14話
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「ううむ……」
ハンターズギルドの見学で馬皇たちのステータスを測った数日後。薬の件と馬皇たちが巻き込まれた件は馬皇たちも戦闘に参加しているということで京子から調べてから、鉄に報告するという事でその日は解散となった。そんな京子の情報が今日届くことになっている。
そんな用事のある日の放課後の教室でHRが終わってからも馬皇は目の前にある物とにらめっこをしていた。
「何1人で唸ってるのよ? って、まだ書いてなかったの?」
そんな様子の馬皇に真央は話しかけると馬皇がずっと見ている物を見て呆れた。机の上には進路希望調査書。進路希望の第1から第3までの記入欄は見事に空白であった。
「あん? なんだ。真央か。いや、どうにも何も浮かんでこなくてな」
「あんなの適当でいいじゃない。どうなるか、どうしたいかなんてすぐに決まるものじゃないわよ。私もまだ書いてないけど現状であればどの方面の高校に進むかくらいでしょ」
「それもそうだが、なんとなくな」
真央はそう言うが馬皇は何とも歯切れの悪い答えを返す。そんな様子の馬皇になんとなくじれったくなったのか真央は言った。
「それは別に今日提出しなきゃいけないって訳じゃないんだし後で考えなさいよ。それに鉄先生からこの前の事を聞くんでしょ? 由愛たちは先に行かせたわよ?」
「そうか。わりぃな。すぐ準備するわ」
馬皇も優先することは分かっているため真央に頭を下げる。素直な謝罪に真央も調子が狂ったのか顔をそらす。
「早くしなさいよね‼ まったく‼」
「わかってる」
進路調査票を雑に鞄に閉まってから帰りの支度を終える馬皇。
「終わったわね。それなら行くわよ」
「あいよ」
真央と教室を出てから生徒指導室へと歩を進める馬皇たち。相も変わらず1年たっても生徒指導室は重厚な鉄の扉が鎮座しており、そこの管理をしているのは鉄である。馬皇たちが3年になり担任となった今でも生徒指導と兼任しているため放課後は基本的にここにいる。
「「失礼します」」
「おう。来たか」
重そうと言うよりも実際に重い鉄の扉を難なく開ける馬皇。実は別にそこからでなくても横には普通の扉があるが馬皇は気づいていないのか意地でもそこから入るのにこだわっているのか鉄の扉から入る。実の所、その扉を開けるのは学校の力自慢たちの一種のステータスとなっているが、それを成功させた者はこの扉が出来てから今までに数えるほどしかいない。そのため馬皇がその扉を開けると見ていた周りがざわめくが、馬皇は大して気にしていないのか重々しい音と共に扉を閉める。
「毎回思うんですがどうして馬皇さんはそこから入るんですか? 一応別に入口があるのに?」
「そうなのか?」
扉を閉めた後、由愛が前々から疑問に思っていたことをたずねる。すると、本当に気が付いてなかったのか馬皇が逆にたずね返す。
「え? 気づいてなかったの?」
その馬皇の反応に真央の方が思わず声を出す。
「んなこと言ったってな。あんだけ目立つ扉だったら他の扉とか探さねぇだろ? 普通。それにそんなに重くないぞ」
「そんな訳ないでしょ‼ 由愛とかユメリアみたいなか弱い女子とか普通の生徒とかいるのにどうやって話聞きだすわけよ‼ 多分普通に叩いても気が付かないわよ‼」
「……おお」
「……か弱い。我そんなに弱くないもん……」
ようやく馬皇もそのことに思い至ったのか納得する声を上げる。真央の発言にユメリアが巻き込まれて肩を落とす。
「そんなことよりも話聞かなくていいのか?」
「分かってるわ。それで? 鉄先生? ギルドの方からはどんな話が来たんですか?」
「そんなこと……。我ヨワクナイのに」
真央の言葉と馬皇の納得にいらぬダメージを負うユメリア。そんなユメリアをスルーして話を進める馬皇たち。
「ああ。その日は災難だったな。話は来ているぞ」
「それならお願いします」
真央の問いに鉄が答えるとその続きを促す。鉄も真剣な様子で話を始める。
「この前の件だが、アマノハラの依頼の件とドンピシャだそうだ」
「そうか。という事はその供給元も検討が?」
いつの間にかユメリアは復活してたずねる。その質問に鉄は頭を横に振った。
「それについてはNOだ。尋問の途中にお前たちが捕まえた女が死んだ」
鉄の死んだという言葉に由愛の顔がこわばる。ユメリアはある程度予想が出来ていたのかあまり驚きを顔に出さずに怒ったであろうことを口に出す。
「口封じだろうな」
「その想像で当たりだろうな。しかも、その口封じした奴も魔物と化して少なからずギルドの方にも被害が出たそうだ」
「なんとも胸糞わるくなる話だな」
鉄から出てきた情報に馬皇もさすがにうんざりとした表情を隠さずに言った。その様子に鉄も同じ気持ちなのか頭を縦に振る。
「だな。ただ、サイコメトリー系の異能者がいてくれたおかげで何とか最低限の情報だけは手にすることは出来たようだ」
「場所は?」
「この市の内外に売買している場所が複数あるとのことだ。さすがに生産場所までは出てこなかったがな。そこから情報を集めて今日の夜に奇襲をかける予定になっているそうだ」
「それは私たちも参加できるの?」
真央がたずねる。真央の問いに鉄は頭を横に振った。
「慌てるな。まず、ハンターズギルド側から互助会への要請はない」
「という事は参加できないのね」
「ああ。しかし、向こうもプロだ。よほどの想定外が無ければ間違いなく成功するだろう」
「それならどうして俺たちに情報を与えたんだ?」
「それは少なからずお前たちが関わっているからだ。それにこちらからある程度の情報を与えておけば勝手に向かないだろ?」
「それでも俺たちが探しに行くって言ったら?」
「その時は止めはせん。行くも行かないも自由だ。それにこういう時に監視なり規制なりして締め付けるとどこかの誰かが反抗して勝手な事をするからな」
「だって? 言われてるわよ?」
「いやいや。お前の方がそれらしいだろ?」
「何よ?」
「なんかあんのか?」
鉄が言うと馬皇と真央は擦り付け合うように言い合う。それが起爆剤となり馬皇と真央がにらみ合う。
「いいえ。何もないわ。ふっ」
馬皇の態度に真央は青筋を立ててから挑発するように鼻で笑う。その様子に馬皇も腹を立てたのか同じように口元を引きつらせながら答える。
「そうか。俺もだ」
「お前たちのどっちにも言える事だからな。馬皇は友人を探すために無茶をした前科があるし、真田も修学旅行中に何度か旅館を抜け出した事を俺が知らないと思うなよ」
「「うっ」」
ケンカ寸前の馬皇と真央に鉄は釘をさす。さすがに言い返せないのか馬皇と真央はうめき声を上げる。
「つまり、我たちはこのまま大人しくしていろという事でいいのか?」
「ああ。事態が解決するまでは部活なども自粛して学校の下校も早めに行うつもりだ。それと俺たち教師陣も見回りの強化で巡回することになる」
「そこまでの事態なのね」
教師陣の巡回という言葉に真央がたずねた。そのことを目ざとくたずねる真央に鉄は言った。
「残念ながらな。どうにもその薬とやらはお前たちのような一部の学生にも渡っているらしい。見かけたら連絡するように。以上だ。何か質問ある奴はいるか?」
鉄がたずねると質問はないのか馬皇たちに反応はない。それを確認すると鉄は鉄扉を開ける。馬皇たちは鉄と一緒に生徒指導室を出ると鉄は扉を閉める。
「俺はこれから巡回だ。くれぐれも危ないことに首を突っ込むんじゃないぞ」
馬皇たちと廊下に出てから鉄はさらに念を押す。その様子に馬皇は少し面倒くさそうに言った。
「分かってるって。先生。俺たちを信用しろよな?」
「そうか。危なくなったら周りに助けを求めるんだ。山田達がいるんだから無茶はするんじゃないぞ?」
「ああ。もちろんだ。それよりも先生の時間は大丈夫なのか?」
「む。もうこんな時間か。気を付けて帰るんだぞ」
馬皇がたずねると鉄は腕時計を見た。さすがに時間なのか鉄は少し急ぎ足気味に歩き始める。
「分かってる。先生も気を付けろよな」
「おう。それじゃ、行ってくる」
馬皇がそう言うと鉄も軽く右腕を上げて返事をする。そのまま鉄は巡回のために他の教員に合流するべく去っていった。
少しもやっとした感じですがこれからが本番です




