20話
「うまくいったな」
「ええ。惹きつけてくれたおかげで楽出来たわ」
馬皇と真央はうまく宗次朗を含めた取り巻きたち全員を一網打尽にすると真央は馬皇の元へやってきてハイタッチをした。お互いにうまくいった事が嬉しいのか手を叩く音は高く軽快である。
「えげつないな……」
その一方でアストリアは馬皇と真央を見てそうつぶやく。
馬皇たちがやった手口は簡単である。馬皇が時間を稼いで死角から真央が魔法で電撃を放つというもの。要は不意打ちである。その過程で確実に仕留めるために相手が動けなくなる様に足元の影と靴を引っ付けたり、色々な対策を取っているであろう特殊なスーツを抜くために宗次朗たちが気付かない様に真央が調整したりと手間がかかっているがそれだけであった。
「卑怯でも何でも勝てば何も問題ないわ」
「油断してるのが悪い」
アストリのつぶやきが聞こえていたのか馬皇たちは悪びれもなくそう答える。そこに良心の呵責はなく、清々しいくらいに自信満々な即答である。
「とりあえずうまくいったけど、このまま起きて抵抗されても嫌だから、とりあえず身ぐるみを剥いで拘束してからにしましょう」
「だな。それで、話を聞くのはここで柳瀬だけでいいとして残りはどうする?」
「そのまま魔物の餌にしてもいいんだけど、裸のまま警察署の前にでも転移させましょう」
「いいな。それ」
「うわぁ」
「えっと……。下着だけは残してあげてくださいね」
「分かってるわよ。さすがに知らない相手の下半身のモノを見る気はないわ」
さらっと容赦ない話を進めていく馬皇と真央。嬉々として話を決めていくその姿にアストリアだけでなく、ユメリアも仲間に加わって声が漏れた。由愛は若干ズレた事を言っているが、良心が痛んでいるのか口元を引きつらせて戸惑ながら提案すると真央の配慮(?)のある言葉が返ってくる。
「それはそうと。アストリア。何か縛るもんないか?」
「それだったら。……と、これは?」
そんな状態のアストリア達に馬皇が話題を変えるように縛る物を要求すると、アストリアは少しの間、部屋の奥に入って行ってからビニール紐を持ってきて渡す。
「うーん。他にはなかったのか?」
「これしかなかったわ」
「人間を縛る頑丈な縄なんて普通の家庭とかにある訳ないじゃない。大体は縛れればいいんだからそんなもんでしょ」
「それもそうか」
「ビニール紐をよこしなさい。魔法で強化するわ」
真央の言葉に馬皇は納得すると真央に投げ渡す。真央は軽い放物線を描いたビニール紐の束を優しく受け止める。
「おう。頼む」
「出来たわ。ほら」
「速い‼ まだ話を始めて1秒も経ってない‼」
「おう。サンキューな」
馬皇が頼んでから一瞬もしない内に真央は魔法をかけ終える。
見た目は先程のビニール紐と全く変わらない。が、はっきりと魔力が込められているビニール紐を馬皇に投げ返す。馬皇は真央と同じように受け止めると足元に束を置く。そこから紐の一部を出して手と足で紐を固定するとソラスを呼び出してから紐を手ごろな長さに切り離した。
「それでいったい何を縛るつもりなのよ? 下手すればこの辺の大型の魔物くらいだったら余裕で拘束できるじゃない……」
「ここで気絶してる人たちよ? 当たり前でしょ?」
アストリアがたずねると真央はなぜそんなことを聞くのか分からないといった様子で頭をかしげて答える。その答えにアストリアは「だよねぇ」と肩を落とす。
ただのビニール紐であるが真央がどれだけの魔法を込めたのかアストリアには理解できた。だが、それでもアストリアからしてもありえない量の魔力で強化されたただのビニール紐である。いかにも安物で薄っぺらなビニール紐は最低でも下手な安物のワイヤーよりも頑丈になっている。
アストリアと真央の会話を横に馬皇は最初に1人ずつ簡単には逃げ出せない様に固く縛っていく。
「いえ。何でもないわ。それよりもそこまで魔力込めちゃったら警察の人とか縄切れないんじゃ?」
「あ」
「考えてなかったのね」
その発想には至らなかったのかアストリアの言葉に真央は間抜けな感じの声が上がる。その声にアストリアは真央たちが割と後先を考えないタイプであると確信してから真央たちをジト目で見る。
「あ、あいつは普通に切ってるし問題ないわ」
「あれは基準にしちゃいけないでしょ」
「確かに」
「おい。どういう意味だ」
真央は馬皇の行動を基準にして答えるが、アストリアの常識的な返答に納得するとあっさりと手のひらを返す真央。その納得の仕方に不満しかない馬皇は話に割ってはいるがスルーされたまま話は続けられる。
「でしょ。さらっと真央が強化した紐を魔剣で切るとか……フツウニカンガエテアリエナイ」
「別に問題ないだろ? 刃物なんて必要な時に切りたいものを切るための物だからな。こういう時もある」
「それはそうなんだけど……」
アストリアがジトッとした目で馬皇を見て言った。
それに対して馬皇が答えるがアストリアは釈然としない。普通に持っている方が希少である魔剣を持っているのに使ったのは真央が強化したビニール紐を切っただけ。あまりにもしょうもない使い方であるが、間違ってはいないためにアストリアは何とも言えなくなる。
「それよりも終わったぞ。柳瀬以外は送ってくれ」
そうこうしている内に馬皇は全員を縛り終えて宗次朗を椅子に固定する。宗次朗以外はまとめて縛り上げられており、居座っていた部屋の中心にまとめられている。
「了解。送るわ」
それを見た真央は転移用の魔法を脳内で構築を始める。
「おう。頼むぜ。後、サライラは柳瀬が起きたら知らせてくれ」
「分かりましたわ‼ ついでにいかにお父様が素晴らしいか刷り込ませてしておきますわ」
気合十分なサライラは馬皇の言葉に元気良く答えた。余計なことをしそうな雰囲気と共に碌でもない計画が口に出たあたりで馬皇は止める。
「……逃げないようにするだけでいいからな。するなよ。絶対にするなよ」
「それはフリですか?」
「ちげぇからな‼」
「はーい」
馬皇の言葉に少しだけ残念そう返事をするサライラ。その姿に一抹の不安を覚えるが言った事は必ず守るタイプであると馬皇は自分に言い聞かせる。
「準備できたわ」
そんな話をしながらも真央は馬皇とサライラがやり取りをしている間に転移用の魔法を完成させてから起動。身ぐるみを剥がされ下着一枚にされた男たちの姿が消える。
「そんな雑談とかの片手間で転移魔法見せられるとか。最近の人間というよりも子供たちはどうなってんの?」
「こいつらと一緒にされても困るぞ。我はあんなことは出来ん」
「そうですね。お2人は色々と規格外なので」
あっさりと転移を成功させた真央を見て、価値観の崩壊しそうなアストリアがつぶやく。
サライラや馬皇については同族でもあるため訳が分からなくても一応は納得できる。竜というのは理不尽な存在だからだ。それだけ種族の壁というのは厚い。
しかし、真央に関しては訳が分からなかった。アストリアも魔法にはそれなりの自信はあり真央と同じことは一応出来るが、それは時間をかければの話である。あんな話の片手間、しかも短時間で行える訳ではない。
「「なんか納得がいかない(ぞ)」」
由愛たちの評価に馬皇と真央は声を揃えるがアストリア達はそれで納得がいったのか和やかな雰囲気を醸し出す。
「お父様。そろそろ起きそうですわ」
「そうか。助かる。サライラ」
「えへへぇ」
サライラが報告すると馬皇はサライラを撫でる。それを全身で喜びを表すサライラ。2人の間で甘い空気を漂わせている間に意識が回復してきたのか宗次朗の頭が動く。
「うっ。……」
「よう。お目覚めかい?」
意識を取り戻した宗次朗に馬皇は言った。
更新しました。倒した敵を縛るだけなのに文章が進む謎。次回は尋問? 回。
いつも読んで下さりありがとうございます。読んで下さったり、ブクマとか評価したりしてくださいますとテンションが上がりますのでこれからもよろしくお願いします。
ブクマ。増える。嬉しい。これでまだ戦える。といった感じで思考力低下させながら喜んでます。




