはず。どうしてその場所でつながるかは次回。
それといつも読んで下さりありがとうございます。ブクマとか評価とか感想などしてくださいますとテンションが上がり作者が狂喜乱舞しますのでよろしくお願いします。




