11話
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突然来た揺れとそれから少し遅れて正面から流れ込んだ衝撃に京子を含めて、馬皇たちはバランスを崩す。振動自体は短かったが、その後の衝撃でアリーナ内の窓ガラスが割れた。
「全く‼ 何よ‼ もう‼」
吹き飛ばされた先で真央は起き上がると同時に感情のままに衝撃のあった方向に叫んだ。
「ホントだぜ‼ 危ねぇだろうが‼」
真央の言葉に馬皇も同意なのか叫ぶ。馬皇は真央ほど吹き飛ばされていないが由愛とユメリアを咄嗟にかばったのか2人を並べたその上に覆いかぶさりその死角になる様にサライラが背中に引っ付いていたの状態ではあるが。
「あ、ありがとうございます」
「う、うむ。助かったぞ」
「気にすんな。それよりも何でそんなに顔そむけてんだ?」
「えっと……その……」
咄嗟にかばわれた由愛とユメリアは馬皇に礼を言う。馬皇も気にしていないのか由愛たちの礼に答える。答えると由愛たちが顔を馬皇から逸らしていることに気が付いてたずねた。それに由愛が戸惑うように言いよどむと、背中に引っ付いていたサライラが馬皇に乗ったままジトッとした目で由愛の前に顔を出して由愛を見る。馬皇の後ろからいきなり出てきたように見えたサライラの顔と指摘に由愛の顔は先程の顔を逸らしている時よりも真っ赤になる。
「お父様がかばってくれたのが嬉しいけどこんな至近距離で顔を見られなくなってるだけですわ」
「っ‼」
馬皇も鈍い所はあるが、そこまで酷くはないのかサライラの指摘を聞いてからすぐに起き上がった。
「……守るためとはいえ、さっきのはあまり良くなかった。すまなかった。今更だが大丈夫か?」
「は。はい」
「あ、ああ。大丈夫だ」
馬皇が起き上がると申し訳なさそうに由愛たちに手を差し出して引っ張り起こす。差しのべられた手を取って起き上がる際と立たせてから手を放す瞬間に、由愛とユメリアは若干名残惜しそうな顔をするが状況が状況のためすぐに元の表情に戻る。そんな様子をまたいつ馬皇の背中から降りたのか分からないサライラがじっと見ていたのに気が付いて由愛たちは気まずそうにする。
「それとサライラ。あの衝撃でどうなるのか分からない状況で俺の背中に乗るのは危ないだろ」
「あの程度ならお父様は絶対に吹き飛ばされないと思ってましたから問題ありませんわ。それに将来の妻としてお父様のお背中をお守りしたかったですの」
そんな様子で見ていたサライラに馬皇はサライラが吹き飛ばされる瞬間に馬皇の背中に引っ付いたことを注意する。それに対して馬皇はため息をつくと言った。
「それでお前がケガをしたら本末転倒だろうが。お前も俺の大切なものの中に入ってるんだから無茶するなよ」
「それは……。結婚と受け取ってもよろしいので?」
「なんでそうなる‼」
馬皇の発言にごくりと喉を鳴らして真剣な表情で場違いなことを口にするサライラ。それに対してツッコミを入れる馬皇。
「あの。夫婦漫才している状況ではないのですが?」
「お父様‼ 夫婦ですって‼」
「あぁ~。分かったから落ち着け」
馬皇とサライラに対して京子はそういうとサライラが興奮する。それを馬皇がなだめている間に京子は由愛とユメリアに話しかける。
「2人共無事で何よりです」
「はい」
「こちらは大丈夫だ。そっちは?」
「はい。大丈夫です。基本的に職員はどんな事態にでも対応できるように訓練しておりますので」
「そうか」
京子に無事を伝えるとユメリアは平気そうな京子にたずねた。その疑問に京子が答えるとユメリアは納得したのかうなずいた。
「それよりも何があった?」
「それについてはまだわかりませんが、向こうの講習で何かあったのは確実ですね」
京子はアリーナの奥の方へと指をさす。講習が行われていたはずの場所には指導される側らしき3人と講師らしき職員の制服を着た1人が相対している。馬皇と真央が叫んだり、全員で安否の確認で普通に会話したりと気が付いてもおかしくない状況であったがお互いに目の前の相手に集中しているのか馬皇たちに気が付いた様子はない。
そして、明らかに尋常ではない状況であった。講師と思わしき男は衝撃に至近距離で巻き込まれたのかすでに服もみすぼらしい状況であり、大きなけがをしているのか遠目から見ても分かるくらいには服のわき腹辺りを血でにじませていた。相対する3人は男2人と女1人で何かの優越感に浸っているのかニタニタと笑みを浮かべ尋常ではありえないような不穏な雰囲気を纏わせてで相手を見ている。
「せっかく人が少しワクワクしてたのに‼ 邪魔した奴ら全員、絶対にシバイてやるんだから‼」
しばらくの間は落ち着くために喋るのを自重していたが目の前の状況を見て自分の興味のあることを邪魔されたことに対しての怒りが抑えきれなくなったのか真央は物騒なことを口にする。
「全くだ。吊し上げるんなら手伝うぜ」
真央の発言にそれについては同意なのか馬皇も参加することを表明する。
「そう。でも、今回のあれは私の得物よ。手を出さないで」
「そうかよ。俺も頭に来てんだが?」
「だったら逃げ出さない様にしてちょうだい。ああいった小物って勝てないと分かったら逃げ出すから。恐怖心煽ってあんたの所に誘導はするけど。その時は追わないからその時にでも発散しなさいよ」
「おう。いいぜ。それとサライラ。大丈夫だとは思うが念のために由愛たちを」
「分かりましたわ。由愛。サライラこちらへ」
馬皇が指示を出すとサライラは由愛とユメリアを自分の後ろへ誘導する。由愛たちはそれに無言で従う。
「ギルド内部の出来事なので私たちが処理したいのですが? って言っても止まらないのでしょう?」
好戦的な状態の馬皇と真央に京子は確信しているのかため息混じりでたずねる。その問いに馬皇は苦笑する。
「悪いな。目の前で巻き込こまれて、しかも相手がいるのに俺たちが我慢できる訳ないだろ?」
「それは分かります。目の前で自分に被害が来たら私でも怒りますので」
「だろ?」
「ですが、それはそれ。これはこれです。我々も事態の収拾に努めなければ信用にかかわりますので」
「そうか。なら、俺らがやった後の始末を頼む。あいつも俺もやる気満々だし中途半端に止めると今のあいつが何するか分からんからな。それとどうにもあの3人の様子がおかしい」
「そうですね。それなら戦闘経験ありという事なら講習の体験という事にしておくのでよろしくお願いします。現状一般の方はここにはおられませんので他言無用という事でお願いします。それと報酬については後日、鉄様とあなた方のご両親様とお話して決めるという事でよろしいでしょうか?」
「OK。俺たちは暴れられる。京子さんたちのギルドは事態を収拾できる。悪くないだろ?」
「なら。もう動いてもいいわよね‼」
馬皇が交渉してある程度簡潔に纏めるとそれに異論はないのか京子はうなずいた。それを見た真央が待ってましたとばかりにタイミングよく声をかける。
「くれぐれもお気をつけて。問題が起こった場合の責任は私と所長が取りますが、なるべく証拠を残さないために施設を壊さない様にお願いします」
「分かったわ」
そう言って真央は言うのと同時に魔法が発動する。アリーナを覆う規模の魔法陣に先程まで笑みを浮かべていた3人が戸惑いの表情を見せる。
「捕まえた」
真央がそういうとアリーナの景色は一変する。一変するとはいっても物が増えたり、何か現実離れした物が現れたわけではない。
変わったのは色合いだった。アリーナは公共の体育館をイメージしているのか木の色がほとんどである。真央の魔法による改変によって、それを真央の魔法によって全体が暗い灰色に様変わりすれば戸惑うのは当然であろう。正面切って戦っていた職員らしき男もその空間の変わり様に同じように困惑している。
「あんた達ね。私たちを巻き込んだのは‼」
「誰だ‼ お前は‼」
空間を変化させた真央は職員らしき男の前に立って言った。動きを止めている3人組に対してそう言うとそのリーダらしき男が真央に向かって叫ぶ。
「……っぐ。君‼ 下がってなさい‼」
職員らしき男は自分よりもはるかに年下、それも先程まで相対していた3人組よりもさらに幼い見た目の少女が割って入ってきたことを注意する。
「増援よ。それに京子さんに許可を貰っているわ」
「……何?」
真央は職員の男にそういうと顎で後ろをさす。その仕草に職員の男は後ろを向くと京子が居てその横には馬皇がいつでも出られるようにスタンバっている。職員の男は京子に支援を送ると大きく縦にうなずいたことが分かる。
「そうか。助かる。それで、だ。私は誰を相手すればいいんだ?」
「何言ってるのよ? 全部私が貰うわ」
「何を言っている‼ 無謀だ‼ それに小さい子が戦っているのに私が出ない訳ないだろう‼」
真央の言葉に職員の男は激昂する。
「あなたこそ何言ってるのよ。そんなボロボロで戦えるわけないでしょ。ここは私に任せて下がりなさい」
「何をっ‼」
真央はこれ以上は話す気がないのか、そのまま京子の前に職員の男を転移させる。いきなり大きく距離を取って京子の横に飛ばされた男は先程以上に混乱する。それを見た3人組は真央に対して警戒心を急上昇させて構える。
「さて、と。邪魔はいなくなったし。私の憂さ晴らしに付き合ってもらうわよ」
一色触発な状況に真央がそう言うとそれなりに連携できるのか各自別々に真央の視界から漏れるように散開すると同時に襲い掛かってきた。
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