21話
「っ‼ 動けない‼」
宗次朗は覚醒すると同時に馬皇の声を聞いて距離を取ろうとするが、椅子に縛られ動くことが出来ずにイスと一緒にひっくり返る。武装も解除されほぼ裸の状態で室内とはいえ地面に叩きつけられた痛みで声が出なくなる。
「縛ってんだから暴れるなよ。痛い目見るぞ」
「それは先に言って欲しかったですよ」
しばらくして大人しくなった宗次朗を見て馬皇が倒れた宗次朗を起き上がらせると馬王は言った。その言葉に皮肉気に宗次朗は言うと少しだけ落ち着いたのか今の自分の状況を改めて調べて理解する。馬皇が最初にいた場所に戻して離れると宗次朗は改めてどうにか出来ないかと抵抗してみるが、逃げ出せない様に体はしっかりとビニール紐で結ばれているために何もできない。
「……そうか。俺は負けたのか」
「まぁな。悪あがきをしているところすまないが、質問が終わるまではその状態のままという事は理解してくれ」
「それで? 俺1人だけ残して何が聞きたいんだ?」
辺りを見渡して仲間のいない事を確認した宗次朗は馬皇にたずねる。思っているよりも聞き分けの良い宗次朗に拍子抜けした表情で馬皇は言った。
「理解が早いな」
「無駄なことはしないからね。逆にこの状態でどう戦えと?」
宗次朗が色々と確認しながら抜け出す方法がないか探って、それでも逃げ出せない事を確認した宗次朗は馬皇に対して苦笑する。
「それはそうだな。さっそく聞きたいんだがいいか?」
「いいでしょう。勝ったのあなた達ですし、私に答えられる範囲であれば」
「随分あっさりと答えてくれるんだな」
「どうせ私が隠し事をしても無駄なことは分かってるんでね。知ってますよ。あなた達が相手のウソかホントかを見分けることが出来る事を」
「そうか。なら話は早い。お前らの組織のWCAだっけか? その組織の目的を教えてくれ」
「……これはまた直球だね」
馬皇の質問に宗次朗は困ったような表情を見せる。
「知りたいことはさっさと知っておくことに限るからな。重要な所で邪魔されるのは腹が立つんだ」
「いいでしょう。我々の目的は簡単。近いうちにある、この世界の終わりに対して抵抗する戦力の確保もしくは、脱出して世界を旅するための箱舟の作成と向かった先の世界を征服できる戦力の確保です」
「終わり?」
「それって侵略じゃないの‼」
馬皇と真央はそれぞれが別の反をする。馬皇は文字通りこの世界の崩壊について。真央は世界間を移動した先の世界を乗っ取るといった発言に。
「そうですよ。我々はこの世界が来年の3月11日に世界が終わることを知っています」
「原因は?」
「さぁ。それについては皆月社長しか知らないです、ね‼」
「それは嘘ね。あなたはそれを知ってるわ」
「本当にやり辛いですね……」
宗次朗は適当に嘘をつくと真央の魔法が宗次朗の顔の横を通り過ぎる。頬を掠っただけであるが宗次朗は冷や汗を流す。こうもはっきりと嘘か本当かを見分けられるとやり辛い事この上なかった。
「いいから答えろ。俺もあんまり気が長い方じゃないんだ」
「‼」
宗次朗が小さくつぶやくと今度は馬皇から押しつぶすような圧力に襲われる。その圧力に意識を失いそうになるがそれは許さないとばかりにギリギリ底冷えするような寒気が襲い掛かり宗次朗は体を震わせる。
「ほら。早く言った方が良いわよ? 彼何するか分からないし」
馬皇の無言の圧力も利用して真央は問いかける。
「そ、そんなことを言っても、お、俺を失ったら、情報源を失うことになるぞ。それにハンターズギルドの指名手配に乗せるぞ」
尋常でない恐怖を与えられてうろたえる宗次朗は命の危機を感じて咄嗟に自分の権力を振りかざす。
「そう。すぐに答えてくれたらここで同じように眠った奴らと同じように適当な場所に飛ばすだけ済んだのにね」
「ひっ‼」
真央が宗次朗の頭に手を乗せると得体のしれない恐怖に襲われ悲鳴を上げる。
「へぇ。そう言う事。預言書ね。人類が一度滅びる前の預言書とか当てになるのかしら?と、それは続きを見ればわかる事ね」
「ああ‼ んな‼」
宗次朗の記憶を読み取って口に出していく真央。化物に相対して食われるシーンを何度も幻視させられてから、真央は宗次朗が隠していたことを言い当てる。それが間違っていないのを示すかのように動揺する宗次朗。その隙を突いて真央はどんどんと宗次朗の記憶をさかのぼっていく。
「……これまでの天変地異や事象の的中率は99.8%。この間の世界間が繋がったことまで書いてあるのね。って‼ そんなところまで書いてあるなんていったいどんな化物よ‼ それでタイトルは『未来観測誌』? 相当古い物なのに何と言うか現代的ね。前書きには、と『――――――――未来の俺にこれを残す? 著:ダリウス・イズバルド』ふーん。って‼ なんであんたの名前が出てんのよ‼」
宗次朗の記憶から預言書の存在を見つけ出し調べて行った先にあったのは馬皇の前世の名前であった。
「おお。よく覚えてたな」
「驚くのはそっちじゃないでしょ‼ 何であんたの名前がそこにあるか聞いてんのよ‼」
完全に想定外の人物の名前にうろたえる真央。自分の前世のはずなのに完全に他人事な馬皇であった。真央が馬皇の前世の名前を言ってからツッコミを入れる。馬皇は真央が馬皇の前世の名前を覚えていた事に驚くと話を聞いていたメンバーも一斉に馬皇に視線が向く。
「あ」
「サライラ。何かあるの?」
馬皇に視線が向いた後にサライラが何かを思い出したかのように短く声を上げた。
「そうですわ。条件はありますけどお父様には未来予知。というよりは未来の事象を演算して予測する術は確かにありましたわ。私が見たのは本当に小さい時の一度だけですが……」
「そうなのか?」
「どうしてあんたは知らないのよ‼」
さらっと出てきた新情報に馬皇自身が驚いた事に真央がツッコミを入れる。
「ほめんなよ」
「褒めてないわよ‼」
「お父様……」
真央の指摘におどけて見せる馬皇であるが、完全に思い出していない事を知ったサライラは少しだけ心配そうな声を出す。そんな様子のサライラに馬皇は軽く手を乗せる。
「気にすんなとは言わねぇ。現に覚えてねぇし、未だに思い出せねぇ。それに前世の記憶なんて下手すれば数千年、数万年単位のものだから、確かに思い出せない事もあるだろうよ」
その言葉に自分の知っている人物は別の人物であるという事を本能が拒否しているのかサライラは体を震わせて短く声が出た。
「でも……」
その先の言葉が出ない。記憶が完全でないという事はもちろんサライラも分かっている。もちろん今の馬皇を愛しているし、結婚や恋人の関係になるには魔王の娘という立場では不可能なのも理解していたためそれが実現できるという喜びもある。
しかし、それでも自分の思い出にある父、ダリウスと馬皇が同じ記憶を持っている別人であることを今の発言から思い知らされると馬皇が愛してくれていないかもしれないと不安にもなるのは当然であった。
「そんなの当たり前の事だろ。覚えたら忘れるものもある。記憶なんてそんなもんだ。でもな、サライラの記憶は直ぐに思い出せたという事はそれだけ大事だったという事だろ? そこに嘘はねぇ。それだけは俺でも分かる。だからこそ俺もお前を大事にしたい。それは俺の意思でありわがままだが、それは嫌か?」
「……お父様はズルいですわ」
「そうか」
少しむくれているが、もういつものサライラに戻っていた。サライラはそのまま馬皇の背中におぶさる。
「それでもそんなお父様が大好きですわ」
馬皇の耳元でそうささやくとサライラは照れたのかすぐに顔を馬皇の背中に埋め込む。馬皇はサライラが背中越しに息をしているを感じる。
「おう。ありがとな」
その言葉にサライラは馬皇にしがみ付く力が少しだけ強くなる。そこには痛みはなく完全に身を任せているサライラの重みを馬皇は噛みしめる。
「そうじゃなくて‼ その予言書について説明しないさいよ‼」
いつの間にか2人の空間を作り出して勝手に話を終了させた馬皇とサライラに真央の我慢の限界がこえていた。真央がそう言うと馬皇とサライラは忘れていたのかしまったという顔をする。
「馬皇さん……」
「馬皇」
さすがにずっと話を聞いていた由愛とユメリアも呆れた様子で馬皇を見る。
「記憶なんていつかは忘れるものだろ? それに今の話を聞いて思い出さないという事は大した情報じゃないって」
「そんなの聞いてみなくちゃわかる訳ないじゃない」
「それもそうなんだが、本当に聞くのか?」
馬皇は何か念を押すようにたずねる。その様子に真央も呆れた様子で溜息をついた。
「はぁ。記憶は記憶。あんたが自分で言ってるじゃない」
「何と言うかな。どうにも俺の知らない俺の記憶語られるのって気恥ずかしくならないか?」
「知らないわよ。何でそんな所でヘタれるのよ。サライラ。馬皇に遠慮とかしなくていいから教えて頂戴」
真央は時間を無駄にしたとばかりにサライラにたずねるとサライラはあっさりと馬皇を裏切る。
「分かりましたわ。私も言われるまで忘れてたのであれですが……」
「ちょっ‼ サライラ裏切るのか‼」
「お父様に仕返しですわ」
サライラはにこやかに答える。そんな表情に馬皇は何とも言えない顔をして肩を落とすとサライラは思い出した事を話はじめた。
更新しました。次回は唐突に語られる馬皇の過去の一部。馬皇が渋る理由とは。回想なので少し短い予定ですが楽しんでもらえればと思います。
いつも読んで下さりありがとうございます。読んで下さったり、ブクマとか評価したりしてくださいますとテンションが上がりますのでこれからもよろしくお願いします。
ブクマ。増える。喜びがあふれる。調子に乗って椅子でグルグル回る。小指打つ。イタイ




