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転生した元魔王様の非日常的な学生生活  作者: haimret
第二章 異世界からの来訪者
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担いで飛び降りるときは相手に気を使いましょう

 とある日の放課後の出来事であった。


 夏に入ったからなのか、露にもかかわらずじりじりと肌を焼くような快晴の日差しと不快な湿気と照り返しの熱で屋上は地獄と化していた。


「よく飽きないですね」


 普通の少女である山田 由愛は蒸し暑さの中でもやる気が衰えていない2人を見てげんなりとした表情で言った。さっきからずっとにらみ合っている2人とは違ってふらふらしているようであった。


 その一方でやる気満々ですと言った様子の2人。負毛 馬皇と真田 真央は互いににらみ合いながら言った。


「飽きるとかそんなんじゃねぇよ。これから(まお)との戦いだからな。勝ち越して圧倒しないと魔王なんて言えねえ。あと山田さん、きついなら言えよ。戦いの場所変えるから」

「腹が立つことに全く同意見ね。だけど由愛。無理だけはしちゃいけないわよ。さっきからふらふらしてるじゃない」 


 お互いににらみ合うのをやめずに挑発し合うが、由愛の事を気に掛ける事も忘れない。


「だ、大丈夫ですぅ」


 顔色は悪いが大丈夫と答える由愛。どう見ても大丈夫そうには見えない状態であった。


「「ハァ……」」


 割と頑固なところを見せる由愛に馬皇と真央は2人して同じようにため息をつくと目で短くやり取りをすると行動を開始した。


「場所を移すわ。いい所があるからついてきなさい。それと先に何か飲み物を」


 真央は屋上のフェンスに手をかけて軽く跳び上がると校舎の裏手の方へ飛び降りる。馬皇たちと同じような行動をする真央に由愛は状況が読み込めず呆然とする。


「分かった」


 馬皇はそう言うと自身のカバンから水筒を取り出す。コップに冷えたお茶を入れると由愛に差し出す。


「ほら。飲め」

「え? でも……」


 馬皇はためらう由愛にそれ以上は何も言わずに強引にコップを渡す。


「このまま倒れる方がヤバい」

「わ、分かりました」


 さすがにそこまで言われると断れないと踏んだのか由愛は水分を補給する。


「ありがとうございます」

「よし。ポーションは効いたようだな」


 お茶? を飲みきってから馬皇は由愛の体調が良くなったのを確認すると由愛を担いだ。


「え? ポーション? え?」


 事態が呑み込めない由愛は馬皇にされるがままになる。真央と同じように馬皇はフェンスに軽いジャンプで乗っかる。学校の周辺が一望できるくらいに細い足場に安定した状態で立つとそのまま屋上とフェンスの反対側の地上である校舎裏の方へ飛び降りようとする。担がれてこれから起こることがワンテンポ遅れて嫌な予感に馬皇を見る。


「あの? 何だか嫌な予感がするんだけど?」


 馬皇は先程真央が飛び降りた屋上の端の所細い足場を伝って歩いていく。由愛は状況をようやく理解した。これから飛び降りるんだと。


「大丈夫だ。少し浮遊感があるが、慣れれば気持ちいいぞ?」

「それは……ひゃあああぁぁぁ‼」


 由愛が何かを言おうとするが、その前に馬皇は飛び降りた。ものすごい風圧を感じる。


 そして、落下しているという感覚が由愛の不安を煽る。実際に時間にすればほんの数秒である。


 しかし、それすら由愛にはとても長く感じていた。地面があと少しという所まで迫ると衝撃を想像して由愛は目と閉じる。衝撃はいつまでたってもやってこなかった。


「おい? 大丈夫か? 衝撃は全て殺したんだが……。何かあったら言ってくれよ」


 目を開けてみると目の前には馬皇がいた。さっきまで肩でかつがれていたはずなのにいつの間にか抱きかかえられていたのだ。混乱しない方が無理がある。


「あわ、あわわわわ…」


 由愛はいろんな感情が混ざり合って変な声を上げる。家族以外の男が目の前にしかも抱きかかえられている状態にあっという間に思考の許容量を超える。そして気絶した。


「あっ……。やっべ‼ おい、真央‼ 山田さんが気絶したぞ‼ やっぱ暑さにやられてたみたいだ」

「このっ‼ 違うわっ‼ 馬鹿たれ‼ せめてちゃんと説明してから飛び降りなさいよ‼ あと空中でお姫様抱っこに変えるな‼ 危ないでしょ‼」


 理不尽に怒られることに馬皇は文句を言う。


「だってよ。こうでもしねぇと山田さんに地面にぶつかった時の衝撃を与えちまうからそうならないようにするにはこうするしかなかったんだよ‼」

「まったく‼ ……はぁ。とにかく場所を変えるわよ。見られないように裏の方に飛んだけど、ずっとここにいるのは目立つわ」


 真央はため息をつくと馬皇の言い分を無視して移動を始める。馬皇は「納得がいかねぇ」という表情をするが黙って真央の後をついて行く。校舎によって出来た日陰のある裏道は風が通っていて比較的涼しかった。


 しばらく歩いて体育館の裏の方まで来るとそこは焼却炉が1つあるだけでそれ以外は何もない開けた空間がそこにあった。


「ここは夏場涼しいからよく来てたの。しかも、他の人はほとんどやってこない穴場なの。ここなら人目を気にせずに思う存分戦えるでしょ」


 真央は「どうだっ‼」というように腰に手を当てて馬皇に言った。


「確かにここなら戦うには問題ないな。しかも、山田さんに負担をかけない感じだな。やるじゃねか」

「そ、そう」


 素直に感謝されて真央は恥ずかしいのか顔が赤くなった。馬皇は近くにある建物を背に由愛を置く。


「おい。山田さん。大丈夫か?」


 揺すって声をかける。少しすると反応が返ってきた。


「ん……。あれ? ここは?」

「お‼ 気が付いたか? ここは校舎裏だ。涼しい場所に移動したんだ」


 少し曖昧なのか由愛はボーっとしていた。


「そうですか。って、いきなり飛び降りないでください。ビックリしたじゃないですか‼」


 さっき起こったことに由愛は怒った。いきなりされれば起こるのも当然である。


「いやぁ。すまんすまん。つい癖で」

「癖ってなんですか‼ 癖って‼」


 珍しく由愛は怒っていた。


「今度気をつけるから許してくれ」

「つーん」


 どうやら許してくれないようだった。由愛はそっぽを向く。そんな由愛に馬皇は心底申し訳なさそうに手を合わせる。


「すまん。この通りだ‼ なんかおごってやるから許してください」


 馬皇はその場の勢いで土下座をする。このまま機嫌を損ねて審判をしてくれなくなると今から新しい人材を連れてくるのは骨だ。それだったらここで謝った方がマシなのだ。それにせっかく仲良くなったのにけんか別れして次の日に教室で顔を合わせるのは何と言うか気まずい。馬皇はなんとしてでもそれは避けたかった。


「……ジーニアスのジャンボパフェ」

「えっ?」

「ジーニアスのジャンボパフェで許してあげます」


 学校の近くにあるカフェ『ジーニアス』のパフェを所望していた。確か、あそこのジャンボパフェと言えば一杯1000円という中学生には手痛い金額のものだ。だが、おごってやると言った手前、馬皇はその要求をのんだ。


「ぐぐっ‼ ……良いだろう。男に二言はねぇ」

「分かりました。許します。この後に行きましょう。それで今日は何をするんですか?」


 あっさりとした許しに馬皇は呆然とするがこれで許してくれるのならばと思い今日の勝負について話し出した。


「今日はトランプ持って来たんだ。ポーカー。ルール大丈夫か?」

「ぷいっ」


 何故か口で言ってそっぽを向く真央。変な奴だと思いながら馬皇は言った。


「どうしたんだよ? いつにも増して変な声だしやがって。気持ち悪いな」

「失礼ね‼ 私にも……」


 馬皇の辛辣な発言に真央は突っ込みを入れるが、そっぽを向いたまま馬皇に何か言おうとしている。馬皇は真央の意図が読めずにたずねた。


「何が言いたいんだ?」

「ふふん。私にも奢りなさいよね」

「なんでだよ?」

「ふーん。そんなこと言うんだ?」


 ニヤリとして勝算があるというような顔をしていた。馬皇は動揺する。


「あ、ああ。おごる理由はないからな」


 本当に理由がないと馬皇は言う。淡々と真央は言った。


「あなたの友人探しの件」

「おい。まさか……」


 ここで、あの時のことを使ってきた。


「そう。その報酬の話」

「鬼かっ‼ お前はっ‼ 別に、い、今じゃなくてもいいだろ‼」


 馬皇にとってはもう少し後で勝負の時に使うのだろうと思っていたのだろう。しかし、ここで真央は使ってきた。


「今じゃないとイヤよ?」


 にっこりと真央はいい笑顔をする。確かに貸しを作った。ここで小遣いを削ってくるとは思わなかったのか馬皇は慌てて自身の財布を確認する。


「あぁ‼ もうっ、分かった一緒におごってやるだけど一杯だけな‼ じゃねぇと金が足りねぇっ‼」

「ふふっ。まいどありぃ♪ まっ、元々勝負に貸しを使う気はなかったからね。正々堂々と圧倒してやるわよ」


 なんというか真央の勝負についての考えは漢らしかった。馬皇の財布の将来は冬が到来するが……。


 由愛は二人が何を言っているのか分からなかった。だが、馬皇が何かをしでかして真央の世話になったということだけは分かった。2人のやり取りに本当に仲が良いなという風にニコニコとして見守った。


「で? 勝負はどうする?」

「そうね。交換一回の一回勝負でどうかしら?」

「いいぜ。俺の豪運で目にもの見せてやらぁ」


 馬皇は近くにあった廃棄予定の机を見つけて持ってくると勝負を始める。馬皇と真央は自信満々に手札を交換する。


「2枚だ」

「そうね。ハンデよ。全交換」

「勝負を捨てたか?」


 真央の手札がよほどよくないのか手札を全て交換する真央。


「そんな訳ないでしょ。4カードよ」

「っ‼ マジかよ。くそむかつく」

「ふふん」


 余裕の表情で4枚の同じ数字のカードを見せると馬皇はそれに腹を立てる。


「恨みっこなしだ」

「ええ」


 そのまま馬皇と真央はカードを公開する。今日の勝敗は馬皇がツーペア、真央がフルハウスで真央の勝ちだった。


「言ったでしょ。私の方が強いって」

「くっそぉぉぉぉぉぉ‼ 今日は厄日か‼」


 馬皇は悔しさのあまり膝をついた。こうして財布も軽くなる上に勝負にも負ける馬皇であった。

 勝負はあっさり。やっぱりやりたいことから遠ざかっているような……。この後フラグ回収予定。

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