7話
部屋に入ってから土下座を繰り出す優男に馬皇たちは後ずさりした。
「本人も反省しているのでこれで手打ちにしていただけると幸いです」
それを見ながら京子もその隣に立って馬皇たちに頭を下げる。
「えっと……その。もう気にしてませんから」
「本当かい‼」
「ひっ」
由愛がそれに答えると優男は一瞬で起き上がって由愛の手を握る。それに由愛が驚き小さく悲鳴を上げると後ろから京子がチョップする。
「何をするんだい。俺一応ここのトップだよね!?」
「そうやってすぐ調子に乗る。トップだろうとなんだろうとまだ職務中だというのに節操のないあなたには適当な処置です。他の支部長にも許可は頂いていますよ」
「え? それ知らないんだけど‼」
「あ。これは支部長にだけは秘密でした。いけない。いけない」
「ちょっと‼ なにそれ‼ そんなのすごく気になるんだけど‼」
「それにそんなんだからもてないんですよ」
「ぐはっ」
京子の口撃がクリティカルヒットしたのか口から血を吐くような動作だけして崩れ落ちる。顔は青い。
「申し遅れました。これがこの街のハンターズギルドの支部長である柳瀬 宗次朗です。中学生相手にもためらいなくナンパするロリコン野郎です」
「その紹介は止めてぇぇぇ‼」
そう叫んで膝をついた優男:宗次朗にさらに容赦なく言葉を投げつける京子。それによって顔が青かったのが今度は白くなっていく。
「お、おい。宗次朗さんと言ったか? 大丈夫か?」
さすがにそれを見ていた馬皇が心配になって話しかける。気づかいの言葉が嬉しいのか宗次朗は少しだけ復活する。
「ああ。ありがとうな」
「中学生に慰められる大人……」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
崩れ落ちた宗次朗に京子が止めを刺す。その様子にさらに一歩後ずさる。
「どうすりゃいいんだよこれ?」
「さぁ? 漫才が終わるまで待てばいいんじゃない?」
「「漫才ちゃうわ(ではないです)‼」」
馬皇が呟くと真央がそれを聞き取ったのか適当な感じで答える。さすがにそれは許容できないのか宗次朗と京子の声が重なった。
「息ぴったりね」
「だな」
馬皇と真央がそう答えると一緒に居る由愛たちは「お前たちが言うのか」と言わんばかりに呆れた眼で馬皇と真央を見る。由愛たちの視線に少し居心地が悪いのか馬皇は言った。
「と、ところでユメリアは依頼の事で話があるって言っていたがいいのか?」
「その話か? そうだったな。京子さんだったか? ここに着いたらこれを渡してくれと」
ユメリアはおもむろにポケットから明らかにサイズの合っていないB5サイズの封筒を取り出して渡す。手渡された宗次朗は困惑気味につぶやいた。
「ポケットからそのサイズの封筒が折り目1つなく出てくるってどうなってるんだよ?」
「深く詮索はしないのが常識ですよ。恐らくあれは陰陽術か魔術で別の空間に格納しているだけです。それよりも中身を」
「分かっている」
宗次朗は封筒の中身を取り出すと京子と一緒に確認する。確認し終えると宗次朗と京子は目を合わせてから宗次朗がうなずく。
「内容は分かった。それで、だ。そこにいる子達には聞かれても問題ないのかい?」
宗次朗は真剣な表情でユメリアにたずねるとユメリアが即答する。
「ああ。依頼の内容は我も聞いているし彼らに聞かれても何も問題ない。むしろ彼らの方が詳しいかもしれない」
ユメリアの言葉に馬皇たちは頭をかしげた。心当たりがない
「そうかい。それならこの依頼『人間を魔物化させる薬物の発見及び製造元の特定』は受けさせてもらうよ。これに関しては全国に連絡は?」
「それについては問題ない。隠密たちの情報によるとその薬の売人は今この街のどこかにいるらしい」
「それは確かな情報かい?」
「ああ。売人が逃げ出した時に使った道をたどり、我の占いの結果この街に潜伏しているのは間違いないだろう。アマノハラの占いの精度は知っているであろう?」
ユメリアがそう答えると宗次朗は納得してうなずく。
「分かった。それとこのことについて彼らも一部の事を知っていると言っていたが本当かい?」
宗次朗は馬皇たちを見る。馬皇たちも心当たりがあるのか馬皇は真央と視線を合わせると馬皇が代表して言った。
「ああ。とは言っても知っているのはそんなに詳しくはない。去年の夏休みに異能を与える薬物と言っていた。それを飲んだ奴が魔物になったのを見たことがある。その後に死んじまったけどな」
その最後に宗次朗は何とも言えない顔をする。
「その薬の出処は?」
「WCAって言ったら分かるか?」
「知っています。世界の変わる前までは世界に名だたる大企業の1つですね。あの日の事件から社長と一部の社員たちが姿を消したまま未だに捕まってないのだから厄介極まりない所だと。しかも、どこに潜んでいるのか分からないとも」
馬皇の質問から割と詳しい解説をする京子。それに馬皇は驚くが説明を続けた。
「それとあの時は掲示板で売っているのを見つけたな。その元凶であるWCAに殴り込んだが結局逃げられた。その後もアマノハラでも最後の最後に屋久島と皆月が現れたな」
「そうね。しかも、皆月の異能は厄介だわ。転移で自由に好きな場所に行き来できるとなると対策取らないと簡単に逃げられるわ」
「それと何よりも面倒なのはこの薬を売っているのがWCAじゃない可能性もある」
「ほう? それは?」
馬皇と真央のセリフに宗次朗は眉間にしわを寄せる。
「魔物化させるのはあくまで副作用。どういう売り文句で売っているのか全く分からないのが問題ね。それに大量に買ってそれを転売するとか今の状況だけじゃ判断しようがないわ」
「なるほど……。京子さん」
「分かりました」
宗次朗のいいたいことが分かるのか京子は短いやり取りだけで部屋を出て行く。
「情報提供感謝するよ。とりあえずこの情報を元に探らせてみるという事で」
「それで異論はないぞ」
「そうしてくれると助かる。魔物を相手にするという仕事上そういう力を得られる物はのどから手が出るほど欲しいと言う者が現れてもおかしくはないからね。それととりあえず1週間ほどで情報をまとめるからもう一度来てくれるだろうか?」
「分かった。それと今更なんだけどただのナンパじゃなかったんだな」
「はは。それは勘弁してくれよ」
ユメリアがそう言うと宗次朗は苦笑する。それと同時に京子が部屋に帰ってきた。そのまま馬皇たちと宗次朗の間に立つと宗次朗に報告する。
「戻りました」
「相変わらず仕事が早いね」
「もちろんです。早いに越した事はないでしょう?」
「ああ。もちろんだとも。それとこの子達にナンパのお詫びとして施設の見学の案内をしようと思うんだけどどうだい?」
馬皇たちに宗次朗はたずねる。馬皇たちもこの施設が興味あるのか全員が頭を縦にうなずく。
「分かった。京子さん。頼めるかい?」
「了解しました。という訳で当施設の見学の案内をさせていただきます。体験もありで?」
「ああ。京子さんの自由に案内してもらって構わないよ」
「分かりました。それではこれから案内しますね」
宗次朗がたずねると京子は馬皇たちの方に向いて言った。それに対して馬皇たちも異存はないのか頭を下げた。
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
次回はハンターズギルドの見学と体験




