12話
更新しました
3人組の中の男2人が無言のまま迫る。刀を持った茶髪と身の丈とほぼ変わらない大剣を持った黒髪の男たちは真央の目の前まで来るとお互いに真央から見て左右に対極になる様に別れた。
「ふぅん」
真央はそんな2人に対して慌てた様子もなく相手を見てつぶやく。それを見た男たちは真央が完全に油断していると判断してうなずくと同時に攻める。
「「はぁぁぁぁぁ‼」」
男たちは雄たけびを発しながら大剣は大きく縦から迫り、刀は大剣から逃げられない様に横に薙ぐ。様子からして興奮しているのか真央を狙った剣の軌跡に躊躇いはない。多対一においての数の有利を活かした同時攻撃。先ほどの講師の男のように大剣を意識すれば刀が、刀を意識すれば逆の大剣が襲い掛かり中途半端にどちらも意識すればその両方にやられるという仕組みである。
その凶刃でさんざん挑発してきた真央を仕留める姿を想像し男たちの凶暴な笑みを浮かべる。が、その顔はすぐに驚愕に変わった。
「なっ‼」
「っんだと‼」
「ふふ。息ぴったりね。今のやり取りは面白かったわ」
呼吸の合った言葉の流れに真央は余裕の表情で笑みを浮かべる。そこには真央に触れることなく大剣と刀が空中で静止していた。男たちは力を込めるが押すことも引くこともできず、見えない何かに拘束されて動くことが出来ない。
「何をしやがった‼」
「何って……。見て分からないの?」
大剣を持った男が拘束を解こうともがきながら真央に叫ぶと真央は煽る。
「っは‼ バカにしやがってぇぇぇ‼」
「落ち着け‼ 挑発に乗るな‼」
大剣の男は激昂する。それを見た刀の男は現状を打破するために大剣の男をなだめる。同じように拘束され自身もまた抜け出せないためにその声には苛立ちが募っていた。それを見た真央は呆れた様子で言った。
「はぁ。その程度の力で私の拘束が引きちぎれるわけないでしょ? このまま愉快なオブジェとして一生を終えたくなかったら私の質問に答えなさい」
「はっ‼ 誰がちんちくりんに答えてやるかよ‼」
「同感だ。ガキが調子に乗るなよ‼」
「そう。それが答えなのね」
「「‼」」
真央が上から目線でそう言うと男たちは真央を罵倒する。真央は絶対零度ともいえるレベルの冷たい眼で男たちを見て言葉を発した。その言葉に男たちの背筋から体を震わせる。
「私は鬼じゃないから答えてくれたら気絶だけで勘弁してあげようと思ってたけど気が変わったわ。徹底的にいたぶってあげる」
真央の豹変具合に男たちは体をさらに震わせる。それは精神的なものだけではなく物理的に辺りが真央を中心に凍りつく。一帯が氷に覆われ男たちが巻き込まれそうになる瞬間、真央の背中が爆発した。
「何やってるの‼ さっさとこっちに来なさい‼」
「助かった‼」
「すまん」
不意打ちの爆発で真央の圧力が止み、氷の侵食も止まる。男たちは一気に女の元に戻った。
「手ごたえはあったけどあの威力じゃあれは倒せないみたい。そうなると今の私たちじゃ傷も負わせれないわ。だから追加よ」
「そうだな。あれがあればあのガキを超えられる」
「ああ。あれがあればあのちんちくりんなんて余裕だな」
女の言葉に大剣の男と刀の男が同意する。真央が立ち上がる。完全に不意打ちを成功させたと思っていたが真央はほぼ無傷であった。
「良くもやってくれたわね」
不意打ちを込められたことを根に持っているのか真央は冷静に男たちに話しかける。無傷の真央に女は舌打ちしてから男たちに言った。
「っち。……3つよ。それで恐らく超えられるわ」
「わぉ。太っ腹‼ どんだけ強くなれるんだろうねぇ‼ 」
「いいのか?」
「ええ。どう考えても状況は良くないのは分かっているわ。ただ、目の前の化け物を倒さないとこの場から逃げても直ぐに捕まる。それなら賭けになるけど、私が使うよりもあなた達を強化する方が確率が高いわ」
「いいね‼ いいねぇ‼ 俺好きだよそういうの‼」
「分かった。受け取ろう。どうせ逃げ場はないからな」
女の意見に同意する男たち。真央は話をしていた3人組を見てからまだ終わらないの? と言った様子で相手を挑発する。
「何? まだなんか隠し玉でもあるの? やるんならさっさと見せて頂戴よ。せっかく待ってあげてるんだから」
「野郎‼ 舐めやがって‼」
「あら? 私は女よ? 野郎じゃないわ」
「揚げ足ばっかとりやがってこの雌ガキァァァ‼ 寄越せ‼」
「はい」
その挑発に乗って刀の男は激昂する。男が女に手を差し出すと女は白い粒を渡す。
「これがあれば俺はさらに強くなれる‼ そうなれば‼ ぐっ‼」
「‼」
刀を持った男がそう言うと同時に白い粒を飲み干す。大剣を持った男も同じように同じように女から白い粒を受け取りそれを飲む。飲み込んでから数秒。2人の体が大きく跳ねる。
「ふふふ。来たみたいね」
「うおぉぉぉぉ‼ キタ‼ キタ‼ キタァァァ‼」
「力があふれる‼」
女が言うと同時に力がみなぎってきた昂揚感から男たちの口から声が漏れる。先程よりも一回り大きな体つきになり体が赤くなる。
「「ウオォォォォォ‼」」
そこから段々と高揚感のある声が雄たけびに変わり、体つきも体色も同じになる。真紅の体に金の瞳。まるで鏡合わせのようにそっくりな男たちだったモノは変身を終えると真央の方を見る。敵意をむき出しにして真央を睨むがまだ動きださない。その様子に真央は唯一飲んでいない女にたずねる。
「それが切り札かしら?」
「ええ。名前はシンプルに強化錠。魔物の力を取り込んで人間の持つ潜在能力を解放する薬よ」
「そうなの。貴女は使わないの?」
薬の事を饒舌に語る女に真央はたずねた。
「そんなの嫌に決まってるじゃない。この薬は確かに強化してくれるけど、その分副作用として理性が削られるわ。そして、最後は薬を与えた人間のいう事しか聞かない兵器になるわ」
「その副作用の事は言ったのかしら?」
真央の質問に女は嬉々として答える。そんな女を見て真央は顔をしかめてたずねた。
「ええ。教えたわ。もちろん一粒飲んだ後に、ね。1粒飲めば自分の都合のいい事しか理解しなくなるけどね。私は力を得たいという男たちの願いを叶えた。それだけよ」
「最低ね。貴女」
「それはどうも。私にとっては褒め言葉だわ。それにこれで終わりよ。行きなさい」
真央は嫌悪感を隠すことなく女に言った。それを女は涼しい顔をして答える。女が言い終わると同時に男たち命令を下す。真央と敵対していた時の記憶があるのか真央に向かって真っすぐ突っ込んで行く、2人もとい2体。
「……はぁ。正直がっかりだわ」
「え?」
真央はため息を1つ吐くと期待外れと言った様子で言ったと同時に結果が出ていた。男たちは真央の半径3mに入り込んだ瞬間。動きを止めた。真央が軽く手を叩くとその振動で男たちが砂のように崩れ落ちた。
「それで? その程度の強化しかない薬はどうやって手に入れたのかしら?」
何事もなく真央は戦闘などなかった様子で女に問いかける。女は自慢げに解説した商品を与えて強化された男たちが一瞬で崩壊したことに呆然としている。
「別に答えなくてもいいけど、あなたからそれなりの情報を貰わないといけないの」
「っ‼」
男たちをためらいなく塵にした真央にようやく女は事態を理解した。まだ年下であるはずの真央のためらいのなさや戦いにすらなっていない現状。自分も同じように消されることを感じ取る。逃げられないと理性では分かっていても女は脇目も振れず逃走した。
「あ。そっちには私並のがもう一人いるから。って言っても遅いわね」
「もう少し早く言ってやれよ」
「そんなの決まってるじゃん。わざとよ。わざと」
入口の方面に走る女に真央は忠告する。が、その言葉は女に届くには遅すぎた。女が気付かない速度で背後に回り込み馬皇が一撃で気絶させる。女は何が起こったのか理解する間もなく倒れ込んだ。うまくいったという様子で真央は満面の笑みを浮かべる。
「さいで。しばらくは起きないと思うが、なるべく早めに縄か何かで拘束する必要があるな」
「そうね。逃げられたら腹立つし縄なり拘束具なり来るまで私が固定しておくわ」
馬皇がそう言うと真央は先程男たちの動きを止めた様に魔力で固定する。
「頼んだ。京子さん」
「分かりました。すぐ用意して来ます」
真央の提案に馬皇が乗ると京子の名前を呼ぶ。京子もすることが分かっているため拘束用の縄を取りに駆け出した。
少し難産




